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12話 オルフェウスの剣

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古語で書かれたオルフェウスの名前。
意味ありげな表情で固まるギルファ。
ギルファの反応にはなじみがないけれど、オルフェウスの名前が刻まれた漆黒の刀剣には覚えがあった。
研究者の中でも、まことしやかに囁かれる噂のような都市伝説。
オルフェウスの使っていた伝説の魔剣だ。
それが、オルフェウスの魔剣である。
ギルファは何を思ったのか、そそくさと魔剣を鞘に仕舞った。
「お、おい!ギルファ!もっとよく見せろ!ルナリアも何ぼぉっとしてるんだよ!」
イブリス様は叫ぶが、私はオルフェウスの魔剣に見入ってしまって返事ができなかった。
「ルナ?」
ギルファが心配そうに私を覗き込んだ。
「……研究者の間にね………噂みたいな都市伝説があるの…………。オルフェウスの持っていた魔剣が存在するという都市伝説が……………。本当に………存在したのね…………。」
「存在したから、ここにあるんだろう。なんなら見るか?」
ギルファがそう言って、私に魔剣を差し出してくるので、私は魔剣を受け取った。
ずっしりと重い魔剣を鞘から引き抜く。
が。
引き抜くことは出来なかった。
「抜けないわ。」
私が困ったように呟けば、やっぱりか、というようにイブリス様は頭を振った。
「それ、皇家に伝わる宝剣なんだけどさ、代々誰も引き抜けなかったみたいで俺にくれたんだよ。飾るなり売るなり好きにしていいってさ。俺は売ろうと思ったんだけど、叔父上がな、俺が持っていればいつかその剣が抜かれる日を見ることができるって、予言したんだよ。叔父上のいう通りになったな。」
少し困惑しながらもイブリス様は言った。
多分、イブリス様の叔父上様の予言が当たったことに対する困惑と、ギルファが魔剣を抜いたことに対する困惑で半々だろう。
「お前に叔父がいるのか?」
ギルファが首を傾げた。
確かに、サーラス帝国の皇族は皇帝と正室の子である第一皇子から第三皇子、側室の子である第四皇子と第一王女だけだ。
「あー、このことは誰にも言わないって誓えるか?」
そうイブリス様は聞いたので、私もギルファも深くうなずいた。
「…………父上にはな、存在を秘された皇弟がいるんだ。先代の側妃の子でな、獣の耳と獣の尾を持つ忌み子として生まれたらしい。忌み子が生まれたことで、先代の側妃は処刑されて、叔父上はその存在を秘されたらしい。今、叔父上に会えるのは皇族と一部の大貴族だけだ。」
イブリス様の言葉に私は瞳を大きく見開く。
……存在を秘され、父に疎まれ母もなく生きるなんてこと、私にはできない………。
ちらり、とギルファを覗き見れば、ギルファも私と同じように驚いていた。
「……その、お前の叔父は…………」
「叔父上の名前は、アステリア・ニア・サーラスだ。ギルファ、なんか知りたいことでもあるのかよ?」
「アステリア?サーラスの禁忌たる狼アステリア・ニア・サーラス?」
そう言って、ギルファが首を傾げるので、イブリス様も少しばかり首を傾げた。
「ギルファ……お前、サーラスの古語も分かるのかよ?」
「……ああ。サーラスには昔縁があった。」
ギルファはそうイブリス様に答えると、もう質問は受け付けないというように、口を噤んだ。
ギルファはこうなれば、てこでも動かない。
私は、仕方なしに別の質問をした。
「アステリア・ニア・サーラスとはどういう意味?どうして、オルフェウスの魔剣が帝国あったのかしら?」
「アステリアが狼、ニアが禁忌という別々の意味をサーラスで繋げてるみたいだな。サーラスとは古語でサーラスの地に住まう狼の子、という意味だったはずだ。」
私の質問の一つを、ギルファが答えてくれる。
もう一つの質問については、イブリス様が首を横に振って、わからないと伝えてくれた。
「……って、サーラスってそんな意味だったのか?てっきり、俺はサーラス民族って意味かと…」
「サーラス民族はトゥア・サーラスだろう?」
ギルファは困ったようにイブリス様へ言う。
……こんなに困惑しているギルファは初めて見たかもしれないわ。
というよりも、イブリス様に古語を教えたのは帝国の古語に関わる研究者のはず。
研究者が間違えてた言葉を何故、ギルファが知っているの?
私は、それを質問することはなかった。
「……まぁ、ともかく!その剣はお前にやるよ。また、いいもん持ち込んだら勝負しようぜ。」
イブリス様が会話を打ち切り、闘技場の使用時間が終わりに近づいたことで、今回はお開きになった。

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