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加藤ゆかりの心の移ろい①
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◆加藤ゆかりの心の移ろい
部室で加藤が何を話すのか? と思ったら、
先日、加藤が部室前で倒れて、僕が保健室まで連れていった時の話だった。
「ああ・・あの話なら、私も沙希さんから聞いているわ」と速水部長。
小清水さんが、「鈴木くん、すごく優しいから」と言った。
現在の状況・・
なぜか、いつも向い合せに座っている僕と小清水さんが横に並び、僕たちの向かいには加藤ゆかりが腰かけている。
速水さんは長テーブルの上座、つまり部長席で僕たちに目を光らせている。
ここは速水沙織の悩み事か何かの相談室かよ。
それにおかしな雰囲気だ。文学系の3人に、健康そのもののような加藤ゆかり。
いつもの文芸サークルに異種の人間が入ってきた感じだ。
「私もあの時の話を聞いて驚いたわ、いつも消極的、かつ、影の薄い鈴木くんが積極的、かつ、目立つような行動をとったのだから」
僕が「それ言いすぎだろ!」と言おうとすると小清水さんが、「部長、それ言いすぎですよ」と笑った。
僕も小清水さんも速水部長のいつもの言い回し、というか毒舌には免疫がついている。
速水さんは「失礼」と言って眼鏡をくいっと上げ、
「それで、その話が、あの水沢さんと変な方向に行った、というのはどういうことなのかしら?」
速水部長の問い詰めるような質問に加藤は、
「私と鈴木、あの時、いろんな奴に見られててさ・・変なこと言う奴がいるんだよ」
だいだい想像はつく。
原因と結果を知らなければ、ただちに下衆の勘繰りが発生する。
加藤が倒れて、僕が保健室に連れていった・・ただそれだけのことが、男女としてできている、とか・・これはあくまでも僕の想像だが。
「加藤さん・・それで、その変なことというのは?」
速水さん、それ、加藤に言わせるのかよ!
そのきつい問いかけに加藤は、
「そういう奴は私に直接言わないんだよ。・・誰かが、純子に言ったらしいんだよ」
「なんて言ったのかしら?」
速水さんは問いを重ねた。
加藤はちらちらと僕の顔を盗み見る。加藤の顔にはこう書いてある。
「私、やっぱり、速水さんが苦手! 私は鈴木と話したかったのに!」・・と。
この状況は成り行き上そうなった。加藤・・ごめん。
加藤が言い澱んで答えないでいると速水さんは、
「加藤さんが、鈴木くんのことを好き・・だとか・・」
そう畳みかけるように言った。
気のせいか、僕の横の小清水さんの体が硬直した気がした。
「ちょ、ちょっと・・速水さん」
加藤が慌てて速水さんの言葉を押さえ込もうとする。
速水さんが「あら、違ったかしら?」ととぼける。
「違うんだってば」
否定する加藤に、
速水さんは追い打ちをかけるように「加藤さんはそう言われて、まんざらでもなかったとか」と言った。
そんな速水さんに加藤はどうにか落ち着きを取り戻し、
「純子に訊かれたんだよ」と静かに言った。
水沢さんに訊かれた?
