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池永先生の言葉②
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しかし・・もし速水さんにそんなことがあったとしても、僕はどうすればいいのだ。
そんなことを知ってどうする?・・僕は何もできない。
それなら、最初から知らない方がいい。
何も知らず、文芸サークルの部員として日々を流していく方がいい。
部員の私生活に深入りしても何の意味もないだろう。
それよりも僕が知りたいのは水沢純子の方のはずだ。
・・そのはずだ。
それなのに・・僕は・・
「先生・・僕にはキリヤマという男・・そして、速水さんの実の母親が許せないんです」
少し口調を荒げた僕の声に池永先生は驚いたようだった。
いや、驚いていたのは、たぶん僕の方だ。
僕の中のどこにそんな気持ちがあったのか・・
速水邸で速水さんの話を聞いてから、僕の心の中に知らないうちに芽生えていた感情。
あの廃墟で透明になって泣いていた少女を傷つけた人達を許せない。そんな気持ちがどこかで育まれていたのかもしれない。
けれど、僕の言葉を聞いた先生は何も言わずアイスコーヒーのお替りを注文した。
すぐに運ばれてきたアイスコーヒーを美味しそうに飲みながら、綺麗な脚を組み替えた。
すると、隣の中年男が週刊誌をひろげ、先生の胸から足の方に視点を移した。
もしかすると・・
そんな中年男を観察している僕も・・男と同じなのではないだろうか?
僕も先生を見ているし、僕は男の方も見ている。
そして、中年男の方では僕が先生の体を見ている厭らしい高校生・・そう思っているかもしれない。
何だか複雑だ。
そんなことを考えていると、先生は、
「守ってあげてね・・」
唐突にそう言った。
「鈴木くん、速水さんを守ってあげて」
まるで今までの話の流れが無かったかのように先生はそう言った。
その口調は今までとはうってかわって・・女らしく・・いや、違う。いつも子供みたいな先生が大人に見えた。
すごく当たり前のことだが、先生らしく思えた。
僕は「でも、守るって、僕のような立場の人間じゃなくて・・速水さんのおつき合いしている誰か・・」とそこまで言うと、先生は、
「そんな人、いるわけないじゃない」と吹き出すように言って「私は、速水さんが鈴木くんをサークルに受け入れていることさえ不思議なんだから」と笑った。
速水さんにとって僕は・・単なるサークルの補充メンバーじゃないのか?
「速水さんはね、男嫌いなのよ・・」
男嫌い?
「鈴木くん、彼女と一緒にいて気がつかなかった?」
そんなことを言われても、生まれてこの方、母と妹以外、ろくに女の子と話したこともない僕にとって、誰が男 好きなのか、嫌いなのか、わかるわけがない。
けど・・そう言えば・・速水さんに男の影は見えない。
だからといって男嫌いって・・決めつけるのは・・
池永先生の勘違いじゃないのか?
いや・・違う・・
「先生、もしかして、そのキリヤマという男のせいで、速水さんは男嫌いになったんですか?」
速水さんが本当に男嫌いなのだとしたら、その男のせいだ。そんな気がした。
先生は「・・そうかもしれないわね」と答えた。
「先生は・・その・・キリヤマという人に会ったことがあるんですよね」
「ええ、会ったわよ」
先生は苦虫でも噛み潰すように答えた。
「どんな男なんですか?」
少し問い詰めるような口調になった僕の質問に先生は警戒したのか、口を閉ざした。
「そんなことを言ったら、鈴木くん、先入観を抱くでしょう? それは鈴木くんにとってもよくないことだし、速水さんにも失礼だわ」
いや、でも、僕は知りたい。ここまで知ってしまえば・・
速水さんがキリヤマという男に何をされたのかを知りたい。
だが先生はこう言った。
「もし、何かの運命の流れのように、鈴木くんに、速水さんとの関わりができるようになったのなら、自然と知ることになると思うわよ」
そう言った先生はいつもの先生と違うように見えた。
運命の流れ・・速水さんの関わり・・
それは僕にとって正しいこと・・いや、進むべき道なのだろうか?
