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11.クラスSの試験
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「ロイー!」アセナは人混みの中、ロイを見つけて大きな声を上げた。
「…アセナ?」ロイは驚いたように名前を呼ぶ。
「やっぱり、ロイもクラスSの試験、受けるんだね。」アセナはニコニコとロイへ言った。
広い講堂にごったがえす人々は皆、クラスSの昇格試験を受ける者たちだ。
試験の内容を確認しに、ここへ集まったのだ。
そんな場所にアセナがいるわけないと目を何度も瞬いた。
だが、アセナは消えることもなく、綺麗な笑顔でロイを見ていた。
「まさか、アセナも受けるの!?」
「まさかって、失礼な。この試験でクラスSを目指してるよ。」ため息と共にアセナは答える。
「ま、まぁいい経験になるよね。」
「ふふ、ロイも冗談言えたんだね。」アセナがそう答えたため、ロイは顔をひきつらせるように笑った。
ロイの本気の言葉に気付くことなく、そう言ったアセナは受かる自信があるのだろう。
「そっか。お互い頑張ろう。」
「うん。ロイには負けないよ。」
試験まで一週間になった。
家でも、スクールでも一生懸命練習した。
試験内容は一時間で、最初の30分で指定された魔法を使い、その後続けて30分間、フリーで自分の力を試験官に見せるのだ。
試験まであと一週間。
それだけしかない、と。
アセナは焦った。
『焦らなくても大丈夫ですよ。』キルアは優しい声でアセナに呼びかける。
「ありがとう。…だけど、決まらないの。」アセナは言う。
キルアは、アセナにセルスやリラに相談してみては、と告げる。
が。
「私は一人で頑張りたいのっ!」と大きい声でキルアに当たった。
アセナは時間のなさに、少し苛立っていた。
「っ!!ごめん…キルアに…当たるなんて。」アセナはシュンとして、言う。
『アセナ、私は貴女が好きです。精一杯、頑張っているのも知っています。魔法なんて、出来なくても私は貴女が好きなんです。』キルアは微笑んで、そう告げた。
「ありがと。」
そう言ってくれるのは嬉しい、とアセナは思う。
だが、それも今は唯の甘えにしか思えなかった。
『散歩に、行きましょう?』
キルアがその感情を読み取ったのかは、分からない。
だが。
キルアはそう聞いた。
「…………行く。」
『ふふ、良かった。』
アセナは、あまりにも美しい白い鱗に触れながら、キルアの背に跨った。
ふわり、と地面から足を離れさせて、空を飛ぶ。
紅い夕焼けが、紅く雲を染めている。
「綺麗だね。」
『はい。』
会話が無くなり、風の音が聞こえる。
世界はゆっくり動いている。
焦る必要などなかった。
分からないのであれば、ゆっくり、頭の中を空っぽにして、一から考えてみればよかったのだ。
焦ったせいで、大切な気持ちを忘れていたかもしれない。
『アセナは………アセナは、私が何色をしていても、契約してくれましたか?』
それは、アセナが考えもしなかった言葉だった。
「もちろん。………私は、キルアが白いから契約したんじゃない。私を呼んだのがキルアだったから。キルアが、私を必要としてくれたから、契約したの。」
『私は、白い色をしていたせいで、何人もの人間から契約を求められていました。』
だから知りたかった、とそう言った。
キルアは優しい。
他人よりも何倍も。
だから。
人一倍苦しんで。
『私とアセナは似た者同士ですね。あの時、私は認めたくなくて、嘘をつきました。………本当は、ずっと前からアセナの声が聞えていたんです。…だから、私もアセナと同じ理由で契約しました。』スッキリした顔でキルアは言った。
『貴女にしか出来ないこと、それがあなたの良さですよ。』
その時、アセナは気付いた。
魔法なんて本当はどうでもいい。
凄い魔法じゃなくても。
強い魔法じゃなくても。
それが自分にしか見せられない魔法なら。
キルアは知らなかったのだろうか。
