俺のステータス『軟弱 虚弱 脆弱 惰弱 貧弱 ※時折頑強』

ぐりーなー

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図太い優しさ

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三、二、一……とカウントダカウントダウンは始まり、ゼロと同時に剣戟ならぬ爪戟が飛ぶ。
幾重にも重なり飛んだ爪戟は俺を容易に呑み込める程の範囲を確保し、逃げ道を塞いだ。メアトの予測情報が無ければほぼアウトだっただろう。
遠距離と連射の力。範囲は既にメアトが予測を終えて、三メートル先の木の陰へ身を隠していた。万が一に備え翼を体の前へ準備し防御姿勢を取る。はあ……。これだけの準備で満身創痍なのは内緒にしておきたい。
「うわっつ!」
あ、あんなの当たったら体に風穴空くどころの騒ぎじゃないぞ。巨木に接した面全てが跡形もなく粉々だ。巨木が轟音を立てて地面に横たわる威力を見ると一層気が引き締まる。
「隠れても無駄だぞ!!」
荒れ狂う長のスキルは発動を何度も繰り返す。
MP消費って知ってる?
発動までに三秒……という表示が目に何度も出現するが、少しだけ掃けて欲しい時がある。知らずの内に周りの木々が薙ぎ払われているのが怖い。

『長の攻撃が対角線上へ入ります』

えっと、つまり?……こっちに攻撃飛んでくるッ!やばい反撃の事忘れてた。
シオ、落ち着きましょう。
心に余裕を。よし、反撃に取り掛かろうか。
良く見ていると、いや見ていなくても長の攻撃は当てずっぽうの運任せだ。お目目の情報を見ると右から徐々に周りを削っている感じ。
そして奇跡的だ、長が最後の最後に俺達の方向へと回ってきた。三秒のインターバルが長が一回転する間に五回ある。その中で三回くらい俺達に背を背けてスキルを発動する。これを避けることさえ……、いやもっとリスクを冒さないとダメだ……。
良く分かった。生半可な形じゃ本気で戦ってきた人には敵う筈がない。もっと、もっと。

『現在地から半径二メートル以内は危険です。回避を推奨します』

二メートルを三秒で走る事何て余裕のよっちゃんですよ。でもそれは長の思う壺、すぐバレてしまう。だから。
三、二、と慣れた表示が目に映る。当然時間が経過し一秒と言う文字が見え、スキルが長を包むのを遠目で確認する。

『砲撃来ます』

ゼロは見せずその文言を見せ、長はスキルを見せる。
おっけ、おっけ、待ってた。俺じゃ分からない『ズレがなくスキルが発動される瞬間』を教えてくれるこの能力、メアトは最高のパートナーだよ。
「ありがとうな、メアト、マジで最強だよ」
え?あ、ありがとうございます。
風が吹き荒れ、一瞬にして木が粉々になる。
「……まだ隠れるか……」
「もう隠れるのはやめたよ」
俺に背を向けるんなんてどんだけ余裕だよ?
驚いた様子の長を羽の先で捉える。
半径二メートルの砲撃を撃てば長の真正面の視界は自らのスキルで奪われる。身から出た錆だ。本当に……上手くいって良かった。
発動の瞬間、俺は長が次に向く方向とは逆に動いた。そして、一度装備を外す。それから長の目に入らぬようスキルのギリギリを沿い奔走し死角へと潜り込みもう一度装備をし直した。
「長のスキルが連射のスキルで良かったよ。スキル時間は爪を撃ち続けているし、周りを見る暇なんてほぼないだろう?」
「な。何故だ!!だとしても私の視界が捉えられないのはスキルのほぼ真正面のみだぞ?」
こちらへと鉤爪を振るいながら疑問も投げかけるが、ごめんな、長、両方とも応えるのは無理だから。
「バースト」
至近距離からこの攻撃を流石に無傷と言うわけにはいかないだろう。
「ぐうっ!!」
ギリギリだった。死角に入れたのも自分の左手を犠牲にしたおかげだな。左手は痛々しくて見るも無残な姿で、動かないくせに悶絶するような痛みが持続的に続く。
でも、これで……。
必要もなく左手を抑えながら吹っ飛んだ長の近くへと息を切らしながら向かうと、流石の兎も体を地面につけていた。
「……やれ」
音で感づいた長は倒れたまま、自分の身を差し出す。一応翼を長の前へと持っていきトドメの姿勢をとるが、いやいや、やれるわけないだろ……。翼をゆっくりと地面に下ろす。
「それが……」
「……」
「それが命取りだと言っておるのだ!!」
「ぐっ!!!」
最後の気力を絞ってだろうか、否、まだまだ力は残っていそうだ。首根っこを掴む力に息をする事が出来ない。
「我を殺せない!?我が敵でもそうするのか?我が裏切ったらどうする!?貴様を殺すつもりならどうする!?甘いんだよ!この世の中は信頼なんてものはないのだ。敵、裏切るものは殺すべきだ!!」
痛い、でも、それでもどうしても言いたいことがある。息が苦しいけど我慢して声を出そう。
「あ、あり、が、とう……」
「あ?」
「うおっ」
突拍子のないその言葉に気が抜けたのか腕の力は緩み、地面に体がぶつかった。が、大丈夫、もう一度立ち上がり長と顔を合わせる。
「何故礼など……。私は殺す気で」
「殺さなかっただろ?逆の立場でも一緒の事が言えるはずだ。俺があんたを裏切ったら?なのに、俺を心配して。守ろうともしてくれた、いろんなものにも気づかせてくれた、礼しかできないのが恥ずかしいくらいだよ」
「ち、違う。我は!我は……、貴様の無謀な良心に目も付けられず……。怒りに身を任せて攻撃を繰り返しただけだ……」
「俺のすることが良心って言ってくれてんじゃん。悪い人な訳ない。ここまでしてくれて命を奪うなんてありえない」
「だが、この先裏切られたら!」
「仕様がない。それが俺の気持ちだし、自分の心までは裏切りたくないからさ。優しい人はたとえ建前だろうが助けてくれた優しい人だよ。感謝はしなくちゃいけない。どれだけ裏があってもやってもらった好意に悪はない」
「あま……」
「甘いかもね、でも俺はそれを譲れない、自分が死んでもそれだけは譲りたくない。俺は困っている人を助けたい。自分のため、に。それだけだ」
「……」
「ごめん、傲慢で。……うわ、っと、血が足りないか?」
そう言えば左腕の流血がひどかったわ。
フラフラと体に力が入ってこない。まあ、案の定俺はそのまま倒れた。
「大丈夫かっ!!」
何、結局心配までしてくれてるじゃん。この兎、でかいのは図体だけじゃないんだな。



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