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僕は君のために、彼女は誰のために?③
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すると、
「そんなの私たちの勝手でしょ! あなたたちに関係ないじゃないですか!」水沢さんはそう言った。
びっくりするくらいの大きな声だ。
そして、
「鈴木くん、こんな人たちにかまわないで行きましょう」と言って、僕の手を握った。
一瞬で、手が、顔が、心が熱くなる。
「えっ・・でも、加藤さんを待ってるんじゃないの?」と僕は言った。
しまった!
ばれた!
「なんだ。やっぱり違うじゃんかよ」
「道理でな・・こんな存在感のなさげな奴が、美人さんの彼氏なわけないもんなあ」
彼らはそう言うと、腹を抱えるように笑い出した。
何がおかしい・・
僕は存在感がないどころか、透明にだってなれるんだぞ!
ああ・・僕は激しく後悔していた。
こんなに恥をかき、問題も解決できないのなら、最初から透明になって、こんな下劣な奴ら、殴ってやるんだった。
「いっそ、退屈しのぎに、こんな奴、やっちまおうぜ」
「ああ、そしたら、純子ちゃんが、俺たちに惚れるかもな」
何かのドラマのように彼らは指をぽきぽきと鳴らし始めた。
・・純子ちゃん、だと! こいつら、水沢さんを純子・・と。
「み、水沢さんの名を、気軽に呼ぶな!」
声が自然と出ていた。
「え、何て言った? 聞こえないぜ、僕」
男たちはそう言っておどけた。
「隙だらけだぜ!」
太った方がそう言ったかと思うと、僕の肩をずんと突いた。
肩にかけた鞄がぶらんと揺れ、同時に体が大きくよろけた。
僕は足を踏ん張らせながら、
僕の心は・・僕の狭く小さな心は・・怒りに暴発しかかっていた。
「鈴木くん、もういいわ。いきましょう」水沢さんが声をかける。
「ダメだ!」
何がダメなのかわからない。僕はこの場から逃げ出したくなかった。
足がガタガタと震えてくるのがわかった。
いっそ、この場で透明に・・
もうばれたってかまうもんか!
透明化して、あんな奴ら・・
その時だった。
驚くことが二つ、ほぼ同時に起こった。
一つは・・水沢さんがこう言ったのだ。
「・・来るわ」
そう確かに水沢さんは言った。「誰かが来る」と言う意味なのか?
二つ目は・・考える間もなく、
僕の左耳に熱い息がかかった。
「ほんと・・世話の焼ける彼氏さんね」
歌うような速水沙織の小さな声だった。
僕は「はや・・」と言いかけて口をつぐんだ。
けれど、速水さんの姿は見えない。速水さんは透明化している。ここに来るとき、部室のドアが開きかけていた。おそらく、僕らの姿を見て降りてきたんだろう。
「鈴木くん、心の暴発はダメよ」
そう速水さんは耳元で囁いた。
息遣い、足跡・・速水沙織が肌が触れ合うくらいに近くにいるのがわかる。
その声は水沢さんに聞こえているのだろうか?
「おい、こら、どうした? どっちを向いてやがる。誰としゃべってるんだ?」
「こいつ、頭がおかしいんじゃないのか?」
ザクザク・・乾いた地面の砂利を速水さんが踏みしだいていくのがわかった。足跡がぽつぽつと付いていく。
速水さんが彼らの背後にまわったのが見て取れた。
そして、速水さんは二人の男にこう言ったのだ。
「あら、頭がおかしいのはどちらかしら?」
いつもの速水さんの口調だ。
その声に驚きの声を上げ、男たちは振り返った。けれど、周囲には誰もいない。
「あれ?」
まるで狐につままれたような顔をする。顔が泳ぐ。
次の瞬間、痩せた方の男が「うわっ!」と変な声を上げて倒れ込んだ。
太った男が「おい、どうした!」と呼びかける。
おそらく、速水さんが渾身の力で突き飛ばしたのだろう。
相手が見えないと女性の力でも男を倒せるのかもしれない。
僕と水沢さんはそんな様子を声も出せずに見るだけだった。
倒れた男は半身を起こし、
「だ、誰かに突き飛ばされたんだ!」と肥満男に言った。
「おい、何を言ってるんだよ。誰もいないじゃないか?」
そう言っているが、この男も速水さんの声を聞いている以上、ある程度は信じている。
次にまた速水さんの声が聞こえた。
「あなた・・ちょっと太り過ぎよ」
速水さん一流の皮肉口調が炸裂する。
男は「えっ・・今、何て?」と呆けたような口調で言った。
辺りをキョロキョロする太った男の視線はどこともなく彷徨う。
動揺した男は、拳を振り上げ、まるで、エアパンチでもするように空気を殴り始めた。
拳が空を切り、意味のない空振りを繰り返す。
そんな中、速水さんの悲鳴が一瞬聞こえたような気がした。
「そんなの私たちの勝手でしょ! あなたたちに関係ないじゃないですか!」水沢さんはそう言った。
びっくりするくらいの大きな声だ。
そして、
「鈴木くん、こんな人たちにかまわないで行きましょう」と言って、僕の手を握った。
一瞬で、手が、顔が、心が熱くなる。
「えっ・・でも、加藤さんを待ってるんじゃないの?」と僕は言った。
しまった!
