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11話 行方
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きゅうちゃんの件は、ギルファがどう言ったのかはわからないけれど、目撃者に状況を聞かれることなく終わった。
ギルファ、恐ろしすぎるわ。
その日のイブリス様との試合は結局無効になった。
きゅうちゃんの横槍が入ったものね。
代わりの試合は1週間後。
私たち3人だけで行われることとなった。
もちろん、私が審判役である。
1週間後、先生に闘技場の使用許可を貰い、闘技場に訪れていた。
本当は、訓練場で行うはずだったのだけれど、訓練場では誰が見ているかわからないから、と先生から特別に許可をもらったのだ。
きゅうちゃんは手出し禁止の一本勝負。
ギルファの獲物は、大剣。
しかし、ただの大剣ではなかった。
片刃の剣。
ギルファの持つ片刃の剣は薄く、切れ味もよい。
ギルファ曰く、極東の島国で作られる“太刀”という武器らしい。
切ることに特化した剣らしいが、横からの衝撃に弱いと言っていた。
対して、イブリス様の獲物は片手剣の二刀流。
一週間前の試合に使用した片手剣ともう一本の片手剣を追加したようである。
珍しい双剣使いだ。
イブリス様の片手剣は名工と名高いマラ氏が作った武器だと言われていて、マラ氏の作品の中でも最高峰の武器だと言われていた。
イブリス様の持つ片手剣は魔法エンチャントが施してあるのか、ほのかに光っている。
「イブリス様、ギルファ。準備は大丈夫ですか?」
三人だけとはいえ、これも正式な鱗の継承権の試合であるため、私はきちんと試合を進めなければならない。
二人が、コクリ、と頷くのを見て、私は魔法を発動した。
「我、古の大空と大地と海にかけ、この契約を見届けることを誓う。」
簡単な契約魔法だ。
これで二人は試合後、イブリス様が勝った場合、ギルファはオルフェウスの鱗をイブリス様に渡し、ギルファが勝った場合、イブリス様はオルフェウス時代の魔剣を渡すことを決められたことになる。
「では、両者構えてください。用意、はじめ!!」
私が大きく、試合開始の宣言をすると、ギルファは思いっきり地を蹴り、イブリス様へと剣を振り下ろした。
私は、きゅうちゃんと共にその場を離れる。
きゅうちゃんは試合に参加しないのならば、と私の護衛につけてくれたのだ。
これでギルファとイブリス様の試合に巻き込まれても、心配しなくてよいだろう。
イブリス様はギルファの剣を受け止めるではなく、避けることで回避した。
この前、受け止めて吹っ飛ばされたからだろうか。
「燃え滾る火炎の意思よ、姿を現し、わが敵を倒せ!」
イブリス様が行った魔法は、精霊魔法。
下級でも高火力を誇る火の下位精霊、サラマンダーに呼びかけたものだろう。
普段のイブリス様からは想像できない小手調べの火力だった。
「吹き荒べ、氷嵐。」
ギルファはめんどくさそうに、そう短く詠唱し、魔力を直接氷の嵐へと変えた。
普通、空気中の自然体魔力を媒体に、力ある言葉″言霊″で魔力を事象へと変える力を得ることができる。
そのため、詠唱が必要になるのだ。
なかには、頭の中で言霊を短く構築し、詠唱なし、所謂無詠唱で魔法を発動することができる人もいるらしいのだが、魔法を始めて何十年かけて至る極致なのだとか。
そんなかんじで、人間が直接事象へと魔力を変換するすべは、例外を除きありえないのである。
私もイブリス様も驚きに目を見開いた。
「爆ぜろ、炎帝!」
イブリス様は慌てて言った。
炎帝はイフリート。
炎の上位精霊である。
炎は火の上位属性で、火の下位精霊の何倍の力を持った精霊だ。
そのイフリートでイブリス様は氷の嵐を溶かし、剣を構え、ギルファに突進した。
ギルファは涼しい顔でイブリス様の剣を受け止め、弾いた。
イブリス様が空中で体制を崩す。
ギルファがその隙を逃すはずもなく、追撃した。
空中で体制を崩しながらも、イブリス様はギルファの剣を受け止めた。
イブリス様はギルファの力に耐えきれず、地面に転がった。
イブリス様は、地面に転がった体を起こそうとすると、イブリス様ののど元にギルファが剣の切っ先を向けた。
勝負あったわね。
「勝負あり!勝者ギルファ!」
私がそう宣言すると、ギルファは剣を鞘へと仕舞った。
心なしか嬉しそうである。
オルフェウス時代の魔剣、ね。
私も興味があるわ。
イブリス様は悔しそうに、うつむいている。
「くっそ、今度は絶対に勝つからな!!」
イブリス様はそうギルファに宣言する。
ギルファは嫌そうに顔を顰めた。
「………せいぜい俺の興味をそそるものを持ち込んでくるのだな。」
ギルファの言葉に私はクスクス笑った。
ほんと、ギルファは素直じゃないんだから。
「じゃあ、あの魔剣はお前のものだな。」
イブリス様は闘技場の端に置いていた剣を、ギルファに手渡した。
ギルファはその魔剣を、スラリ、と鞘から引き抜いた。
刀身は闇をも吸い込みそうな漆黒。
それでいて、光を反射しキラキラと輝いていた。
ギルファはその刀身を眺め、驚いたように固まった。
刀身の根元には古語でなにかが書かれている。
その古語は…………
『オルフェウス』
はい?
