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差し出された傘②
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文芸サークルの二人も水沢さんと僕の噂は耳に入っていた。
僕が裏庭のひと悶着を部員二人に説明し、佐藤の人格をよく知っているという速水部長が、小清水さんに噂の根源について語った。
二人の部員の誤解が解けたかと思うと、
速水部長の「鈴木くんって、本当に問題の多い人ね」と毎度のようないやみ。
悪かったな。
今日から髪を三つ編みにしている小清水さんは「水沢さんって、いろんな噂が立つ人ですよねえ」と言った。「やっぱり、綺麗だと、噂って自然と立つのかなあ?」
いつもの小清水さん的マイナス思考だ。
それに対して、速水部長は、
「沙希さん、それは違うわ。噂の立つ人が・・綺麗になっていくのよ」
僕が「部長、それ、絶対に違う気がするんだけど」と強く反論すると、
速水さんは「そうね。私も言ってしまってから気づいたわ。やっぱり私はまだまだね」と弱く言った。
すると、小清水さんが「でも、今の部長の言葉、わかるような気もします・・人の噂で、心が洗練されていく・・そんな意味ですよね?」と納得したように言った。
「言われてみれば・・そうね・・まだまだだったのは、鈴木くんの方かもしれないわね」
「そっかあ?」と僕は納得できないまま、黙読用の文庫本を開いた。
僕が本を開いたのをきっかけに、小清水さんも文庫を開き、速水さんは窓辺に立ち、外の雨の様子を伺っている。
雨は弱まるどころか、さっきより強く降っている。
速水さんは、いつも僕と小清水さんが帰ったあとも、この部室に残っている・・まさか朝までいることはないだろうが、須磨の叔父さんの家に遅く帰っている、と聞いた。
外の風景を見ていた速水さんが、
「あら、鈴木くん」と言って振り返り、眼鏡の端を手で押さえ僕に向かって、
「噂の彼女がお帰りのようよ」と言った。
噂の?・・水沢さんのことか。
僕は速水さん、小清水さんの二人に、僕が水沢純子に恋をしているとは一言も言ってない。
だから、水沢さんが下校するところを速水さんが僕に注意喚起しても、僕は窓の外を見るわけにはいかない。
・・のはずだった。
けれど、水沢さんに直接、噂の件を謝りたい・・そんな気持ちは、いつのまにか強い衝動に変わっていた。
「鈴木くん、私のよけいなお節介だったかしら?」
そうだな・・確かによけいなお節介だ。
そう思いつつ、心とは裏腹に僕の腰は既に浮いていた。
僕は速水さんの立つ窓辺に同じように寄って外を見た。
旧校舎の二階にある部室の窓からの景色・・
そこから、水沢純子が一人、帰るところが見えた。
どこの部活にも属していない彼女にしては少し遅い時間だ。図書室にでも行っていたのだろうか?
傘を差すその姿が、なぜか寂しく見えるのはどうしてだろう?
あの噂で、水沢さんは傷ついてはいないだろうか?
僕のことを嫌いになったりはしていないだろうか?
色んな疑問が頭の中を過る。
・・でも、そんな疑問の解消は・・簡単じゃないか。
水沢さんに直接訊けばいい。
そう思った時には、もう声も体も、そして、心も正直に動き始めていた。
「速水部長!」と僕は速水さんに強く呼びかけ「僕、ちょっと水沢さんに謝ってくるよ」と言った。
速水さんの返事や、小清水さんの様子も見るゆとりはなかった。
気がつくと僕はドアを開け廊下を走っていた。
階段を駆け下りながら、
しまった! 傘を部室から持ってくるのを忘れたっ、
だが、もうそんなのどうでもいい。
ただ、水沢さんの顔が見たい。
・・どこからこんな勇気が沸いてくるのだろう?
少し前までは、ただの片思いでいい、教室の水沢さんを眺めているだけでいい、そう思っていたはずなのに。
・・誰かのおかげなのだろうか?
