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幽霊が怖い②
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「あの部屋・・出るのよ」
囁くように青山先輩は言った。
「出るって、何がですか?」
「幽霊よ」
その言葉を聞いた瞬間、僕は全てを理解した。
速水さんだ!
何をやってるんだ、速水さんは!
幽霊って・・池永先生が言っていた旧校舎の幽霊の噂のことだろ。
速水さんは自分の能力で人を怖がらせて、休部に追い込んでいるんじゃないか。
速水さんがいつどこで透明になったのかは知らないけれど、青山先輩のいる所で透明になったのは間違いないだろう。
思わず笑いが込み上げてくる。青山先輩の「こわい」と言った理由をあれこれ考えていた思考がとけていった。
そして、そんな青山先輩の子供のような怖がりようが可笑しかった。
「君、今、笑ったわね」
青山先輩は少し剣幕顔だ。
「すみません・・幽霊って聞いて、つい」僕は弁解する。
まさか、幽霊みたいな人が幽霊を怖がるなんて・・とは言えないよな。
そんな青山先輩の休部理由を速水さんは知っているのか?
「君は、私の言うことを信じていないのね」
少しむっとした青山先輩に、
「その話・・速水部長は知ってるんですか?」
「し、知らないと思うわ・・私、誰にも言ってないから」
それで、速水さんも、小清水さんも青山先輩の休部の理由を知らなかったのか。
・・ということは、復部の可能性も大いに期待できるわけだ。
休部の理由が速水さんの透明化なのだから。
けど、どうやって、青山先輩の恐怖を取り除いてあげたらいいんだ?
まさか、速水部長は僕と同じ透明人間なのですから、というわけにもいかない。
だから、僕は・・
「大丈夫ですよ。青山先輩、幽霊の話は・・」と青山先輩を安心させるように言った。
「何が大丈夫なの?・・君、相手はあの幽霊なのよ」
こんな大人びた女性でも幽霊は怖いのか。
「それ、どんな幽霊だったんですか?」
まず、話はそこからだ。
「どんなって・・」
僕の投げかけた質問に青山先輩は「そうね・・」と言って、
「人の形・・をしていたわね」
人の形・・って・・
それ、もしかして・・速水さんの姿、半分見えているんじゃないのか?
僕は透明になった速水さんがどすどす歩いたり、物を動かしたりしたのかと思っていたけど・・
人の形に見えてるって・・それだとまるで、僕が透明化している時、妹のナミや、小清水さんには見えている場合と同じようなものじゃないか。
ひょっとして、青山先輩は速水さんに後輩以上の好意を・・
そんな驚いた表情の僕を見て、青山先輩は、
「君、ちょっと驚きすぎよ」と制するように言った。
僕は「ごめんなさい」と言って真面目に耳を傾ける姿勢を続けた。
「君、笑わないで聞いてよ」続けて青山先輩はそう言った。
僕は「はい」と言った。
「あれは・・私が忘れ物を取りに部室に戻った時のことよ。誰もいないはずなのに、窓のカーテンがふわっと揺れたの・・窓が開いているのか、と思って・・見たの」
「窓は開いていたんですか?」
「開いていたのよ・・確かに締めたはずなのに」
おそらく速水さんが開けたのだろう。風にでも当たりたかったのだろうか?
「その時、青山先輩は見たんですね」
「ええ・・そうよ」
「人の形って・・どんな?」
「それが・・私たちと同じような・・」
青山先輩が言葉に詰まったので、僕が、
「女子高生・・つまり、高校の制服を着ていたんですね?」
僕の言葉に驚いたように「ええ、そうよ・・君、よくわかったわね」と言った。
それは速水さんだから。
「それに、あの幽霊・・これは私の受けた印象なんだけど・・なんだか悲しい感じがしたの」
青山先輩はそう言って何かを思い出すような目をした。
「悲しい?」
「ええ・・おかしいでしょうけど、なぜか幽霊から悲しみのようなものが伝わってきたのよ」
速水さんが悲しんでいた・・理由は速水さんの母親のことだろうか?
しかし、透明化した速水さんから、そんな心情が青山先輩に伝わるものなのだろうか?
「こんな話、誰が聞いてもおかしいと思うわよね」
少し悲しげな表情をしている青山先輩に僕はあえて、
「いえ、青山先輩・・僕はおかしくはないと思います」と断定した。
「本当?」
僕の言葉に、それまで硬かった青山先輩の表情が緩む。
そして、「でも、この幽霊話は学校内でもけっこう噂になっているわよ」と裏付けのように言った。
僕も、佐藤の座っていた横のベンチを蹴とばしたしな。あれも幽霊話の一つになっているだろう。
だが、それよりも今は青山先輩から幽霊の恐怖を取り除いてあげないと・・
「幽霊が怖いものだとは限りませんよ」
「君、何を言っているの? 幽霊は怖いに決まっているじゃないの」
「それは幽霊じゃないかもしれません」
「幽霊じゃなかったら、一体何よ」
「たとえば、速水さん、あるいは小清水さんが帰宅しても、その思念だけが部室に残っていたんじゃないですか?」
「思念?」
「そうです、あるいは、二人の内のどちらかのもっと部室にいたいという感情が、思念となって部室に舞い戻ってきた・・」
ちょっと無茶な論法だな。説得力の欠片もない。
「君、それって、よけいに怖いわよ・・沙織や、沙希の思念なんて」
僕は「そうですよね。ありえないですよね」と言って笑った。
青山先輩もつられてか、吹き出したように笑った。
「でも、なんだかおかしいわ・・君って、面白いわね」
少しだけど、青山先輩と僕との距離が縮まった気がした。
囁くように青山先輩は言った。
「出るって、何がですか?」
「幽霊よ」
その言葉を聞いた瞬間、僕は全てを理解した。
速水さんだ!