隣の中年男は先生の体を見ることに飽きたのか店を出て行った。
池永かおり先生・・僕は先生が男子生徒に人気があるのは、大きな胸、そして、その美貌、きれいな脚・・そんな要素だろうとこれまで思っていたけれど、先生には子供みたいなところと、大人の女性が共存している。男子は先生のそんなところに惹かれるのかもしれない・・ふとそう思った。
そんなことを考えていると先生は二杯目のコーヒーを飲み、顔を上げて、
「でも、私、絶対、鈴木くんは小清水の沙希ちゃんがお目当てだと思っていたんだけどなあ」と言って微笑んだ。
「先生・・それ、違いますよ」僕はここぞとばかりに断固否定した。
僕は別に好きな人が・・
「じゃあ、鈴木くんは、他に好きな人がいるってことね?」
「ええ、まあ・・」そんな答え方をした。それより・・教師が生徒の恋愛事情に首を突っ込んでいいのか?
この話の流れだと、「じゃあ、速水さんの方?」とか「誰なの? 先生にだけこっそり教えてよ」と訊かれるのだろう。
けれど、先生は予期していた言葉とまるっきし違うことを言った。
「鈴木くんに他に好きな女の子がいるのならよかったわ」
先生の顔がなぜか安堵しているように見える。
・・意味が分からない。
「鈴木くんがいくら沙希ちゃんのことを好きになっても仕方ないもの」
先生は独り言のように小さく言った。
僕は小清水さんのことは一部員としか見ていないし、向こうもそうだろう。
文学以外に接点はない。
でも・・「仕方ない」ってどう意味だ?
僕が訊ねようとすると、
先生は腕時計をちらっと見て「そろそろ、帰らないとね。これでも家では忙しいのよ」と言った。「鈴木くんも、勉強に、恋に・・部活に頑張ってちょうだい」
そんなことを知ってどうする?・・僕は何もできない。
それなら、最初から知らない方がいい。
何も知らず、文芸サークルの部員として日々を流していく方がいい。
部員の私生活に深入りしても何の意味もないだろう。
それよりも僕が知りたいのは水沢純子の方のはずだ。
・・そのはずだ。
それなのに・・僕は・・
「先生・・僕にはキリヤマという男・・そして、速水さんの実の母親が許せないんです」
少し口調を荒げた僕の声に池永先生は驚いたようだった。
いや、驚いていたのは、たぶん僕の方だ。
僕の中のどこにそんな気持ちがあったのか・・
速水邸で速水さんの話を聞いてから、僕の心の中に知らないうちに芽生えていた感情。
あの廃墟で透明になって泣いていた少女を傷つけた人達を許せない。そんな気持ちがどこかで育まれていたのかもしれない。
けれど、僕の言葉を聞いた先生は何も言わずアイスコーヒーのお替りを注文した。
すぐに運ばれてきたアイスコーヒーを美味しそうに飲みながら、綺麗な脚を組み替えた。
すると、隣の中年男が週刊誌をひろげ、先生の胸から足の方に視点を移した。
もしかすると・・
そんな中年男を観察している僕も・・男と同じなのではないだろうか?
僕も先生を見ているし、僕は男の方も見ている。
そして、中年男の方では僕が先生の体を見ている厭らしい高校生・・そう思っているかもしれない。
何だか複雑だ。
そんなことを考えていると、先生は、
「守ってあげてね・・」
唐突にそう言った。
「鈴木くん、速水さんを守ってあげて」
まるで今までの話の流れが無かったかのように先生はそう言った。
その口調は今までとはうってかわって・・女らしく・・いや、違う。いつも子供みたいな先生が大人に見えた。
すごく当たり前のことだが、先生らしく思えた。
僕は「でも、守るって、僕のような立場の人間じゃなくて・・速水さんのおつき合いしている誰か・・」とそこまで言うと、先生は、
「そんな人、いるわけないじゃない」と吹き出すように言って「私は、速水さんが鈴木くんをサークルに受け入れていることさえ不思議なんだから」と笑った。
速水さんにとって僕は・・単なるサークルの補充メンバーじゃないのか?
