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きりと瑠紅 (きりと☆るく)

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放任主義者の庭

放任主義者の庭①アップルとツタの睨み合い

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 明らかに季節が変わった。この前まで、暑さと湿気が瑠紅が庭に出るのを阻んでいたのに、今度は、この寒さ。アップルゼラニウムが幅をきかせている庭の手入れを、しなきゃしなきゃと思ってはいるのに……できない。
 庭の手入れを最後にしたのは、春先かなあ?瑠紅が庭を放置する3大理由は、暑さ、蚊、ムカデ。暑さと蚊は、まだ対策できるけど、ムカデはねえ……。夏の暑い日、思い切って庭に出、枯れてしまった変り紫陽花の鉢を動かしたら、下から、でっかいムカデが出てきてねー。鋼鉄の鎧を背負ったかのような、凶悪そうなムカデが、二匹。
 勇者なら、速攻、戦うのかも知れないが、一般庶民の瑠紅は、飛び退き、ムカデ用の毒餌を持ってきて、こそっと置くしかできなかった。だって、痛いんだよ?ムカデに刺されたら。
 瑠紅は、ムカデに刺されて痛い思いをしたことがある。家族で食卓を囲んでいた時のこと。左足の薬指に違和感を覚えた瑠紅が確認したところ、チェーンのように鋼鉄の鎧が連なった極悪面のそいつが、うねうねとうごめきながら瑠紅の足指にくらいついていて。そいつがそんなところにいることに驚くと共に、「痛い!痛い!」としか言えない自分にも驚いた。恐怖のあまり、スリッパでバシバシ叩くも、びくともしない。結局、どうしたかなあ?記憶が曖昧なんだけど……何とか退治して、そいつを外に放りだし、家中の薬をかき集め、足に塗った……と思う。
 なので、そいつの再来のような極悪面の面々を見た途端、瑠紅のガーデニング意欲は消失した。そのせいで、正月の寄せ植えメンバーを別個の鉢に植え替えるタイミングを逃し、幾つか枯らした。その中には、ラベンダーもいて、「何か、また欲しい」と思った瑠紅は、ホームセンターへ行って買ってきた。暑さに強いのと二度咲きのを、二株ずつ。で、猛暑をくぐり抜けたポインセチアと、あと名前が分からないが葉っぱが赤くなる植物を大きな鉢に植え替えると同時に、ラベンダーたちも鉢に植えた。その後、ちょくちょく様子を見に行くと――、まずまず頑張っている。
 サバイバル精神旺盛な植物でないと、瑠紅んちの庭では、生きられない。その代表格はアップルゼラニウム。どこで手に入れたか記憶が定かではないが、瑠紅と共に、あっちこっち転々として今の場所に落ち着いたから、トータルで20年ぐらいは、生き延びているはず。一緒に手に入れたローズゼラニウムは、数年前に姿を消してしまったけれども。
 ローズゼラニウムとアップルゼラニウムは、花は、ほぼ一緒。葉っぱの形が違う。葉の香りは、ローズゼラニウムは、薔薇に似た香りでアップルゼラニウムはリンゴの香り。そのまんま。でも、ローズは確かに薔薇の香りだが、アップルは、そこまでリンゴリンゴしていないかな。瑠紅は一時期、香水の原料となるハーブに凝っていて、苗を手に入れて育て、収穫して乾燥させポプリにしたりして楽しんでいたが、今は、そんなことしてられなくて、庭で好きに過ごしてもらっている。その結果、ローズが姿を消した……。剪定の際に挿し穂を作り、土に挿して置いたら簡単に根付き、毎年、ピンク色の小花を咲かせてくれていたのだが。
 で、ローズとの抗争に勝利したアップルは、地に茎を這わせ、葉を広げている。そろそろ剪定すべきか、春前にするか。ムカデが出なければ、するけれど。
 そのローズとフェンス越しに睨み合っているのが、ツタ。斑入りのとそうでないのと二種類、植えて、フェンスに這わせていたのだが、ツタって茎がゴボウのように太くなるんだよね。で、フェンスが壊れるといけないので、思い切って抜いて消滅させたはずなのに、フェンスの外に避難し、隙あらば庭に入ろうとする。フェンスの向こうは共用部。瑠紅に、どうこうする権限はない。で、アップルとツタの睨み合いは続く……。って、そういうアップルはアップルで、フェンスの外に顔、出してない?――そろそろ手入れするか。 
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