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「鈴木くんだけが、私を好きじゃない」
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◆「鈴木くんだけが、私を好きじゃない」
僕は水沢さんに尋ねた。
「それからもあったの? 水沢さんの頭の中に、声が入ってくることが」
僕の問いかけに、水沢さんは、
「時々だけど、あったわ」
女性同士の嫉妬とかの声も聞こえそうだ。
「クラスメイトが、私の悪口を言っているのが聞こえたこともあったわ」
それ、辛いよな・・陰口が伝わってくるだけでも気分が悪いのに、実際に頭の中に入ってきたりしたら・・僕だったら耐えられないかもしれない。
「でもね・・高校に入って、ゆかりと知り合ってから、少し楽になったわ」
加藤ゆかり・・それで水沢さんと加藤は仲がいいのか。タイプが全然違うのにいつも一緒だな、と思っていた。 そんな理由があったのか。
「他の子は、打算的に私に近づいてくるのがわかるの・・けど、ゆかりは純粋に私と向き合ってくれた・・だから、私の不思議な体質のことも少し話したのよ」
そうだったのか・・
「ゆかりは大事な友達よ」
水沢さんは「いい友達が出来たのはよかったのだけど・・」と言って、少し顔を暗くし、
「次第に・・クラスの男子の視線が・・声が・・頭の中に」
そう水沢さんは声を落として言った。何か、厭な物の蓋を開けるように。
ぎくっ!
男子って・・もしかして、僕の心が・・
これはちょっと、まずいぞ。まずすぎる!
現に今だって、僕の心が伝わっているかもしれない。
なんてことだ、今頃、それに気づくなんて!
気づくのが遅すぎる! 心を閉ざしたりすることはできないのか!
だが、今のこの状況下では、僕は話を続ける水沢さんに向き合うことしかできない。
「思春期を迎えた頃になると、今度は男の子の声や心が頻繁に聞こえたり、伝わってくるようになったの」
予想通りだ・・どうしたらいい?
「気がついた時には、クラスの男の子のほとんどが、私に好意を持っていることがわかったわ・・変でしょ、自分でそんなことを言うなんて」
普通の女の子が言ったら、どこか自慢しているようなセリフだが、水沢さんの言葉には信憑性がある。だってそれが本当だと、僕は知っているからだ。
まずい・・これはまずいぞ。
以前、僕は水沢さんを思う気持ちは誰にも負けない、とさえ思っていた。
それがこんな所で暴露されたりしたら、
それも、この際、好都合か?・・じゃないっ!・・
僕はこの思いをずっと心の奥深く仕舞っておこうと思っている。それなのに、ばれてどうするんだよ!
「中には、私の体を舐め回すような、厭らしい心や声もあったわ・・」
いるいる、そんな男子を何人も僕は知っている。
けど、僕はそんなことは思っていない・・
いや、それも自信がない。なくなってきた。
そんなことを言われたら、逆に気になってきた。
そう思わなくても、水沢さんの胸元とかに視線がつい行ってしまう。
まずいっ!
こうなったら、水沢さんに指摘される前に、言っておこう。
「水沢さん・・僕は・・」
僕がそう言いかけた時、
「でもね・・」
そう言って水沢さんは今日一番の笑顔でこう言った。
でも?
「鈴木くんだけが、私のことを見向きもしていないことがわかったの」
えっ・・
えーっ!
水沢さんは姿勢を直し、髪に指を入れて無造作に梳きながら、
「私、嬉しかった・・すごく」
嬉しかったって・・僕が水沢さんのことを見ていないのが嬉しいのか?
一体どういうことだ? わからない・・
「他の子は、何か別の・・男子特有の・・ちょっと言いにくいんだけど・・そんな別の目的で近づいてくるの・・でも、鈴木くんだけが、私を純粋にクラスメイトとして見てくれた」
そんな説明をする水沢さんに、
僕は頭を掻きながら「そ、そうかな、僕、そんな風だったかな?」
何を照れてるんだよ! 照れている場合じゃないだろ。
これは・・
一つ考えられるのは、水沢さんが人の考えていることがわかるというのは、ただの妄想、いや、幻想だということだ。
それしか考えられない。
だって、僕は初めて出会った時から、水沢さんのことを思い続けてきたのだから・・
ああ、どう説明したらいいんだ。この感情はどこへ持っていけばいい?