「速水さんはね、男嫌いなのよ・・」
男嫌い?
「鈴木くん、彼女と一緒にいて気がつかなかった?」
そんなことを言われても、生まれてこの方、母と妹以外、ろくに女の子と話したこともない僕にとって、誰が男 好きなのか、嫌いなのか、わかるわけがない。
けど・・そう言えば・・速水さんに男の影は見えない。
だからといって男嫌いって・・決めつけるのは・・
池永先生の勘違いじゃないのか?
いや・・違う・・
「先生、もしかして、そのキリヤマという男のせいで、速水さんは男嫌いになったんですか?」
速水さんが本当に男嫌いなのだとしたら、その男のせいだ。そんな気がした。
先生は「・・そうかもしれないわね」と答えた。
「先生は・・その・・キリヤマという人に会ったことがあるんですよね」
「ええ、会ったわよ」
先生は苦虫でも噛み潰すように答えた。
「どんな男なんですか?」
少し問い詰めるような口調になった僕の質問に先生は警戒したのか、口を閉ざした。
「そんなことを言ったら、鈴木くん、先入観を抱くでしょう? それは鈴木くんにとってもよくないことだし、速水さんにも失礼だわ」
いや、でも、僕は知りたい。ここまで知ってしまえば・・
速水さんがキリヤマという男に何をされたのかを知りたい。
だが先生はこう言った。
「もし、何かの運命の流れのように、鈴木くんに、速水さんとの関わりができるようになったのなら、自然と知ることになると思うわよ」
そう言った先生はいつもの先生と違うように見えた。
運命の流れ・・速水さんの関わり・・
それは僕にとって正しいこと・・いや、進むべき道なのだろうか?
隣の中年男は先生の体を見ることに飽きたのか店を出て行った。
池永かおり先生・・僕は先生が男子生徒に人気があるのは、大きな胸、そして、その美貌、きれいな脚・・そんな要素だろうとこれまで思っていたけれど、先生には子供みたいなところと、大人の女性が共存している。男子は先生のそんなところに惹かれるのかもしれない・・ふとそう思った。
そんなことを考えていると先生は二杯目のコーヒーを飲み、顔を上げて、
「でも、私、絶対、鈴木くんは小清水の沙希ちゃんがお目当てだと思っていたんだけどなあ」と言って微笑んだ。
「先生・・それ、違いますよ」僕はここぞとばかりに断固否定した。
僕は別に好きな人が・・
「じゃあ、鈴木くんは、他に好きな人がいるってことね?」
「ええ、まあ・・」そんな答え方をした。それより・・教師が生徒の恋愛事情に首を突っ込んでいいのか?
この話の流れだと、「じゃあ、速水さんの方?」とか「誰なの? 先生にだけこっそり教えてよ」と訊かれるのだろう。
けれど、先生は予期していた言葉とまるっきし違うことを言った。
「鈴木くんに他に好きな女の子がいるのならよかったわ」
先生の顔がなぜか安堵しているように見える。
・・意味が分からない。
「鈴木くんがいくら沙希ちゃんのことを好きになっても仕方ないもの」
先生は独り言のように小さく言った。
僕は小清水さんのことは一部員としか見ていないし、向こうもそうだろう。
文学以外に接点はない。
でも・・「仕方ない」ってどう意味だ?
僕が訊ねようとすると、
先生は腕時計をちらっと見て「そろそろ、帰らないとね。これでも家では忙しいのよ」と言った。「鈴木くんも、勉強に、恋に・・部活に頑張ってちょうだい」
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