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差し出された傘①
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◆差し出された傘
僕は人の噂が大嫌いだ。
噂で物事が好転するとか、聞いたことがない。
先日、加藤の話を聞いて、僕と加藤のことをあれこれと言う奴らの存在を知ったが、今度はあろうことか・・というか、あってはいけない僕と水沢さんの噂だ。
水沢さんにとっては甚だ迷惑な話だと思う。
噂の根源は、あの佐藤だ。校舎の裏庭での一件、水沢さんの平手打ちの話を吹聴しまわっているらしい。
影の濃い田中や、他の奴らが水沢さんにふられたという話を聞く中で、本来少し光栄な噂のはずだが、そこは、影の薄い存在の僕のことだ。
その噂というのは決して僕と水沢さんが仲がいいとか、二人が恋仲で、黒板に相合傘を書かれる、とかの嬉しい話ではなく、
僕が水沢さんを陰で操って、佐藤をひっぱ叩かせた・・という話だ。
僕の影の薄さから「鈴木は何を考えているのかわからない」・・そんなイメージも手伝って、黒い話は生まれた。
ところが、全く真逆の話もある・・つまり、水沢さんが僕を部下のように扱っていて、僕が水沢さんに言われるまま佐藤に絡んだが、何もできない僕を見て歯がゆくなった水沢さんが佐藤に手を出した、という話だ。
いずれにせよ、その二つの話に共通して言えるのは、
水沢純子という女性が強く、神秘的な謎に満ちていて。
僕が軟弱で、影が薄い、ということだ。
・・何て情けない・・
どうも噂というものは真実の引き伸ばしのような気がする。
そんなどちらの噂も、全く奇想天外にもほどがある。
それに、佐藤よ。おまえ、女の子に叩かれたという話を流して恥ずかしくないのかよ?
そう思ったが、佐藤がこの噂を流したのには佐藤の陰湿な意図がありそうだ。
水沢さんが佐藤に平手打ちをする・・そんな出来事は佐藤のファンの女の子たちにとっては腹立たしく、水沢さんに対して敵意剥き出し状態になる。
つまり、佐藤としては水沢さんにご都合的な仕返しができるわけだ。
そうだとしたら、佐藤よ、お前は性格の悪い子供だぞ!
本当に佐藤がそんなことを考えて、自分のされたことを言いまわったのか、どうかはわかならない。
だが、そんな佐藤の話は生きた噂となって教室内を飛び回った。
「鈴木って、腹の中、黒くないか?」とか、
「水沢さんって、意外とおっかないんだな」とおそれられたり、
「美人ほど、性格は悪いって言うぜ」噂する方が性格が悪い。
「綺麗だけど、すごく切れやすいんだって!」綺麗なのは当たっている。
「俺、叩かれたいけどな」とM的発言。
「あの二人って・・主従関係なのか」・・ありえない!
全て間接的に聞いた話だが、おそらくそんな低レベルの噂だ。
結論・・決して、僕と速水さんが仲がいいとか、できている、とかの話にはならない。
それも、僕が透明・・じゃなかった・・僕の影の薄いという役得によるものだ。
一体誰が、こんな目立たなく、運動音痴、歌も下手、みんなとも話さない、そんな暗いイメージの僕と、あの高嶺の花の水沢純子とを男女として結びつけようとするだろうか。
しかし、おかしい、佐藤は僕が水沢さんに好意を抱いている、ということは知っているはずだ。そこはあえて話していないのか?
いや、話しても、噂は変わらない。なぜなら、ほとんどの男子が水沢さんには好意をもっているからだ。僕はその内の一人に過ぎない。
だが、人の噂はいつまでもそこにはない。諺にもある通り、何日かすると消え、水沢さんは元の高値の花に戻り、僕はただの存在感の薄い男に戻る。
・・けれど、問題はそういうことじゃない。
こんな噂の責任は僕にある。
僕が佐藤と裏庭で揉めなければ、こんな噂は流れていない。
こんな噂・・
僕は水沢純子という初恋の女性が、品のない噂話で汚れるのがイヤなのだ。
たとえ、それが僕の絡んだ話でも。やはりイヤだ!
