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27.独白(sideヒビキ)
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「何笑ってるんですか。」
部下の1人が僕のほうを見ながら、恐る恐るというふうに聞いてきた。
「……笑ってた?」
「はい。」
そう、とだけ呟いて口を堅くする。
“今の言葉、撤回してください。”
まさか、あんなに真っ直ぐで強い信念を抱くドラゴーネだとは思わなかった。
きっと去年と同じで、ドラゴーネだなんて呼べるわけのない奴だと思っていた。
それなのに、そこに立っているのは揺ぎ無い信念をその目に見せるドラゴーネだった。
「だから、何がおかしいんですか。」
「また笑ってた?」
「はい。何がそんなにおかしいのですか?」
「いや、ドラゴーネスクールからの見習いがいるだろう?」
あの子は中々おもしろい。
「あ。また意地悪な質問をしたんでしょう?」
意地悪といえば、意地悪かもしれない。
上司である僕にそんな風に言われれば、誰だって逆らえはしないのだから。
「うん、したよ。」
「え?」
「なんでもない。それより、見習いにも出来るような仕事あるかい?」
心の中で思った。流石白竜が選んだ者なだけある、と。
正直、あんなに幼い少女があんな風に逆らうなんて思いもしなかった。
それにあの目はきっと、僕に逆らうという事がどれほど危険かという事も知っていた。
「えっ!?」
「何だい?」
「い、いえ。その……省長官が自ら見習いにお仕事を与えるなんて……」
「で、ある?」
仕事をしたいと訴えていた目。
あの目に答えてやりたいと思う自分がいる。
「いえ………、今日省長官がグレンに与えた仕事が全て見習いの分でしたから。」
そうだった、と心の中で思い返す。
僕は自分の感情と勘を信じる。
あの目はきっと世界を動かすようになる。
そして、いつかは僕たちの後継に。
そんな気がして仕方ないんだ。
「なら、仕事を作ろうか。」
「は?」
「見習いに出来る仕事を、探して来な。無ければ作って。」
あの目をここで出来るだけ伸ばしてやりたい。
僕に出来る精一杯で、たくさんの事を経験させて、成長させたい。
「そんな……冗談きついですよ。見習いに出来る仕事なんて元々うちには……」
「グレンは全てを終えていると思う?」
「え?えぇ。多分。」
グレンもしっかりした奴だ。
竜思いで、やれと言った事は必ずこなしてくる。
「でも、少し今回はきついかもしれません。」
「だろうね。」
「あ、そうだ!!グレンに与えていた本棚整理と書在庫の整理を見習いに与えればいいんですよ!」
ひらめいた!というふうに、そう言いながら総予省への扉を開け僕を通した。
「残念だけど、それは叶わないようだね。」
「はい?」
部屋の端の古い本棚が置いてある場所を横目に見て、僕が呟くとマヌケな声が返ってくる。
「もう、片付けは終わっているようだ。」
出て行く前までは各棚にびっしりと詰め込まれるようにして置かれていた書類が全て綺麗に収まっている。
「本当ですね。流石グレン、仕事が早い。」
「いや、グレンじゃあないね、あれは。」
その本棚の下に小さな少女が1人立っていて、その少女は何やら呪文を唱えている。
「あれは見習い!?」
「そのようだよ。」
驚いた。
仕事を与えなければ、きっとずっと座り込んでいると思っていたのに。
ドアの前に立つ僕に駆け寄ってきたライは嬉しそうな顔をしている。
「お帰りなさい、省長官!!」
「ただいま。どうかしたの?」
「聞いてください!あの子、びっくりしますよ!!」
その声は興奮しきっていて、落ち着けないというふうだった。
「何?」
「あの汚かった本棚1時間半で片付けて、それから各担当者に期限を記した予定書と希望書を配布したんです!!その上、この部署のデスクに座って仕事をしている全員にお茶を配って、床まで掃除したんですよ!!」
そう言われれば床は綺麗だし、何だか皆ニコニコしている。
「で、あれは今何をしているの?」
「あぁ、あれですか?あれは自動で書類を分けて、各棚にその書類を片付ける魔法を棚にかけているそうです。」
開いた口がふさがらないような気持ちだった。
学歴書には、まだ15歳と書かれていて、あの学校で最下位のクラスだったと記されていたのに。
「誰がどの担当者など、どうして知っているの?」
そんな事を教えた覚えはないし、それを知らなければ、予定書も希望書も配る事なんかできない。
「それは、わざわざ中央塔の登録欄にある部署所属者名簿を借りて、調べてたみたいですよ。」
ここから10分も離れた中央図書館まで。
誉めるというより、凄いとかそんなもんじゃなく、もう呆れるような気分だった。
そんな気持ちで呪文を唱えている少女の小さな背中を見つめる。
たった15にしかならない少女が、何も知らないこの場所で、自ら仕事を見つけたのだ。
僕はまだ何も言わず、彼女の背中を見ているだけだった。
「あ、終わったみたいです。」
その少女から放たれた光が、少しずつ弱くなり、やがて空気に混ざるように消えた。
「あの年にして、これほどの呪を、ね。」
僕は思い出していた。
あの年の頃の僕らのこと。
彼女はその魔法を試しているようで、何枚かの書類を本棚の前に差し出しその手を放した。
するとその書類は重力に逆らい、ヒラヒラと別々の棚に自ら戻っていくように片付けられる。
「凄いですよ、彼女!!」
「だろっ?!」
何も言わないんじゃなく、何も言えない。
「ライ、未記入の見積書5件、急いで用意して。」
「はい!!」
ようやく口に出来た言葉は、こんなくだらない命令で。
最初、彼女がここに立ったのを見た時は、2カ月間もこんな小娘の子守をしなければならないのかと思った。
それが今では、たった2カ月で何をしてやれるだろうかと考えている自分がいる。
自ら成長する事を望み、その可能性を自ら広げる。
あんな小さな少女に、僕がしてやれる事はあるのだろうかと。
「いや、10件。10件だ。」
「えっ?あ、はいっ。」
伝説のドラゴーネへの道を、手伝う事ができるのだろうか。
やっぱり僕はまだまだ未熟だなあ。
部下の1人が僕のほうを見ながら、恐る恐るというふうに聞いてきた。
「……笑ってた?」
「はい。」
そう、とだけ呟いて口を堅くする。
“今の言葉、撤回してください。”
まさか、あんなに真っ直ぐで強い信念を抱くドラゴーネだとは思わなかった。
きっと去年と同じで、ドラゴーネだなんて呼べるわけのない奴だと思っていた。
それなのに、そこに立っているのは揺ぎ無い信念をその目に見せるドラゴーネだった。
「だから、何がおかしいんですか。」
「また笑ってた?」
「はい。何がそんなにおかしいのですか?」
「いや、ドラゴーネスクールからの見習いがいるだろう?」
あの子は中々おもしろい。
「あ。また意地悪な質問をしたんでしょう?」
意地悪といえば、意地悪かもしれない。
上司である僕にそんな風に言われれば、誰だって逆らえはしないのだから。
「うん、したよ。」
「え?」
「なんでもない。それより、見習いにも出来るような仕事あるかい?」
心の中で思った。流石白竜が選んだ者なだけある、と。
正直、あんなに幼い少女があんな風に逆らうなんて思いもしなかった。
それにあの目はきっと、僕に逆らうという事がどれほど危険かという事も知っていた。
「えっ!?」
「何だい?」
「い、いえ。その……省長官が自ら見習いにお仕事を与えるなんて……」
「で、ある?」
仕事をしたいと訴えていた目。
あの目に答えてやりたいと思う自分がいる。
「いえ………、今日省長官がグレンに与えた仕事が全て見習いの分でしたから。」
そうだった、と心の中で思い返す。
僕は自分の感情と勘を信じる。
あの目はきっと世界を動かすようになる。
そして、いつかは僕たちの後継に。
そんな気がして仕方ないんだ。
「なら、仕事を作ろうか。」
「は?」
「見習いに出来る仕事を、探して来な。無ければ作って。」
あの目をここで出来るだけ伸ばしてやりたい。
僕に出来る精一杯で、たくさんの事を経験させて、成長させたい。