これは、もしかしてだけどオルフェウスの剣?
ギルファ、恐ろしすぎるわ。
その日のイブリス様との試合は結局無効になった。
きゅうちゃんの横槍が入ったものね。
代わりの試合は1週間後。
私たち3人だけで行われることとなった。
もちろん、私が審判役である。
1週間後、先生に闘技場の使用許可を貰い、闘技場に訪れていた。
本当は、訓練場で行うはずだったのだけれど、訓練場では誰が見ているかわからないから、と先生から特別に許可をもらったのだ。
きゅうちゃんは手出し禁止の一本勝負。
ギルファの獲物は、大剣。
しかし、ただの大剣ではなかった。
片刃の剣。
ギルファの持つ片刃の剣は薄く、切れ味もよい。
ギルファ曰く、極東の島国で作られる“太刀”という武器らしい。
切ることに特化した剣らしいが、横からの衝撃に弱いと言っていた。
対して、イブリス様の獲物は片手剣の二刀流。
一週間前の試合に使用した片手剣ともう一本の片手剣を追加したようである。
珍しい双剣使いだ。
イブリス様の片手剣は名工と名高いマラ氏が作った武器だと言われていて、マラ氏の作品の中でも最高峰の武器だと言われていた。
イブリス様の持つ片手剣は魔法エンチャントが施してあるのか、ほのかに光っている。
「イブリス様、ギルファ。準備は大丈夫ですか?」
三人だけとはいえ、これも正式な鱗の継承権の試合であるため、私はきちんと試合を進めなければならない。
二人が、コクリ、と頷くのを見て、私は魔法を発動した。
「我、古の大空と大地と海にかけ、この契約を見届けることを誓う。」
簡単な契約魔法だ。
これで二人は試合後、イブリス様が勝った場合、ギルファはオルフェウスの鱗をイブリス様に渡し、ギルファが勝った場合、イブリス様はオルフェウス時代の魔剣を渡すことを決められたことになる。
「では、両者構えてください。用意、はじめ!!」
私が大きく、試合開始の宣言をすると、ギルファは思いっきり地を蹴り、イブリス様へと剣を振り下ろした。
私は、きゅうちゃんと共にその場を離れる。
きゅうちゃんは試合に参加しないのならば、と私の護衛につけてくれたのだ。
これでギルファとイブリス様の試合に巻き込まれても、心配しなくてよいだろう。
イブリス様はギルファの剣を受け止めるではなく、避けることで回避した。
この前、受け止めて吹っ飛ばされたからだろうか。
「燃え滾る火炎の意思よ、姿を現し、わが敵を倒せ!」
イブリス様が行った魔法は、精霊魔法。
下級でも高火力を誇る火の下位精霊、サラマンダーに呼びかけたものだろう。
普段のイブリス様からは想像できない小手調べの火力だった。
「吹き荒べ、氷嵐。」
ギルファはめんどくさそうに、そう短く詠唱し、魔力を直接氷の嵐へと変えた。
普通、空気中の自然体魔力を媒体に、力ある言葉″言霊″で魔力を事象へと変える力を得ることができる。
そのため、詠唱が必要になるのだ。
なかには、頭の中で言霊を短く構築し、詠唱なし、所謂無詠唱で魔法を発動することができる人もいるらしいのだが、魔法を始めて何十年かけて至る極致なのだとか。
そんなかんじで、人間が直接事象へと魔力を変換するすべは、例外を除きありえないのである。
私もイブリス様も驚きに目を見開いた。
「爆ぜろ、炎帝!」
イブリス様は慌てて言った。
炎帝はイフリート。
炎の上位精霊である。
炎は火の上位属性で、火の下位精霊の何倍の力を持った精霊だ。
そのイフリートでイブリス様は氷の嵐を溶かし、剣を構え、ギルファに突進した。
ギルファは涼しい顔でイブリス様の剣を受け止め、弾いた。
イブリス様が空中で体制を崩す。
ギルファがその隙を逃すはずもなく、追撃した。
空中で体制を崩しながらも、イブリス様はギルファの剣を受け止めた。
イブリス様はギルファの力に耐えきれず、地面に転がった。
イブリス様は、地面に転がった体を起こそうとすると、イブリス様ののど元にギルファが剣の切っ先を向けた。
勝負あったわね。
「勝負あり!勝者ギルファ!」
私がそう宣言すると、ギルファは剣を鞘へと仕舞った。
心なしか嬉しそうである。
オルフェウス時代の魔剣、ね。
私も興味があるわ。
イブリス様は悔しそうに、うつむいている。
「くっそ、今度は絶対に勝つからな!!」
イブリス様はそうギルファに宣言する。
ギルファは嫌そうに顔を顰めた。
「………せいぜい俺の興味をそそるものを持ち込んでくるのだな。」
ギルファの言葉に私はクスクス笑った。
ほんと、ギルファは素直じゃないんだから。
「じゃあ、あの魔剣はお前のものだな。」
イブリス様は闘技場の端に置いていた剣を、ギルファに手渡した。
ギルファはその魔剣を、スラリ、と鞘から引き抜いた。
刀身は闇をも吸い込みそうな漆黒。
それでいて、光を反射しキラキラと輝いていた。
ギルファはその刀身を眺め、驚いたように固まった。
刀身の根元には古語でなにかが書かれている。
その古語は…………
『オルフェウス』
はい?
これは、もしかしてだけどオルフェウスの剣?
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