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「おい、セルス!」
赤いシートの上をようやく歩きなれたセルスに、今日は誰かが声を掛けてきた。
もう何日も1人で歩く廊下を、初めて誰かと並んで歩く事になる。
「誰?」
「俺だよ、知らないか?」
「ごめん、どこかで会った事あるか?」
振り返ったセルスの目の前に立つ、やたらと体の大きな男はニマッと笑うと、初対面だ。と言った。
「なら、知ってるわけがないだろう?」
「本当に知らないか………。いや、俺は3年のパテュグって言うんだ。」
「俺はセルスって言わなくても知ってるのか。」
セルスは軽いため息をついて、上から降りてくる視線にあわせて首を上げる。
「おめーはかなり有名だからなっ!!」
「俺が?」
ここに来て間もないセルスは、この学校の広さに中々なじむ事が出来ないでいるくらいなのに。
何せこの学校は全てが大きく、竜を連れて歩いても余裕があるくらい縦横にかなりの広さを持っているのだ。
ドラゴーネスクールの規模がどれほど小さい物かを思い知らされるばかりである。
「あぁ!おめーはその若さでこの学校にいるんだ。それはスゲー事なんだぞ!」
凄いと言われることには慣れてしまった。
何人の人に、どんな人に、凄いと言われても、セルスには分からない。
結局人を助ける事も、自分1人で行動することすら出来ないのだから。
「ヒナって言う天才ドラゴーネとその仲間たち以来だかんなぁ!!」
「ヒナ?」
どこかで聞いた事のあるような、いや、ないような。
セルスがそんな名前を聞いて、意識も無くそんな質問をするとパデュクは驚いた顔をした。
「知らねーのかっ!?あのヒナを!!」
「いまいち。」
「そーか、そりゃ俺のことも知らないはずだ。ヒナって言うマスターは、20年くらい前ここにお前よりも1つ年上で入ってきたんだ。」
そう言われて、セルスの頭に浮かんだのは中央等の大きなガラス張りのケース。
「そうか、思い出した!!その名前、ガラスケースで見つけたんだ!!」
「そうだ、そうだ。中央等のガラスケースの中に、幾つものメダルや賞状、記念碑とかが飾られてるだろ?」
そしてその傍らには、竜の爪のかけらが置かれていた。
「そりゃー、すげー人だったんだとよ!」
ズンズンとまるで自分の事のように、誇らしげに歩いていく大男に急いでついてく。
「で、お前はヒナ以来初の若かりしドラゴーネってわけだ。」
「へぇ」
その返事にセルスでも、パデュクの言葉に何の興味も無いのが分かった。
もちろん、彼がそれに気づかないはずはなく、セルスに勢いよく突っかかってきた。
「おめー、興味ねーのかよっ!!」
正直言うと、全く無い。
それがセルスの答えだった。
ここに立っているので精一杯のセルスが、たかが若くしてここに来たというだけであのガラスケースの中に入っているメダル達の持ち主と、同じ場所に立てているわけが無いのだ。
「俺は全然凄くなんてない。」
それは謙遜とかではなく、事実そうなのだ。
そういうセルスの顔をみて、パデュクはもう突っかかるのを辞めたのか、落ち着いた声を俺に聞かせた。
「勿体ねーなぁー。」
パデュクは高い高い天井を仰ぎながらそんな言葉をセルスに漏らした。
勿体ない?
そんな風にセルスは心の中で呟いた。
「え?」
「ヒナだって、お前と全く同じだったんだろーに。」
何が言いたいのか、全く理解できなくて聞き返すセルスに、彼は今度ははっきりと俺を見てそういった。
「え?」
「この広さに慣れなくて、うろうろしたり、その年の生徒会長を知らなかったり。この赤いシートをテクテクと歩いて成長したんだぞ。」
考えても見れば、そうだろう。
始めてこんなどでかい場所に連れてこられて、全てを知っていくのだから。
「だから勿体ねーなーと思ったんだ。」
パデュクがそういった意味が、今ようやく分かった。
セルスにはヒナのようになる、いや、それ以上になれる可能性があるという意味だったのだ。
「今の俺じゃ到底無理ってことか。」
「“今のお前”じゃぁなぁ。」
ここに立っていることに必死だとか、セルスが決め付けただけ。
もっと先を求めて、手を伸ばせば、その“必死”はいとも簡単に崩れてしまうのだろう。
「えっと、パテュグ?」
「ん?」
「それで君は、生徒会長だったりするのか?」
セルスは考えていた事を彼に言うと、パデュクはまたニマッと笑ってみせる。
「正解だ!!」
必死だなんて言葉は、終わった後に気づくんだ。
今、この時にそんなことは分からない。
分からなくなるくらいに、手を伸ばし続けて、その先を求め続けて。それが必死ってことだから。
ヒナというその人も、セルスと同じだった。
いや、皆同じだったんだ。
ここから頑張れるのかどうかが、先へと進む、あのガラスケースの中に入れるかどうかなんだ。
「これから、よろしくな。」
「こちらこそ。」
例え今がどれほど愚かであろうと、劣っていようと、セルスにはここから進む力がある。
伸ばされたゴツゴツした手に、セルスは手を重ねた。
“これから”を信じて。
