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幽霊が怖い①
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◆来訪者~幽霊が怖い
「ねぇ、鈴木・・二学期も、席がこのままだったらいいのにね」
テスト直前の休み時間、
隣の席の加藤ゆかりは僕の方を見て微笑んだ。
僕が「そうだな」と答えると、加藤は前の水沢さんに「純子もその方がいいよね」と声をかけた。
その方がいいに決まっている。
声をかけられた水沢さんは微笑み、「そうね、私も」と答えた。
少し愛想笑いのようにも受け取れたが、かまわない。水沢さんが「そうね」と言った。それがどんな意味なのか、どうでもいい。この席の位置がいい、と言った。
加藤には悪いが、別に加藤の傍にいたいわけではない。
そして、加藤は僕の後ろの速水さんにも「沙織ちゃんもその方がいいよね?」と声をかけた。加藤はこの前から速水さんを「沙織ちゃん」と呼んでいる。
何かイメージが合わない。
声をかけられた速水さんがどんな顔をしているか確認のしようもない。「沙織ちゃん」と呼ばれて照れているのかすらわからないが、
速水さんは「私はどこでもいいわ」と言った。
「なんだ、つまんない」と加藤はむくれ顔だ。
それはそうだろう。この席でいいと強く思っているのは僕だけだろう。
加藤は周囲に親しくなった人がいることが嬉しいだけで、水沢さんもそう強くは思っていない。速水さんにとっては猶更どうでもいいことだ。
そんな時、
「鈴木~っ、お客さんだよ!」と僕を呼ぶ声が聞こえた。
廊下側の席の生徒が立ち上がって僕を呼んでいる。
僕にお客さん?
誰? と確認するまでもなく、その来訪者の正体はすぐにわかった。
青山先輩だった。
廊下にいるのが見えた。どうしてここが? あ・・二年二組と自己紹介したんだ。
僕は速水さんの方を振り返り「青山先輩だ・・どうしたらいい?」と言った。
「呼ばれたのは、鈴木くんよ。まかせるわ」と言った。冷たいな。
好奇の目で青山先輩を見た加藤は、
「へえっ、鈴木って、あんな人が知り合いなんだね」と言った。
そして、「あの人、青山灯里さんよ」と水沢さんが加藤に言った。
どうやら、水沢さんは青山先輩を知っているらしい。
どうして知っているのか、今は確かめようもない。
ただ・・なんかこの状況まずいな・・と思いつつ、僕は廊下に出た。
青山先輩は前回と同じように、深く頭を下げた。
「この前はごめんなさい・・急用ができたものだから」
すごく緊張する。僕の後ろは教室。視線を感じる。そして、前には大人びた女性。
外では気づかなかったが、何かいい匂いがした。
外見だけではなく、匂いも大人なのか? いや、ただ、香水をつけているだけなのか?
「僕も、急に呼び止めたりして、すみません」
こっちも悪い。校門前に急に現れたりして、青山先輩も驚いただろう。
「いえ、いいのよ・・それより、君、沙織に頼まれたんでしょう?」
僕が素直に「はい、すみません」と頷くと、 青山先輩は口に手を当て「うふっ」と少し笑った。
そして「君は素直ね」と言った。
まるで大人に子供が言うように、「素直ないい子」と言われた気がした。
チャンスは今しかないと思い、「青山先輩、今日の放課後、部室に来ていただけませんか?」と切望するように言った。
こんな所で話すより、部室の方がよっぽどいい。それに部室だと速水部長、小清水さんがいる。場合によっては池永先生も来てくれるかもしれない。心強い。
ところが、青山先輩は意外な事を口にした。
「実は私・・」
「・・?」
「私・・怖いの」
「え?」
何それ?
「私、あの部室がこわいのよ」
青山先輩の顔が、本当に怖い何かを見た、そんな風に見えた。
部室がこわくて休部?
あ~~・・わからない。こんな時、どう対処したらいいんだよ!
このまま廊下で立ち話も何だか恥ずかしいし。
困った僕を見て青山先輩は、
「放課後・・裏庭で・・それならかまわないわ」と言った。
やった! と僕は思った。それなら、速水部長と一緒に、と思っていると、
「ただし、来るのは君だけよ」と念を押すように青山先輩は言った。
そんな放課後の約束を取り付けて、僕は教室に戻った。
そこにはにんまりとした表情を浮かべた加藤が待っていた。
「へえっ、鈴木って、意外ともてるんだねぇ」
茶化す加藤の声に水沢さんが、加藤の顔に同調したような表情を見せた。
「違う違う、そんなんじゃないんだ!」
慌てて僕は二人に部への復帰願いの話を説明した。
水沢さんに誤解されたらかなわない。必死で説明する僕を水沢さんと加藤は微笑みながら聞いた。おそらくこれで大丈夫だろう。
そして、放課後、青山先輩に会うことになったことを速水部長に報告した。しかも僕一人でという条件付きのことも。
速水さんは「さすがは鈴木くん!」と、バカにされているのか、褒められているのかわからない口調だ。
放課後、青山先輩は裏庭の雑木林で先に待っていた。
イチョウの木よりも更に奥の場所だ。少しうす暗い・・虫もいそうだ。
両腕を胸元で組んだ青山先輩は大人の女性・・というよりも魔女、いや、幽霊に見えた。もちろんきれいな幽霊だが。
「青山先輩、すみません。時間をとらせて」と謝った。
「いいのよ。特に用事もないから」
「あの、さっき言ってた、部室が怖い・・って、何のことですか?」
僕の質問に青山先輩は、
「君は本当に知らないの?」と言った。
知らないも何も、青山先輩が何を言おうとしているのか全く分からない。
「ねぇ、鈴木・・二学期も、席がこのままだったらいいのにね」
テスト直前の休み時間、
隣の席の加藤ゆかりは僕の方を見て微笑んだ。
僕が「そうだな」と答えると、加藤は前の水沢さんに「純子もその方がいいよね」と声をかけた。
その方がいいに決まっている。
声をかけられた水沢さんは微笑み、「そうね、私も」と答えた。
少し愛想笑いのようにも受け取れたが、かまわない。水沢さんが「そうね」と言った。それがどんな意味なのか、どうでもいい。この席の位置がいい、と言った。
加藤には悪いが、別に加藤の傍にいたいわけではない。
そして、加藤は僕の後ろの速水さんにも「沙織ちゃんもその方がいいよね?」と声をかけた。加藤はこの前から速水さんを「沙織ちゃん」と呼んでいる。
何かイメージが合わない。
声をかけられた速水さんがどんな顔をしているか確認のしようもない。「沙織ちゃん」と呼ばれて照れているのかすらわからないが、
速水さんは「私はどこでもいいわ」と言った。
「なんだ、つまんない」と加藤はむくれ顔だ。
それはそうだろう。この席でいいと強く思っているのは僕だけだろう。
加藤は周囲に親しくなった人がいることが嬉しいだけで、水沢さんもそう強くは思っていない。速水さんにとっては猶更どうでもいいことだ。
そんな時、
「鈴木~っ、お客さんだよ!」と僕を呼ぶ声が聞こえた。
廊下側の席の生徒が立ち上がって僕を呼んでいる。
僕にお客さん?