「水沢さん・・か、勘違いかもしれないよ」
「鈴木くん、何が勘違いなの?」
水沢さんは素敵な笑顔でそう言った。幼い頃のいやな思い出を語っていた水沢さんとは違って気が晴れたかのように見える。
「僕もただの男子高生だ」
ああ、僕は何を言っているんだ。口が勝手に動く!
「僕も、他の男子と同じように、イヤらしいことを考えているかもしれないよ」
そうだ。僕はただの男子として水沢さんを見て、そして、恋している。
そして、イヤらしいことも考えている。
だが、そう言った僕に対して、
水沢さんは首を振って、「違うわ」と言った。
「だって、鈴木くんの目は私を素通りしているんだもの」と、また笑みを浮かべながらそう言った。
「素通り?・・」
「そうよ・・素通り・・私を見ていても、鈴木くんは別の子のことを考えている・・そんな気がするの」
別の子?
「どう・・けっこう当たっていると思うわよ」
そう断定するように水沢さんは言った。「鈴木くんは、もっと遠くの女の子を見ているのね」
別の人・・遠くの人
思い当たらないこともない・・
それは、妹のナミが引っ張り出してきた詩集のモデル、
真夜中の夢・・草原の向こういる少女・・
もう一人の純子。
だが、それはもう終わったはずだ。
とっくの昔に心の奥底に仕舞い込んだはずだ。
僕が今見ているのは水沢純子だ。
・・でも、水沢さんは言った。
「鈴木くんは別の子のことを考えている」と。
これって、水沢さんにふられたっていうことなのか?
いや、僕が水沢さんの恋愛の対象外になったことを意味するのか?
けど、僕は・・水沢さんのことをもっと知りたい。
僕は水沢さんに尋ねた。
「それからもあったの? 水沢さんの頭の中に、声が入ってくることが」
僕の問いかけに、水沢さんは、
「時々だけど、あったわ」
女性同士の嫉妬とかの声も聞こえそうだ。
「クラスメイトが、私の悪口を言っているのが聞こえたこともあったわ」
それ、辛いよな・・陰口が伝わってくるだけでも気分が悪いのに、実際に頭の中に入ってきたりしたら・・僕だったら耐えられないかもしれない。
「でもね・・高校に入って、ゆかりと知り合ってから、少し楽になったわ」
加藤ゆかり・・それで水沢さんと加藤は仲がいいのか。タイプが全然違うのにいつも一緒だな、と思っていた。 そんな理由があったのか。
「他の子は、打算的に私に近づいてくるのがわかるの・・けど、ゆかりは純粋に私と向き合ってくれた・・だから、私の不思議な体質のことも少し話したのよ」
そうだったのか・・
「ゆかりは大事な友達よ」
水沢さんは「いい友達が出来たのはよかったのだけど・・」と言って、少し顔を暗くし、
「次第に・・クラスの男子の視線が・・声が・・頭の中に」
そう水沢さんは声を落として言った。何か、厭な物の蓋を開けるように。
ぎくっ!
男子って・・もしかして、僕の心が・・
これはちょっと、まずいぞ。まずすぎる!
現に今だって、僕の心が伝わっているかもしれない。
なんてことだ、今頃、それに気づくなんて!
気づくのが遅すぎる! 心を閉ざしたりすることはできないのか!
だが、今のこの状況下では、僕は話を続ける水沢さんに向き合うことしかできない。
「思春期を迎えた頃になると、今度は男の子の声や心が頻繁に聞こえたり、伝わってくるようになったの」
予想通りだ・・どうしたらいい?
