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プロローグ

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ポタリ、ポタリと水が滴る水音が、静謐な空間の中に響いた。
そして、一頭の漆黒の竜、否、龍が通り過ぎていった。通り過ぎた後、その場には風が吹き荒れた。
この空間の名は、《破鏡ノ世》と呼ばれるこの世界の裏側にある世界だった。
この世界には、一頭の孤高の支配者がいた。
鏡天竜という必ず世界に一頭だけしかいない竜がこの世界の支配者であった。
鏡天竜は、この世界の裏側から表の世界を覗いた。
そこには、黒い喪服を着た金ともブラウンともとれる美しい髪を持ち、澄んだ青空のような瞳を持つ少女が青い瞳いっぱいに涙を溜めて若い男女の写真を見ている。
若い男女は少女の父親と母親だったのだ。
鏡天竜は、少女の悲しむ姿に、グォォゥと小さく鳴いて、見るのをやめた。
《破鏡ノ世》を鏡天竜は持つ意味のないコウモリにある皮膜のような水掻きがある小さな翼をバタつかせて《破鏡ノ世》を水中を泳ぐように体をくねらせ、縦横無尽に飛び回った。
《破鏡ノ世》には鏡天竜の鳴き声が響き渡る。
鏡天竜は、ググッと首を弓なりにしならせ、口をガッと開くと口から巨大な暴風を吐き出し、《破鏡ノ世》に巨大な穴を開けると、その穴へと入っていった。
その穴から鏡天竜は、この世界の表へと出ていったのだった。



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