キルアとアセナが出会ったとき、キルアは埃で茶色だったから、鱗の色が見えなかったことを。
「…アセナ?」ロイは驚いたように名前を呼ぶ。
「やっぱり、ロイもクラスSの試験、受けるんだね。」アセナはニコニコとロイへ言った。
広い講堂にごったがえす人々は皆、クラスSの昇格試験を受ける者たちだ。
試験の内容を確認しに、ここへ集まったのだ。
そんな場所にアセナがいるわけないと目を何度も瞬いた。
だが、アセナは消えることもなく、綺麗な笑顔でロイを見ていた。
「まさか、アセナも受けるの!?」
「まさかって、失礼な。この試験でクラスSを目指してるよ。」ため息と共にアセナは答える。
「ま、まぁいい経験になるよね。」
「ふふ、ロイも冗談言えたんだね。」アセナがそう答えたため、ロイは顔をひきつらせるように笑った。
ロイの本気の言葉に気付くことなく、そう言ったアセナは受かる自信があるのだろう。
「そっか。お互い頑張ろう。」
「うん。ロイには負けないよ。」
試験まで一週間になった。
家でも、スクールでも一生懸命練習した。
試験内容は一時間で、最初の30分で指定された魔法を使い、その後続けて30分間、フリーで自分の力を試験官に見せるのだ。
試験まであと一週間。
それだけしかない、と。
アセナは焦った。
『焦らなくても大丈夫ですよ。』キルアは優しい声でアセナに呼びかける。
「ありがとう。…だけど、決まらないの。」アセナは言う。
キルアは、アセナにセルスやリラに相談してみては、と告げる。
が。
「私は一人で頑張りたいのっ!」と大きい声でキルアに当たった。
アセナは時間のなさに、少し苛立っていた。
「っ!!ごめん…キルアに…当たるなんて。」アセナはシュンとして、言う。
『アセナ、私は貴女が好きです。精一杯、頑張っているのも知っています。魔法なんて、出来なくても私は貴女が好きなんです。』キルアは微笑んで、そう告げた。
「ありがと。」
そう言ってくれるのは嬉しい、とアセナは思う。
だが、それも今は唯の甘えにしか思えなかった。
『散歩に、行きましょう?』
キルアがその感情を読み取ったのかは、分からない。
だが。
キルアはそう聞いた。
「…………行く。」
『ふふ、良かった。』
アセナは、あまりにも美しい白い鱗に触れながら、キルアの背に跨った。
ふわり、と地面から足を離れさせて、空を飛ぶ。
紅い夕焼けが、紅く雲を染めている。
「綺麗だね。」
『はい。』
会話が無くなり、風の音が聞こえる。
世界はゆっくり動いている。
焦る必要などなかった。
分からないのであれば、ゆっくり、頭の中を空っぽにして、一から考えてみればよかったのだ。
焦ったせいで、大切な気持ちを忘れていたかもしれない。
『アセナは………アセナは、私が何色をしていても、契約してくれましたか?』
それは、アセナが考えもしなかった言葉だった。
「もちろん。………私は、キルアが白いから契約したんじゃない。私を呼んだのがキルアだったから。キルアが、私を必要としてくれたから、契約したの。」
『私は、白い色をしていたせいで、何人もの人間から契約を求められていました。』
だから知りたかった、とそう言った。
キルアは優しい。
他人よりも何倍も。
だから。
人一倍苦しんで。
『私とアセナは似た者同士ですね。あの時、私は認めたくなくて、嘘をつきました。………本当は、ずっと前からアセナの声が聞えていたんです。…だから、私もアセナと同じ理由で契約しました。』スッキリした顔でキルアは言った。
『貴女にしか出来ないこと、それがあなたの良さですよ。』
その時、アセナは気付いた。
魔法なんて本当はどうでもいい。
凄い魔法じゃなくても。
強い魔法じゃなくても。
それが自分にしか見せられない魔法なら。
キルアは知らなかったのだろうか。
キルアとアセナが出会ったとき、キルアは埃で茶色だったから、鱗の色が見えなかったことを。
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