19 / 19
商店街の車③
しおりを挟む
当然、集落の人に聞こえていないはずがありません。
軍服のザミの動きがピタリと止まりました。
白衣のキリエは、声の方を見て、目を細めてニヤリと笑っています。何か、良い物を見つけた・・そんな顔です。
その様子を見てか、大男が、
「誰や、今の声は!」と怒鳴り見物客を見渡しました。
その大きな声に、町の人は悲鳴を上げるようにザザッと後退しました。この場を去ればいいものを、決して家に帰ろうとはしません。
「今、言ったのは、お前か!」大男が、八百屋の御主人を指して言いました。言ったのはうどん屋さんです。八百屋さんではありません。
指を差された八百屋さんは、勢いよく顔を左右にブルブルと振っています。全くの濡れ衣です。
ですが、大男は勝手に声の主を八百屋さんだと決めつけたようです。うどん屋さんが名乗りを上げない限り八百屋さんのせいになってしまいます。
「うどん屋のおっさん、おらんで。逃げたんとちゃうか」文哉くんが言いました。
見ると、うどん屋さんの姿は見えません。どうやら逃げたようです。
ですが八百屋さんは蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くしています。
カエルは八百屋さんで、ヘビは大男と思いましたが、違ったそうです。
ヘビは、軍服のザミでした。
八百屋さんは大男ではなく、双子の姉のザミに見据えられて動けなくなっていたのです。
おそらくザミの年齢は三〇歳くらいだと思います。そして八百屋さんは50歳くらいでしょう。二〇も下の人に見られて硬直しているのです。
ザミからは人を動けなくさせるオーラでも出ているのでしょうか。
姉のザミの後ろで、妹のキリエがニヤニヤと笑っています。服は違っても顔は同じです。この暑い季節に、その顔は真っ白です。
長いブーツを履いたザミはゆっくりと八百屋さんの方に近づいてきました。
短いムチを手の平にビシビシと当て、相手を威圧するように鳴らしています。
こんな人を映画で見たことがありますが、実際に目の当たりにするのは初めてです。
気がつくと、ザミは八百屋さんの前に立っていました。
ザミは息がかかるくらいの距離に顔を寄せ、
「おじさん・・子供らが見てるところで乱暴な口をきいたらあかんよ」と囁くように言いました。
冷たい声です。冷たいだけではなく、その声には毒気をはらんでいます。
ザミは、八百屋さんの胸の辺りを人差し指でそっと下から上へと撫で、
「口には気をつけた方がいいわよ」とニヤニヤ笑いながら言いました。笑うと三日月の形の目が更に歪みます。
八百屋さんは何も言えず、はいはいと頷くだけです。
「言葉には責任を持たんとなあ」ザミはそう言って、
「自分の迂闊な言葉で、家族を危険に巻き込むこともあるんやからねえ」と続けて言いました。
それは脅かしの言葉です。実際には何もしないと思いますが、言われた方はそうはとりません。自分のせいで家族を危険にさらしてしまうかもしれない。そう思ってしまいます。
周囲の人も何も言いません。みんな一様にゴクリと唾を飲み込むような表情をしています。
八百屋さんの身に何かがあれば、町の人も黙ってはいないと思いますが、ザミは何もしていないのです。
ザミは、脅かしの文句を言うだけ言うと、妹のキリエの元に戻りました。
「ひえっ」
ようやく八百屋さんが声を出しました。よほど怖かったのでしょう。その場にへたり込んでしまいました。
明日から、逃げたうどん屋さんと濡れ衣を着せられた八百屋さんは気まずくなることでしょう。
ザミが男たちの所に戻ると、アケミちゃんの傍らにいた大きな男が、「アケミ、エリコ」と呼び、
「キリエさんが薬局に行っている間、ザミさんが駄菓子屋に連れて行ってくれるぜ」と言いました。
アケミちゃんの隣にいる髪の長い女の子は「エリコ」という名前のようです。
問題は男の子です。
アケミちゃんたちの横には男の子が二人いると思っていましたが、よく見ると全く違いました。
一人は、集落の檻の中にいた男の子で、僕がアケミちゃんと話をしていたら、怒鳴っていた子です。
その横にも同じような男の子がいると思ってましたが、大きく違ったのです。
その顔を見ると、子供ではありません。れっきとした大人です。
顔は大人ですが、背丈は僕らと同じくらいです。小人のような背格好なのです。
服もザミのような軍服を着ています。彼女の部下なのでしょうか? いずれにしろ、アケミちゃんの周りには、大きな男と小人のような男がいて近寄れません。
ですが、大男はさっき言っていました。「駄菓子屋に連れて行ってもらえ」と。
ならば、行かない訳には行きません。
僕たち子供が駄菓子屋に行くことは悪いことでも何でもありませんから。
「駄菓子屋に行こう!」
僕は文哉くんたちに声をかけました。彼らが来なくても、僕一人で行くつもりです。
「もちろんや」文哉くんが強く同意しました。「僕も一緒に行くよ」と松下くんも言いました。ここには僕らを引き留める大人はいません。