「水沢さんに何て訊かれたのかしら?」
加藤は一呼吸置いてこう言った。
「・・・ゆかりは鈴木くんのことが好きなの?・・って」
そこまで言うと、加藤はうつむいた。加藤らしくない動作だった。
そんな二人を見て、それまで黙っていた僕は、
「全く、噂ってすごいな」と適当に言った。
「あら、鈴木くん、火のないところに何とやら、っていうのもあるわよ」
速水さんの言葉に今度は小清水さんが「部長・・火も煙も、何もないと思いますけど」とささやかな抵抗を試みた。
・・僕は水沢純子に恋をしている。
好きな人のことは何でも知りたい。この話が加藤ゆかりの話でも、それが水沢純子と関わりを持つ話であれば、僕は聞きたい・・
部室で加藤が何を話すのか? と思ったら、
先日、加藤が部室前で倒れて、僕が保健室まで連れていった時の話だった。
「ああ・・あの話なら、私も沙希さんから聞いているわ」と速水部長。
小清水さんが、「鈴木くん、すごく優しいから」と言った。
現在の状況・・
なぜか、いつも向い合せに座っている僕と小清水さんが横に並び、僕たちの向かいには加藤ゆかりが腰かけている。
速水さんは長テーブルの上座、つまり部長席で僕たちに目を光らせている。
ここは速水沙織の悩み事か何かの相談室かよ。
それにおかしな雰囲気だ。文学系の3人に、健康そのもののような加藤ゆかり。
いつもの文芸サークルに異種の人間が入ってきた感じだ。
「私もあの時の話を聞いて驚いたわ、いつも消極的、かつ、影の薄い鈴木くんが積極的、かつ、目立つような行動をとったのだから」
僕が「それ言いすぎだろ!」と言おうとすると小清水さんが、「部長、それ言いすぎですよ」と笑った。
僕も小清水さんも速水部長のいつもの言い回し、というか毒舌には免疫がついている。
速水さんは「失礼」と言って眼鏡をくいっと上げ、
「それで、その話が、あの水沢さんと変な方向に行った、というのはどういうことなのかしら?」
速水部長の問い詰めるような質問に加藤は、
「私と鈴木、あの時、いろんな奴に見られててさ・・変なこと言う奴がいるんだよ」
だいだい想像はつく。
原因と結果を知らなければ、ただちに下衆の勘繰りが発生する。
加藤が倒れて、僕が保健室に連れていった・・ただそれだけのことが、男女としてできている、とか・・これはあくまでも僕の想像だが。
「加藤さん・・それで、その変なことというのは?」
速水さん、それ、加藤に言わせるのかよ!
そのきつい問いかけに加藤は、
「そういう奴は私に直接言わないんだよ。・・誰かが、純子に言ったらしいんだよ」
「なんて言ったのかしら?」
速水さんは問いを重ねた。
加藤はちらちらと僕の顔を盗み見る。加藤の顔にはこう書いてある。
「私、やっぱり、速水さんが苦手! 私は鈴木と話したかったのに!」・・と。
この状況は成り行き上そうなった。加藤・・ごめん。
加藤が言い澱んで答えないでいると速水さんは、
「加藤さんが、鈴木くんのことを好き・・だとか・・」
そう畳みかけるように言った。
気のせいか、僕の横の小清水さんの体が硬直した気がした。
「ちょ、ちょっと・・速水さん」
加藤が慌てて速水さんの言葉を押さえ込もうとする。
速水さんが「あら、違ったかしら?」ととぼける。
「違うんだってば」
否定する加藤に、
速水さんは追い打ちをかけるように「加藤さんはそう言われて、まんざらでもなかったとか」と言った。
そんな速水さんに加藤はどうにか落ち着きを取り戻し、
「純子に訊かれたんだよ」と静かに言った。
水沢さんに訊かれた?
「水沢さんに何て訊かれたのかしら?」
加藤は一呼吸置いてこう言った。
「・・・ゆかりは鈴木くんのことが好きなの?・・って」
そこまで言うと、加藤はうつむいた。加藤らしくない動作だった。
そんな二人を見て、それまで黙っていた僕は、
「全く、噂ってすごいな」と適当に言った。
「あら、鈴木くん、火のないところに何とやら、っていうのもあるわよ」
速水さんの言葉に今度は小清水さんが「部長・・火も煙も、何もないと思いますけど」とささやかな抵抗を試みた。
・・僕は水沢純子に恋をしている。
好きな人のことは何でも知りたい。この話が加藤ゆかりの話でも、それが水沢純子と関わりを持つ話であれば、僕は聞きたい・・
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