赤いシートの上をようやく歩きなれたセルスに、今日は誰かが声を掛けてきた。
もう何日も1人で歩く廊下を、初めて誰かと並んで歩く事になる。
「誰?」
「俺だよ、知らないか?」
「ごめん、どこかで会った事あるか?」
振り返ったセルスの目の前に立つ、やたらと体の大きな男はニマッと笑うと、初対面だ。と言った。
「なら、知ってるわけがないだろう?」
「本当に知らないか………。いや、俺は3年のパテュグって言うんだ。」
「俺はセルスって言わなくても知ってるのか。」
セルスは軽いため息をついて、上から降りてくる視線にあわせて首を上げる。
「おめーはかなり有名だからなっ!!」
「俺が?」
ここに来て間もないセルスは、この学校の広さに中々なじむ事が出来ないでいるくらいなのに。
何せこの学校は全てが大きく、竜を連れて歩いても余裕があるくらい縦横にかなりの広さを持っているのだ。
ドラゴーネスクールの規模がどれほど小さい物かを思い知らされるばかりである。
「あぁ!おめーはその若さでこの学校にいるんだ。それはスゲー事なんだぞ!」
凄いと言われることには慣れてしまった。
何人の人に、どんな人に、凄いと言われても、セルスには分からない。
結局人を助ける事も、自分1人で行動することすら出来ないのだから。
「ヒナって言う天才ドラゴーネとその仲間たち以来だかんなぁ!!」
「ヒナ?」
どこかで聞いた事のあるような、いや、ないような。
セルスがそんな名前を聞いて、意識も無くそんな質問をするとパデュクは驚いた顔をした。
「知らねーのかっ!?あのヒナを!!」
「いまいち。」
「そーか、そりゃ俺のことも知らないはずだ。ヒナって言うマスターは、20年くらい前ここにお前よりも1つ年上で入ってきたんだ。」
そう言われて、セルスの頭に浮かんだのは中央等の大きなガラス張りのケース。
「そうか、思い出した!!その名前、ガラスケースで見つけたんだ!!」
「そうだ、そうだ。中央等のガラスケースの中に、幾つものメダルや賞状、記念碑とかが飾られてるだろ?」
そしてその傍らには、竜の爪のかけらが置かれていた。
「そりゃー、すげー人だったんだとよ!」
ズンズンとまるで自分の事のように、誇らしげに歩いていく大男に急いでついてく。
「で、お前はヒナ以来初の若かりしドラゴーネってわけだ。」
「へぇ」
その返事にセルスでも、パデュクの言葉に何の興味も無いのが分かった。
もちろん、彼がそれに気づかないはずはなく、セルスに勢いよく突っかかってきた。
「おめー、興味ねーのかよっ!!」
正直言うと、全く無い。
それがセルスの答えだった。
ここに立っているので精一杯のセルスが、たかが若くしてここに来たというだけであのガラスケースの中に入っているメダル達の持ち主と、同じ場所に立てているわけが無いのだ。
「俺は全然凄くなんてない。」
それは謙遜とかではなく、事実そうなのだ。
そういうセルスの顔をみて、パデュクはもう突っかかるのを辞めたのか、落ち着いた声を俺に聞かせた。
「勿体ねーなぁー。」
パデュクは高い高い天井を仰ぎながらそんな言葉をセルスに漏らした。
勿体ない?
そんな風にセルスは心の中で呟いた。
「え?」
「ヒナだって、お前と全く同じだったんだろーに。」
何が言いたいのか、全く理解できなくて聞き返すセルスに、彼は今度ははっきりと俺を見てそういった。
「え?」
「この広さに慣れなくて、うろうろしたり、その年の生徒会長を知らなかったり。この赤いシートをテクテクと歩いて成長したんだぞ。」
考えても見れば、そうだろう。
始めてこんなどでかい場所に連れてこられて、全てを知っていくのだから。
「だから勿体ねーなーと思ったんだ。」
パデュクがそういった意味が、今ようやく分かった。
セルスにはヒナのようになる、いや、それ以上になれる可能性があるという意味だったのだ。
「今の俺じゃ到底無理ってことか。」
「“今のお前”じゃぁなぁ。」
ここに立っていることに必死だとか、セルスが決め付けただけ。
もっと先を求めて、手を伸ばせば、その“必死”はいとも簡単に崩れてしまうのだろう。
「えっと、パテュグ?」
「ん?」
「それで君は、生徒会長だったりするのか?」
セルスは考えていた事を彼に言うと、パデュクはまたニマッと笑ってみせる。
「正解だ!!」
必死だなんて言葉は、終わった後に気づくんだ。
今、この時にそんなことは分からない。
分からなくなるくらいに、手を伸ばし続けて、その先を求め続けて。それが必死ってことだから。
ヒナというその人も、セルスと同じだった。
いや、皆同じだったんだ。
ここから頑張れるのかどうかが、先へと進む、あのガラスケースの中に入れるかどうかなんだ。
「これから、よろしくな。」
「こちらこそ。」
例え今がどれほど愚かであろうと、劣っていようと、セルスにはここから進む力がある。
伸ばされたゴツゴツした手に、セルスは手を重ねた。
“これから”を信じて。
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