誰? と確認するまでもなく、その来訪者の正体はすぐにわかった。
青山先輩だった。
廊下にいるのが見えた。どうしてここが? あ・・二年二組と自己紹介したんだ。
僕は速水さんの方を振り返り「青山先輩だ・・どうしたらいい?」と言った。
「呼ばれたのは、鈴木くんよ。まかせるわ」と言った。冷たいな。
好奇の目で青山先輩を見た加藤は、
「へえっ、鈴木って、あんな人が知り合いなんだね」と言った。
そして、「あの人、青山灯里さんよ」と水沢さんが加藤に言った。
どうやら、水沢さんは青山先輩を知っているらしい。
どうして知っているのか、今は確かめようもない。
ただ・・なんかこの状況まずいな・・と思いつつ、僕は廊下に出た。
青山先輩は前回と同じように、深く頭を下げた。
「この前はごめんなさい・・急用ができたものだから」
すごく緊張する。僕の後ろは教室。視線を感じる。そして、前には大人びた女性。
外では気づかなかったが、何かいい匂いがした。
外見だけではなく、匂いも大人なのか? いや、ただ、香水をつけているだけなのか?
「僕も、急に呼び止めたりして、すみません」
こっちも悪い。校門前に急に現れたりして、青山先輩も驚いただろう。
「いえ、いいのよ・・それより、君、沙織に頼まれたんでしょう?」
僕が素直に「はい、すみません」と頷くと、 青山先輩は口に手を当て「うふっ」と少し笑った。
そして「君は素直ね」と言った。
まるで大人に子供が言うように、「素直ないい子」と言われた気がした。
チャンスは今しかないと思い、「青山先輩、今日の放課後、部室に来ていただけませんか?」と切望するように言った。
こんな所で話すより、部室の方がよっぽどいい。それに部室だと速水部長、小清水さんがいる。場合によっては池永先生も来てくれるかもしれない。心強い。
ところが、青山先輩は意外な事を口にした。
「実は私・・」
「・・?」
「私・・怖いの」
「え?」
何それ?
「私、あの部室がこわいのよ」
青山先輩の顔が、本当に怖い何かを見た、そんな風に見えた。
部室がこわくて休部?
あ~~・・わからない。こんな時、どう対処したらいいんだよ!
このまま廊下で立ち話も何だか恥ずかしいし。
困った僕を見て青山先輩は、
「放課後・・裏庭で・・それならかまわないわ」と言った。
やった! と僕は思った。それなら、速水部長と一緒に、と思っていると、
「ただし、来るのは君だけよ」と念を押すように青山先輩は言った。
そんな放課後の約束を取り付けて、僕は教室に戻った。
そこにはにんまりとした表情を浮かべた加藤が待っていた。
「へえっ、鈴木って、意外ともてるんだねぇ」
茶化す加藤の声に水沢さんが、加藤の顔に同調したような表情を見せた。
「違う違う、そんなんじゃないんだ!」
慌てて僕は二人に部への復帰願いの話を説明した。
水沢さんに誤解されたらかなわない。必死で説明する僕を水沢さんと加藤は微笑みながら聞いた。おそらくこれで大丈夫だろう。
そして、放課後、青山先輩に会うことになったことを速水部長に報告した。しかも僕一人でという条件付きのことも。
速水さんは「さすがは鈴木くん!」と、バカにされているのか、褒められているのかわからない口調だ。
放課後、青山先輩は裏庭の雑木林で先に待っていた。
イチョウの木よりも更に奥の場所だ。少しうす暗い・・虫もいそうだ。
両腕を胸元で組んだ青山先輩は大人の女性・・というよりも魔女、いや、幽霊に見えた。もちろんきれいな幽霊だが。
「青山先輩、すみません。時間をとらせて」と謝った。
「いいのよ。特に用事もないから」
「あの、さっき言ってた、部室が怖い・・って、何のことですか?」
僕の質問に青山先輩は、
「君は本当に知らないの?」と言った。
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