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これが本当の混浴透明風呂?②

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 しばらくすると、今度は聞きなれた声が耳に入ってきた。
「沙希ちゃんは、色が白いねえ」・・これはおそらく男バージョンの青山先輩。
「青山先輩、さわらないでくださいっ」と小清水さんが儚げな声で抗議している。
 青山先輩! 一体小清水さんのどこを触っているんだよ!
「沙織ちゃんも来ればよかったのにねえ・・気持ちいいわぁ」と池永先生の艶っぽい声。
 青山先輩が「沙織はシャイなのさ」と言って、
「今日は、鈴木くんの胸を揉んだせいで、揉み癖がついてしまったよ」と言っている。
 女子と言うのは男子のいない所でこんな会話をしているものなのか? それとも青山先輩だけのことなのか?
 それに、揉み癖って何だよ!
 と・・言うよりも、さっき小清水さんが「触らないで」と言っていたのは、胸のことだったんだな。小清水さんの胸・・
 ・・だめだ。一人で風呂に入っていると、妄想が膨らむ一方だ。
 ちっとも湯の効能など分からない。

 その時、ガラガラと入口のガラス戸が開く音がした。脱衣場の風がどっと浴場に流れ込んできた。
 一人で湯に浸かっている時間もお終いだ。もう上がろう・・
 あれ? 
 さっき、ガラス戸の音がしたはずなのに、人が入ってこない・・
 石畳の上をぴちゃぴちゃと歩く音がする。

 再び風が止まると、湯面は立ち昇る湯気でもうもうとして視界が悪くなる。
 ぴちゃぴちゃ・・やはり誰かいるぞ・・
 だが、浴場内のどこを見ても、誰の姿も見えない。

 ひょっとすると、戸の開閉は隣の女子風呂で、歩く音も、隣の音だ。
 青山先輩か他の誰かが、歩いているのだろう。
 僕の耳が良すぎるせいだ。
 ・・・なあんだ。そう考えると不思議でも何でもない。不思議な物事にはちゃんと理由がある。
 その通り、耳を澄ませば色んな音が耳に入ってくる。
 隣の女子風呂の声はもちろんのこと、遠くの車のエンジン音、旅館の方を見上げれば、賑わう大広間の宴会の声、子供の声まで耳に届く。
 そして、湯をすくい上げると、湯が落ちる音、湯面を跳ねる音。
 そんな中、最大の音・・いや、声が僕の耳に入った。
 それは・・
「鈴木くん」
 それは僕の名を呼ぶ声だった。
 同時にじゃぽんっと誰かが湯に浸かる大きな音がした。
「うわあっ!」
 僕は男らしくない雄叫びを上げていた。
 無理もない・・僕から一メートルも離れていない湯面にぽっかりと穴が開いたのだ。
 それは何かの漫画で見た四次元空間のようにも見えた。
 こんな穴を僕は以前どこかで見たことがある。
 直近の記憶・・それはあの大プールで、
 って、僕がプールで透明化したときの水の凹みと同じじゃないか!

 こんなことが出来るのは、透明人間しかいない。
 僕のよく知っている透明化能力を持つ人間。
  その名は当然・・速水沙織!

 そう思った時、隣の女子風呂から、
「おーい・・鈴木くん」と池永先生の艶やかな声が聞こえた。
「何か、あったの?」と心配する青山先輩。
 大きな声を出してしまったせいで、えらく注目を浴びてしまった。

「何でもないです!」と僕は即座に答えた。
 もし、僕の横の湯に速水さんが浸かったのなら、僕の裸が丸見えだ!
 速水さんは透明で僕からは見えないが、速水さんの方からは僕が見える。
 僕は慌てて、湯から飛び出ようとし・・・
 待ったあっ!
 出ちゃいけないだろっ。僕は丸裸だろっ、出た瞬間に全部見られるじゃないか!
 
「鈴木くん、この湯に浸かっていれば、首から下は見えないわよ」
 やっぱり速水さんだった。
 速水さんの言う通り、この湯は有馬の金の湯だ。赤銅色で湯面より下は全く見えない。

「は、速水さん・・ここは男子風呂だぞ!」
 僕は速水さんに猛抗議した。
「あら、それくらいわかっているわよ」
 速水さんはそう言い、
「私、自分の体を他の子に見られたくなかったのよ」と言い訳のように言った。
 ・・うーん。そんなの言い訳でもなんでもないが、

 以前、速水さんは言っていた。
 自分の体には養父によって傷つけられた痕があると。
 その証のような傷跡は男だろうが同性だろうが。見られたくない気持ちはわかる。
 わかるつもりだ。だからといって、僕の横に来ることはないだろう。

「あの、速水さん、そういう目的だったら、わざわざ、男子風呂に入ることはないだろ。女子風呂の方が理に適っているじゃないか?」
 少し間を置いて、
「・・それだと、話相手がいなくてつまらないわ」と速水さんは言った。
 僕だけが速水さんの相手になれるっていうことか・・ま、それもそうだが・・と妙に納得してしまう。
「速水さん、他の知らないおっさんとか入ってきても知らないぞ! むさくるしいものを目撃することになるぞ。速水さんも一応乙女だろ」
 乙女の危機だぞ!
「あら、私のこと、乙女扱いしてくれるのね」と言って、「その時は、鈴木くんだけを見ているようにするわ」
 それも困る!
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