「そんな……冗談きついですよ。見習いに出来る仕事なんて元々うちには……」
「グレンは全てを終えていると思う?」
「え?えぇ。多分。」
グレンもしっかりした奴だ。
竜思いで、やれと言った事は必ずこなしてくる。
「でも、少し今回はきついかもしれません。」
「だろうね。」
「あ、そうだ!!グレンに与えていた本棚整理と書在庫の整理を見習いに与えればいいんですよ!」
ひらめいた!というふうに、そう言いながら総予省への扉を開け僕を通した。
「残念だけど、それは叶わないようだね。」
「はい?」
部屋の端の古い本棚が置いてある場所を横目に見て、僕が呟くとマヌケな声が返ってくる。
「もう、片付けは終わっているようだ。」
出て行く前までは各棚にびっしりと詰め込まれるようにして置かれていた書類が全て綺麗に収まっている。
「本当ですね。流石グレン、仕事が早い。」
「いや、グレンじゃあないね、あれは。」
その本棚の下に小さな少女が1人立っていて、その少女は何やら呪文を唱えている。
「あれは見習い!?」
「そのようだよ。」
驚いた。
仕事を与えなければ、きっとずっと座り込んでいると思っていたのに。
ドアの前に立つ僕に駆け寄ってきたライは嬉しそうな顔をしている。
「お帰りなさい、省長官!!」
「ただいま。どうかしたの?」
「聞いてください!あの子、びっくりしますよ!!」
その声は興奮しきっていて、落ち着けないというふうだった。
「何?」
「あの汚かった本棚1時間半で片付けて、それから各担当者に期限を記した予定書と希望書を配布したんです!!その上、この部署のデスクに座って仕事をしている全員にお茶を配って、床まで掃除したんですよ!!」
そう言われれば床は綺麗だし、何だか皆ニコニコしている。
「で、あれは今何をしているの?」
「あぁ、あれですか?あれは自動で書類を分けて、各棚にその書類を片付ける魔法を棚にかけているそうです。」
開いた口がふさがらないような気持ちだった。
学歴書には、まだ15歳と書かれていて、あの学校で最下位のクラスだったと記されていたのに。
「誰がどの担当者など、どうして知っているの?」
そんな事を教えた覚えはないし、それを知らなければ、予定書も希望書も配る事なんかできない。
「それは、わざわざ中央塔の登録欄にある部署所属者名簿を借りて、調べてたみたいですよ。」
ここから10分も離れた中央図書館まで。
誉めるというより、凄いとかそんなもんじゃなく、もう呆れるような気分だった。
そんな気持ちで呪文を唱えている少女の小さな背中を見つめる。
たった15にしかならない少女が、何も知らないこの場所で、自ら仕事を見つけたのだ。
僕はまだ何も言わず、彼女の背中を見ているだけだった。
「あ、終わったみたいです。」
その少女から放たれた光が、少しずつ弱くなり、やがて空気に混ざるように消えた。
「あの年にして、これほどの呪を、ね。」
僕は思い出していた。
あの年の頃の僕らのこと。
彼女はその魔法を試しているようで、何枚かの書類を本棚の前に差し出しその手を放した。
するとその書類は重力に逆らい、ヒラヒラと別々の棚に自ら戻っていくように片付けられる。
「凄いですよ、彼女!!」
「だろっ?!」
何も言わないんじゃなく、何も言えない。
「ライ、未記入の見積書5件、急いで用意して。」
「はい!!」
ようやく口に出来た言葉は、こんなくだらない命令で。
最初、彼女がここに立ったのを見た時は、2カ月間もこんな小娘の子守をしなければならないのかと思った。
それが今では、たった2カ月で何をしてやれるだろうかと考えている自分がいる。
自ら成長する事を望み、その可能性を自ら広げる。
あんな小さな少女に、僕がしてやれる事はあるのだろうかと。
「いや、10件。10件だ。」
「えっ?あ、はいっ。」
伝説のドラゴーネへの道を、手伝う事ができるのだろうか。
やっぱり僕はまだまだ未熟だなあ。
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