「気がついた時には、クラスの男の子のほとんどが、私に好意を持っていることがわかったわ・・変でしょ、自分でそんなことを言うなんて」
普通の女の子が言ったら、どこか自慢しているようなセリフだが、水沢さんの言葉には信憑性がある。だってそれが本当だと、僕は知っているからだ。
まずい・・これはまずいぞ。
以前、僕は水沢さんを思う気持ちは誰にも負けない、とさえ思っていた。
それがこんな所で暴露されたりしたら、
それも、この際、好都合か?・・じゃないっ!・・
僕はこの思いをずっと心の奥深く仕舞っておこうと思っている。それなのに、ばれてどうするんだよ!
「中には、私の体を舐め回すような、厭らしい心や声もあったわ・・」
いるいる、そんな男子を何人も僕は知っている。
けど、僕はそんなことは思っていない・・
いや、それも自信がない。なくなってきた。
そんなことを言われたら、逆に気になってきた。
そう思わなくても、水沢さんの胸元とかに視線がつい行ってしまう。
まずいっ!
こうなったら、水沢さんに指摘される前に、言っておこう。
「水沢さん・・僕は・・」
僕がそう言いかけた時、
「でもね・・」
そう言って水沢さんは今日一番の笑顔でこう言った。
でも?
「鈴木くんだけが、私のことを見向きもしていないことがわかったの」
えっ・・
えーっ!
水沢さんは姿勢を直し、髪に指を入れて無造作に梳きながら、
「私、嬉しかった・・すごく」
嬉しかったって・・僕が水沢さんのことを見ていないのが嬉しいのか?
一体どういうことだ? わからない・・
「他の子は、何か別の・・男子特有の・・ちょっと言いにくいんだけど・・そんな別の目的で近づいてくるの・・でも、鈴木くんだけが、私を純粋にクラスメイトとして見てくれた」
そんな説明をする水沢さんに、
僕は頭を掻きながら「そ、そうかな、僕、そんな風だったかな?」
何を照れてるんだよ! 照れている場合じゃないだろ。
これは・・
一つ考えられるのは、水沢さんが人の考えていることがわかるというのは、ただの妄想、いや、幻想だということだ。
それしか考えられない。
だって、僕は初めて出会った時から、水沢さんのことを思い続けてきたのだから・・
ああ、どう説明したらいいんだ。この感情はどこへ持っていけばいい?
「水沢さん・・か、勘違いかもしれないよ」
「鈴木くん、何が勘違いなの?」
水沢さんは素敵な笑顔でそう言った。幼い頃のいやな思い出を語っていた水沢さんとは違って気が晴れたかのように見える。
「僕もただの男子高生だ」
ああ、僕は何を言っているんだ。口が勝手に動く!
「僕も、他の男子と同じように、イヤらしいことを考えているかもしれないよ」
そうだ。僕はただの男子として水沢さんを見て、そして、恋している。
そして、イヤらしいことも考えている。
だが、そう言った僕に対して、
水沢さんは首を振って、「違うわ」と言った。
「だって、鈴木くんの目は私を素通りしているんだもの」と、また笑みを浮かべながらそう言った。
「素通り?・・」
「そうよ・・素通り・・私を見ていても、鈴木くんは別の子のことを考えている・・そんな気がするの」
別の子?
「どう・・けっこう当たっていると思うわよ」
そう断定するように水沢さんは言った。「鈴木くんは、もっと遠くの女の子を見ているのね」
別の人・・遠くの人
思い当たらないこともない・・
それは、妹のナミが引っ張り出してきた詩集のモデル、
真夜中の夢・・草原の向こういる少女・・
もう一人の純子。
だが、それはもう終わったはずだ。
とっくの昔に心の奥底に仕舞い込んだはずだ。
僕が今見ているのは水沢純子だ。
・・でも、水沢さんは言った。
「鈴木くんは別の子のことを考えている」と。
これって、水沢さんにふられたっていうことなのか?
いや、僕が水沢さんの恋愛の対象外になったことを意味するのか?
けど、僕は・・水沢さんのことをもっと知りたい。
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