何をやってるんだ、速水さんは!
幽霊って・・池永先生が言っていた旧校舎の幽霊の噂のことだろ。
速水さんは自分の能力で人を怖がらせて、休部に追い込んでいるんじゃないか。
速水さんがいつどこで透明になったのかは知らないけれど、青山先輩のいる所で透明になったのは間違いないだろう。
思わず笑いが込み上げてくる。青山先輩の「こわい」と言った理由をあれこれ考えていた思考がとけていった。
そして、そんな青山先輩の子供のような怖がりようが可笑しかった。
「君、今、笑ったわね」
青山先輩は少し剣幕顔だ。
「すみません・・幽霊って聞いて、つい」僕は弁解する。
まさか、幽霊みたいな人が幽霊を怖がるなんて・・とは言えないよな。
そんな青山先輩の休部理由を速水さんは知っているのか?
「君は、私の言うことを信じていないのね」
少しむっとした青山先輩に、
「その話・・速水部長は知ってるんですか?」
「し、知らないと思うわ・・私、誰にも言ってないから」
それで、速水さんも、小清水さんも青山先輩の休部の理由を知らなかったのか。
・・ということは、復部の可能性も大いに期待できるわけだ。
休部の理由が速水さんの透明化なのだから。
けど、どうやって、青山先輩の恐怖を取り除いてあげたらいいんだ?
まさか、速水部長は僕と同じ透明人間なのですから、というわけにもいかない。
だから、僕は・・
「大丈夫ですよ。青山先輩、幽霊の話は・・」と青山先輩を安心させるように言った。
「何が大丈夫なの?・・君、相手はあの幽霊なのよ」
こんな大人びた女性でも幽霊は怖いのか。
「それ、どんな幽霊だったんですか?」
まず、話はそこからだ。
「どんなって・・」
僕の投げかけた質問に青山先輩は「そうね・・」と言って、
「人の形・・をしていたわね」
人の形・・って・・
それ、もしかして・・速水さんの姿、半分見えているんじゃないのか?
僕は透明になった速水さんがどすどす歩いたり、物を動かしたりしたのかと思っていたけど・・
人の形に見えてるって・・それだとまるで、僕が透明化している時、妹のナミや、小清水さんには見えている場合と同じようなものじゃないか。
ひょっとして、青山先輩は速水さんに後輩以上の好意を・・
そんな驚いた表情の僕を見て、青山先輩は、
「君、ちょっと驚きすぎよ」と制するように言った。
僕は「ごめんなさい」と言って真面目に耳を傾ける姿勢を続けた。
「君、笑わないで聞いてよ」続けて青山先輩はそう言った。
僕は「はい」と言った。
「あれは・・私が忘れ物を取りに部室に戻った時のことよ。誰もいないはずなのに、窓のカーテンがふわっと揺れたの・・窓が開いているのか、と思って・・見たの」
「窓は開いていたんですか?」
「開いていたのよ・・確かに締めたはずなのに」
おそらく速水さんが開けたのだろう。風にでも当たりたかったのだろうか?
「その時、青山先輩は見たんですね」
「ええ・・そうよ」
「人の形って・・どんな?」
「それが・・私たちと同じような・・」
青山先輩が言葉に詰まったので、僕が、
「女子高生・・つまり、高校の制服を着ていたんですね?」
僕の言葉に驚いたように「ええ、そうよ・・君、よくわかったわね」と言った。
それは速水さんだから。
「それに、あの幽霊・・これは私の受けた印象なんだけど・・なんだか悲しい感じがしたの」
青山先輩はそう言って何かを思い出すような目をした。
「悲しい?」
「ええ・・おかしいでしょうけど、なぜか幽霊から悲しみのようなものが伝わってきたのよ」
速水さんが悲しんでいた・・理由は速水さんの母親のことだろうか?
しかし、透明化した速水さんから、そんな心情が青山先輩に伝わるものなのだろうか?
「こんな話、誰が聞いてもおかしいと思うわよね」
少し悲しげな表情をしている青山先輩に僕はあえて、
「いえ、青山先輩・・僕はおかしくはないと思います」と断定した。
「本当?」
僕の言葉に、それまで硬かった青山先輩の表情が緩む。
そして、「でも、この幽霊話は学校内でもけっこう噂になっているわよ」と裏付けのように言った。
僕も、佐藤の座っていた横のベンチを蹴とばしたしな。あれも幽霊話の一つになっているだろう。
だが、それよりも今は青山先輩から幽霊の恐怖を取り除いてあげないと・・
「幽霊が怖いものだとは限りませんよ」
「君、何を言っているの? 幽霊は怖いに決まっているじゃないの」
「それは幽霊じゃないかもしれません」
「幽霊じゃなかったら、一体何よ」
「たとえば、速水さん、あるいは小清水さんが帰宅しても、その思念だけが部室に残っていたんじゃないですか?」
「思念?」
「そうです、あるいは、二人の内のどちらかのもっと部室にいたいという感情が、思念となって部室に舞い戻ってきた・・」
ちょっと無茶な論法だな。説得力の欠片もない。
「君、それって、よけいに怖いわよ・・沙織や、沙希の思念なんて」
僕は「そうですよね。ありえないですよね」と言って笑った。
青山先輩もつられてか、吹き出したように笑った。
「でも、なんだかおかしいわ・・君って、面白いわね」
少しだけど、青山先輩と僕との距離が縮まった気がした。
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