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32.仲間
しおりを挟むフワリと世界を撫でていく風が、何故だか心を温かくした。
そんな草原にゆっくりと龍は足を下ろし、その後ろでもう一匹の竜が地に足を下ろした。
「ここ、どこですか?」
アセナが“ここ”と言った場所は、世界を繋ぐ青い海が良く見える草原で、そこには幾つかの白い墓がある。
その白い花がポツポツと咲いているような景色には不釣り合いな木が大きく生命を示して立っていた。
「ここは生けるべき生命の最後の場所と呼ばれている楽園、ヴィータレシア。」
「え?ここが!?」
ヴィータレシアはたくさんの神話や、伝説にも出てきて、この世界では幻だといわれ、また現実に存在する楽園。
命を司る竜が管理する場所だ。
生けるべき生命とは、神が愛したままこの地を離れた命のことである。
いわば、死ぬ事が望まれる事の無かった死者の最後の場所。
「その様子だと、ここに来るのは初めてかい?」
「初めて………だと思います、多分。」
「何だ、その曖昧な返事は。」
「よく、分かりません。来たことはないはずなのに、何だかとても懐かしいんです。」
アセナは少し悲しそうな目をした。
その後ろで白竜がその場に相応しく空を飛んだ。
「ここに眠っているんだ。この、ヴィータレシアに。」
「誰がですか?」
「僕の仲間達だよ。僕の仲間は絆で結ばれた仲間だった。実の妹もいたよ。だけど、死んだんだ。今で言う戦争なのかな。その戦争で。仲間が次々に命を落とした。」
ヒビキはどこか遠くを見ているようで。
懐かしさの篭った目をしていた。
「僕たちは約束していたんだ。みんな、欠けることなく、生き残ろうってね。でも、果たされなかった。それだけ、激しい戦いだった。僕たちは守れなかった命の数だけ後悔して、今ある命の数だけ戦った。戦いが終わった時には…………もう、殆どの仲間が残っていなかったよ。そして、僕たちは世界の各地に散った。果たされることのなかった約束のため、死に際に交わした約束のために。死んでいった仲間たちは、ヴィータレシアの風に呼ばれてここに眠った。定期的に参りに来るようにしてるんだ。僕は君に見せたかった。戦いの先にあるのが、名誉だけではないことを。」
ヒビキの言葉は実に実感が篭っていた。
だが、ヒビキの生きている時代にそれだけ大きな戦争は無かったはずである。
いや、歴史上に一度しかない。
ドラグーン7勇者の戦乱の時代だ。
「もしかして………省長官は…………ドラグーン、なんですか?」
アセナは聞いた。
そうとしか、思えなかった。
ドラグーンは謎が多いドラゴーネの上位職だ。
そして、伝説とも化している。
その伝説が、アセナの目の前にいるかもしれないのだ。
「…………………そうだよ。」
長い長い沈黙の後に、ヒビキから肯定の言葉が返っててきた。
「もう、かれこれ二千年は生きてるかな。ドラグーンは主と騎竜の命をリンクするからね。竜の寿命だけ、主は生きる。そして、どちらかが死んだ時、両方の命が消えるんだ。」
ヒビキの口から語られた真実。
「………君はそんな僕をどう思うかい?死んだ仲間を置いて生きる僕を。」
「………省長官は省長官ですよ。総予省の省長官で、コトさんの大事な人。省長官を大切に思ってる人は沢山いるはずです。そんな省長官を私は尊敬してますよ。」
アセナの言葉に幾分か、ヒビキの表情が和らいだ。
「そうかい。じゃあ、もう少し頑張ってみようかな。」
そう言うと、ヒビキは笑った。
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