軍服のザミの動きがピタリと止まりました。
白衣のキリエは、声の方を見て、目を細めてニヤリと笑っています。何か、良い物を見つけた・・そんな顔です。
その様子を見てか、大男が、
「誰や、今の声は!」と怒鳴り見物客を見渡しました。
その大きな声に、町の人は悲鳴を上げるようにザザッと後退しました。この場を去ればいいものを、決して家に帰ろうとはしません。
「今、言ったのは、お前か!」大男が、八百屋の御主人を指して言いました。言ったのはうどん屋さんです。八百屋さんではありません。
指を差された八百屋さんは、勢いよく顔を左右にブルブルと振っています。全くの濡れ衣です。
ですが、大男は勝手に声の主を八百屋さんだと決めつけたようです。うどん屋さんが名乗りを上げない限り八百屋さんのせいになってしまいます。
「うどん屋のおっさん、おらんで。逃げたんとちゃうか」文哉くんが言いました。
見ると、うどん屋さんの姿は見えません。どうやら逃げたようです。
ですが八百屋さんは蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くしています。
カエルは八百屋さんで、ヘビは大男と思いましたが、違ったそうです。
ヘビは、軍服のザミでした。
八百屋さんは大男ではなく、双子の姉のザミに見据えられて動けなくなっていたのです。
おそらくザミの年齢は三〇歳くらいだと思います。そして八百屋さんは50歳くらいでしょう。二〇も下の人に見られて硬直しているのです。
ザミからは人を動けなくさせるオーラでも出ているのでしょうか。
姉のザミの後ろで、妹のキリエがニヤニヤと笑っています。服は違っても顔は同じです。この暑い季節に、その顔は真っ白です。
長いブーツを履いたザミはゆっくりと八百屋さんの方に近づいてきました。
短いムチを手の平にビシビシと当て、相手を威圧するように鳴らしています。
こんな人を映画で見たことがありますが、実際に目の当たりにするのは初めてです。
気がつくと、ザミは八百屋さんの前に立っていました。
ザミは息がかかるくらいの距離に顔を寄せ、
「おじさん・・子供らが見てるところで乱暴な口をきいたらあかんよ」と囁くように言いました。
冷たい声です。冷たいだけではなく、その声には毒気をはらんでいます。
ザミは、八百屋さんの胸の辺りを人差し指でそっと下から上へと撫で、
「口には気をつけた方がいいわよ」とニヤニヤ笑いながら言いました。笑うと三日月の形の目が更に歪みます。
八百屋さんは何も言えず、はいはいと頷くだけです。
「言葉には責任を持たんとなあ」ザミはそう言って、
「自分の迂闊な言葉で、家族を危険に巻き込むこともあるんやからねえ」と続けて言いました。
それは脅かしの言葉です。実際には何もしないと思いますが、言われた方はそうはとりません。自分のせいで家族を危険にさらしてしまうかもしれない。そう思ってしまいます。
周囲の人も何も言いません。みんな一様にゴクリと唾を飲み込むような表情をしています。
八百屋さんの身に何かがあれば、町の人も黙ってはいないと思いますが、ザミは何もしていないのです。
ザミは、脅かしの文句を言うだけ言うと、妹のキリエの元に戻りました。
「ひえっ」
ようやく八百屋さんが声を出しました。よほど怖かったのでしょう。その場にへたり込んでしまいました。
明日から、逃げたうどん屋さんと濡れ衣を着せられた八百屋さんは気まずくなることでしょう。
ザミが男たちの所に戻ると、アケミちゃんの傍らにいた大きな男が、「アケミ、エリコ」と呼び、
「キリエさんが薬局に行っている間、ザミさんが駄菓子屋に連れて行ってくれるぜ」と言いました。
アケミちゃんの隣にいる髪の長い女の子は「エリコ」という名前のようです。
問題は男の子です。
アケミちゃんたちの横には男の子が二人いると思っていましたが、よく見ると全く違いました。
一人は、集落の檻の中にいた男の子で、僕がアケミちゃんと話をしていたら、怒鳴っていた子です。
その横にも同じような男の子がいると思ってましたが、大きく違ったのです。
その顔を見ると、子供ではありません。れっきとした大人です。
顔は大人ですが、背丈は僕らと同じくらいです。小人のような背格好なのです。
服もザミのような軍服を着ています。彼女の部下なのでしょうか? いずれにしろ、アケミちゃんの周りには、大きな男と小人のような男がいて近寄れません。
ですが、大男はさっき言っていました。「駄菓子屋に連れて行ってもらえ」と。
ならば、行かない訳には行きません。
僕たち子供が駄菓子屋に行くことは悪いことでも何でもありませんから。
「駄菓子屋に行こう!」
僕は文哉くんたちに声をかけました。彼らが来なくても、僕一人で行くつもりです。
「もちろんや」文哉くんが強く同意しました。「僕も一緒に行くよ」と松下くんも言いました。ここには僕らを引き留める大人はいません。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる