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第1章 復活の帝王
1.戦争
しおりを挟むこの国の戦況は芳しくなかった。
古の時代、戦乱の世を終息させた英雄、クライスが初代国王のクライス王国の城の地下には、何百年にもわたって初代国王クライスが封印した古の時代の悪鬼、『死の帝王』ロウが今も深い微睡の中、目覚めの時を今か今かと待っている。
封印されて数百年の時が過ぎ、初代国王クライスがロウに施した封印も効力が弱まり、ロウが時折、深い微睡の中から目覚めようとしている素振りも見せている。
今は目覚めていないが明日にでも封印の微睡から目覚め、古の時代の悪鬼がこの世に蘇ってもおかしくはない状態なのだ。
それに、この国が戦争している相手の建前上は宗教の違い、クライス王国は邪教徒だというものだが、戦争を仕掛けてきた国はクライス王国の地下に封印され、眠っている『死の帝王』ロウを軍事目的で利用しようとしているのが見え見えであった。
初代国王クライスでも封印することがやっとだったロウを利用しようとして、国を滅ぼされるのが目に見えている。
そんなことが出来るわけがない、と相手の国の要人たちは笑うかもしれないが、数百年前にロウは数か国の国を滅ぼしたことがあるので間違いはない。
目覚めてすぐにそんな力がなくても、それは滅ぶ時がほんのちょっと遅くなったに過ぎないためである。
クライス王国の国王、ラディウスは悩んでいた。このままいけば、戦乱の世の再来になるかもしれないからだ。
しかし、今のクライス王国には『死の帝王』ロウを守り切るための余力は残っていなかった。
ラディウスは、城の地下に王太子と第一王女を伴って、降りて行く。
王太子は、金髪緑眼の整った顔立ちをした20、21歳ほどの若い男で、第一王女は、緩くウェーブのかかった淡い金髪にアメジスト色の瞳をした、国民から“王国の華”と呼ばれるほど美しい、16、17歳ほどの若い娘だ。
「お父様。どこに行くのですか?」鈴の鳴るような美しい声で、第一王女、レイチェルは聞いた。
「王国に代々伝わる地下室へ行くのだ。もう我々には、『死の帝王』ロウを守りきる余力はない。故に、『死の帝王』ロウに盟約を結ばせ、この国からお前を逃して貰おうと思っているのだ。」ラディウスはそうレイチェルに言った。
「お父様!?」レイチェルは驚いた声で叫んだ。
「嫌です。わたくし、戦争に負けてしまったらお父様達と共に、逝きます。わたくしを一人にしないでください。」レイチェルは泣きそうに言う。
「……レイチェルの言葉は嬉しいけどね、民も僕達も君には生きていて欲しいんだよ。」今まで口出ししていなかった王太子のクラウスは言った。
「……わかりました。わたくし、覚悟を決めます。ロウ様の所に案内してくださいませ。」レイチェルはそう振り絞るように言った。
「もう少しだ。」ラディウスがそう言うと、地下の大きな空間に出た。
ここが、地下室らしい。
そして。
地下室の奥には、石柱に磔はりつけにされた黒髪の男がいた。
この黒髪の男こそ、『死の帝王』ロウであった。
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