水沢さんに謝りたい・・
変な噂が消えてゆくにしたがって、その思いは徐々に膨らんでいった。
水沢純子と話す機会が欲しい。
そして、そんな機会は・・唐突に訪れる。
それは梅雨の中盤、梅雨らしくない雨が降り始めた日だった。
いつものじとじと雨ではなくざざ降りだ。
急いで帰宅しなくても、部室の黙読会で時間を潰していたら、元のじとじと雨に戻るだろう。
黙読会は火・木曜日・・月水金はお休み。土曜は隔週で読書会だ。
すでにこのスケジュールは僕にとっては心地よい時間となっている。
・・で、今日は水曜日で本来定休日のはずだが、行き場を失った部員たちはこうしていつものように部室に集合している。
僕は人の噂が大嫌いだ。
噂で物事が好転するとか、聞いたことがない。
先日、加藤の話を聞いて、僕と加藤のことをあれこれと言う奴らの存在を知ったが、今度はあろうことか・・というか、あってはいけない僕と水沢さんの噂だ。
水沢さんにとっては甚だ迷惑な話だと思う。
噂の根源は、あの佐藤だ。校舎の裏庭での一件、水沢さんの平手打ちの話を吹聴しまわっているらしい。
影の濃い田中や、他の奴らが水沢さんにふられたという話を聞く中で、本来少し光栄な噂のはずだが、そこは、影の薄い存在の僕のことだ。
その噂というのは決して僕と水沢さんが仲がいいとか、二人が恋仲で、黒板に相合傘を書かれる、とかの嬉しい話ではなく、
僕が水沢さんを陰で操って、佐藤をひっぱ叩かせた・・という話だ。
僕の影の薄さから「鈴木は何を考えているのかわからない」・・そんなイメージも手伝って、黒い話は生まれた。
ところが、全く真逆の話もある・・つまり、水沢さんが僕を部下のように扱っていて、僕が水沢さんに言われるまま佐藤に絡んだが、何もできない僕を見て歯がゆくなった水沢さんが佐藤に手を出した、という話だ。
いずれにせよ、その二つの話に共通して言えるのは、
水沢純子という女性が強く、神秘的な謎に満ちていて。
僕が軟弱で、影が薄い、ということだ。
・・何て情けない・・
どうも噂というものは真実の引き伸ばしのような気がする。
そんなどちらの噂も、全く奇想天外にもほどがある。
それに、佐藤よ。おまえ、女の子に叩かれたという話を流して恥ずかしくないのかよ?
そう思ったが、佐藤がこの噂を流したのには佐藤の陰湿な意図がありそうだ。
水沢さんが佐藤に平手打ちをする・・そんな出来事は佐藤のファンの女の子たちにとっては腹立たしく、水沢さんに対して敵意剥き出し状態になる。
つまり、佐藤としては水沢さんにご都合的な仕返しができるわけだ。
そうだとしたら、佐藤よ、お前は性格の悪い子供だぞ!
本当に佐藤がそんなことを考えて、自分のされたことを言いまわったのか、どうかはわかならない。
だが、そんな佐藤の話は生きた噂となって教室内を飛び回った。
「鈴木って、腹の中、黒くないか?」とか、
「水沢さんって、意外とおっかないんだな」とおそれられたり、
「美人ほど、性格は悪いって言うぜ」噂する方が性格が悪い。
「綺麗だけど、すごく切れやすいんだって!」綺麗なのは当たっている。
「俺、叩かれたいけどな」とM的発言。
「あの二人って・・主従関係なのか」・・ありえない!
全て間接的に聞いた話だが、おそらくそんな低レベルの噂だ。
結論・・決して、僕と速水さんが仲がいいとか、できている、とかの話にはならない。
それも、僕が透明・・じゃなかった・・僕の影の薄いという役得によるものだ。
一体誰が、こんな目立たなく、運動音痴、歌も下手、みんなとも話さない、そんな暗いイメージの僕と、あの高嶺の花の水沢純子とを男女として結びつけようとするだろうか。
しかし、おかしい、佐藤は僕が水沢さんに好意を抱いている、ということは知っているはずだ。そこはあえて話していないのか?
いや、話しても、噂は変わらない。なぜなら、ほとんどの男子が水沢さんには好意をもっているからだ。僕はその内の一人に過ぎない。
だが、人の噂はいつまでもそこにはない。諺にもある通り、何日かすると消え、水沢さんは元の高値の花に戻り、僕はただの存在感の薄い男に戻る。
・・けれど、問題はそういうことじゃない。
こんな噂の責任は僕にある。
僕が佐藤と裏庭で揉めなければ、こんな噂は流れていない。
こんな噂・・
僕は水沢純子という初恋の女性が、品のない噂話で汚れるのがイヤなのだ。
たとえ、それが僕の絡んだ話でも。やはりイヤだ!
水沢さんに謝りたい・・
変な噂が消えてゆくにしたがって、その思いは徐々に膨らんでいった。
水沢純子と話す機会が欲しい。
そして、そんな機会は・・唐突に訪れる。
それは梅雨の中盤、梅雨らしくない雨が降り始めた日だった。
いつものじとじと雨ではなくざざ降りだ。
急いで帰宅しなくても、部室の黙読会で時間を潰していたら、元のじとじと雨に戻るだろう。
黙読会は火・木曜日・・月水金はお休み。土曜は隔週で読書会だ。
すでにこのスケジュールは僕にとっては心地よい時間となっている。
・・で、今日は水曜日で本来定休日のはずだが、行き場を失った部員たちはこうしていつものように部室に集合している。
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