ばれた!
「なんだ。やっぱり違うじゃんかよ」
「道理でな・・こんな存在感のなさげな奴が、美人さんの彼氏なわけないもんなあ」
彼らはそう言うと、腹を抱えるように笑い出した。
何がおかしい・・
僕は存在感がないどころか、透明にだってなれるんだぞ!
ああ・・僕は激しく後悔していた。
こんなに恥をかき、問題も解決できないのなら、最初から透明になって、こんな下劣な奴ら、殴ってやるんだった。
「いっそ、退屈しのぎに、こんな奴、やっちまおうぜ」
「ああ、そしたら、純子ちゃんが、俺たちに惚れるかもな」
何かのドラマのように彼らは指をぽきぽきと鳴らし始めた。
・・純子ちゃん、だと! こいつら、水沢さんを純子・・と。
「み、水沢さんの名を、気軽に呼ぶな!」
声が自然と出ていた。
「え、何て言った? 聞こえないぜ、僕」
男たちはそう言っておどけた。
「隙だらけだぜ!」
太った方がそう言ったかと思うと、僕の肩をずんと突いた。
肩にかけた鞄がぶらんと揺れ、同時に体が大きくよろけた。
僕は足を踏ん張らせながら、
僕の心は・・僕の狭く小さな心は・・怒りに暴発しかかっていた。
「鈴木くん、もういいわ。いきましょう」水沢さんが声をかける。
「ダメだ!」
何がダメなのかわからない。僕はこの場から逃げ出したくなかった。
足がガタガタと震えてくるのがわかった。
いっそ、この場で透明に・・
もうばれたってかまうもんか!
透明化して、あんな奴ら・・
その時だった。
驚くことが二つ、ほぼ同時に起こった。
一つは・・水沢さんがこう言ったのだ。
「・・来るわ」
そう確かに水沢さんは言った。「誰かが来る」と言う意味なのか?
二つ目は・・考える間もなく、
僕の左耳に熱い息がかかった。
「ほんと・・世話の焼ける彼氏さんね」
歌うような速水沙織の小さな声だった。
僕は「はや・・」と言いかけて口をつぐんだ。
けれど、速水さんの姿は見えない。速水さんは透明化している。ここに来るとき、部室のドアが開きかけていた。おそらく、僕らの姿を見て降りてきたんだろう。
「鈴木くん、心の暴発はダメよ」
そう速水さんは耳元で囁いた。
息遣い、足跡・・速水沙織が肌が触れ合うくらいに近くにいるのがわかる。
その声は水沢さんに聞こえているのだろうか?
「おい、こら、どうした? どっちを向いてやがる。誰としゃべってるんだ?」
「こいつ、頭がおかしいんじゃないのか?」
ザクザク・・乾いた地面の砂利を速水さんが踏みしだいていくのがわかった。足跡がぽつぽつと付いていく。
速水さんが彼らの背後にまわったのが見て取れた。
そして、速水さんは二人の男にこう言ったのだ。
「あら、頭がおかしいのはどちらかしら?」
いつもの速水さんの口調だ。
その声に驚きの声を上げ、男たちは振り返った。けれど、周囲には誰もいない。
「あれ?」
まるで狐につままれたような顔をする。顔が泳ぐ。
次の瞬間、痩せた方の男が「うわっ!」と変な声を上げて倒れ込んだ。
太った男が「おい、どうした!」と呼びかける。
おそらく、速水さんが渾身の力で突き飛ばしたのだろう。
相手が見えないと女性の力でも男を倒せるのかもしれない。
僕と水沢さんはそんな様子を声も出せずに見るだけだった。
倒れた男は半身を起こし、
「だ、誰かに突き飛ばされたんだ!」と肥満男に言った。
「おい、何を言ってるんだよ。誰もいないじゃないか?」
そう言っているが、この男も速水さんの声を聞いている以上、ある程度は信じている。
次にまた速水さんの声が聞こえた。
「あなた・・ちょっと太り過ぎよ」
速水さん一流の皮肉口調が炸裂する。
男は「えっ・・今、何て?」と呆けたような口調で言った。
辺りをキョロキョロする太った男の視線はどこともなく彷徨う。
動揺した男は、拳を振り上げ、まるで、エアパンチでもするように空気を殴り始めた。
拳が空を切り、意味のない空振りを繰り返す。
そんな中、速水さんの悲鳴が一瞬聞こえたような気がした。
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