僕が裏庭のひと悶着を部員二人に説明し、佐藤の人格をよく知っているという速水部長が、小清水さんに噂の根源について語った。
二人の部員の誤解が解けたかと思うと、
速水部長の「鈴木くんって、本当に問題の多い人ね」と毎度のようないやみ。
悪かったな。
今日から髪を三つ編みにしている小清水さんは「水沢さんって、いろんな噂が立つ人ですよねえ」と言った。「やっぱり、綺麗だと、噂って自然と立つのかなあ?」
いつもの小清水さん的マイナス思考だ。
それに対して、速水部長は、
「沙希さん、それは違うわ。噂の立つ人が・・綺麗になっていくのよ」
僕が「部長、それ、絶対に違う気がするんだけど」と強く反論すると、
速水さんは「そうね。私も言ってしまってから気づいたわ。やっぱり私はまだまだね」と弱く言った。
すると、小清水さんが「でも、今の部長の言葉、わかるような気もします・・人の噂で、心が洗練されていく・・そんな意味ですよね?」と納得したように言った。
「言われてみれば・・そうね・・まだまだだったのは、鈴木くんの方かもしれないわね」
「そっかあ?」と僕は納得できないまま、黙読用の文庫本を開いた。
僕が本を開いたのをきっかけに、小清水さんも文庫を開き、速水さんは窓辺に立ち、外の雨の様子を伺っている。
雨は弱まるどころか、さっきより強く降っている。
速水さんは、いつも僕と小清水さんが帰ったあとも、この部室に残っている・・まさか朝までいることはないだろうが、須磨の叔父さんの家に遅く帰っている、と聞いた。
外の風景を見ていた速水さんが、
「あら、鈴木くん」と言って振り返り、眼鏡の端を手で押さえ僕に向かって、
「噂の彼女がお帰りのようよ」と言った。
噂の?・・水沢さんのことか。
僕は速水さん、小清水さんの二人に、僕が水沢純子に恋をしているとは一言も言ってない。
だから、水沢さんが下校するところを速水さんが僕に注意喚起しても、僕は窓の外を見るわけにはいかない。
・・のはずだった。
けれど、水沢さんに直接、噂の件を謝りたい・・そんな気持ちは、いつのまにか強い衝動に変わっていた。
「鈴木くん、私のよけいなお節介だったかしら?」
そうだな・・確かによけいなお節介だ。
そう思いつつ、心とは裏腹に僕の腰は既に浮いていた。
僕は速水さんの立つ窓辺に同じように寄って外を見た。
旧校舎の二階にある部室の窓からの景色・・
そこから、水沢純子が一人、帰るところが見えた。
どこの部活にも属していない彼女にしては少し遅い時間だ。図書室にでも行っていたのだろうか?
傘を差すその姿が、なぜか寂しく見えるのはどうしてだろう?
あの噂で、水沢さんは傷ついてはいないだろうか?
僕のことを嫌いになったりはしていないだろうか?
色んな疑問が頭の中を過る。
・・でも、そんな疑問の解消は・・簡単じゃないか。
水沢さんに直接訊けばいい。
そう思った時には、もう声も体も、そして、心も正直に動き始めていた。
「速水部長!」と僕は速水さんに強く呼びかけ「僕、ちょっと水沢さんに謝ってくるよ」と言った。
速水さんの返事や、小清水さんの様子も見るゆとりはなかった。
気がつくと僕はドアを開け廊下を走っていた。
階段を駆け下りながら、
しまった! 傘を部室から持ってくるのを忘れたっ、
だが、もうそんなのどうでもいい。
ただ、水沢さんの顔が見たい。
・・どこからこんな勇気が沸いてくるのだろう?
少し前までは、ただの片思いでいい、教室の水沢さんを眺めているだけでいい、そう思っていたはずなのに。
・・誰かのおかげなのだろうか?
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