伝説は白き竜と共に再び訪れる (旧題 ドラグーン~黒と白の幻の竜と古の勇者たち~)

クイーン・ドラゴン@アヤメ

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9.散歩とドラグーン

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アセナは、リラと別れてから、セルスを見つけた。

セルスは、屋上にある魔法樹の木の下に座り、難しそうな分厚い本を読んでいる。

アセナはセルスのとなりに座り、魔法樹の魔力の流れや鼓動を感じた。

セルスは本を読んでいて、アセナの気配に気づいた素振りも見せない。

だからといって、アセナが黙りこくっていると、どうかしたのか?と聞いてくる。

「気づいてたんだ。」アセナが隣を見ながら言うと、セルスは笑った。

「もちろん。気配には敏感なんだ。」セルスはそう答える。

「そうなんだね。……私、変かな?」

リラの言葉は嬉しかった。

しかし、相棒が白竜だから、そう言うのだ、と悲しい気持ちが心のどこかにあった。

「何を今更。」

「セルスは世界一になりたいの?」アセナは悲しみを隠しもしない蒼の瞳で、セルスに聞く。

「別に。目指すものはない。……自分のいけるところまでいいければ、俺はそれでいいんだ」

セルスの言葉が心地良い。

セルスはスクール一の天才ドラゴーネ。

彼が望めば、どこにだっていけるだろう。

「お前は?お前は何を目指してドラゴーネになったんだ?」セルスは本に視線を移し、聞く。

アセナは答えられない。

アセナは憧れただけだ。

白い竜に跨り、空を飛ぶ叔父のその姿に。

だが。

アセナはそれを見たとき、憧れと同時に、別の感情を抱いた。

違和感。

叔父は白竜に乗る側ではない気がした。

あまりにも、アセナの姿が儚く見えたからであろう。

セルスはパタン、と本を閉じて、言った。

「散歩にでもいこうか。」

「え?」

「来てくれ。」セルスは、声を出す。

その声は、とても静かで。

とても綺麗だった。

風が変わった。

この風をアセナは何処かで感じたことがある。

何処でかは、忘れてしまったが、確かに感じたことのある風であった。

ざわざわ、と木の葉が揺れる。

そして、空から黒い竜が姿を現した。

「俺の竜のノアだ。」セルスは竜を見ながら、言った。

『よろしく。』ノアは首をちょこん、と傾げ、らんらんと光る深紅の瞳でアセナを射抜いた。

「よろしく。」アセナも答える。

「お前も呼べ。」セルスはアセナへ言う。

____来て。

心の中でアセナは思う。

『跳んで?』キルアの声が聞こえた。

屋上から跳んで、ということに、アセナは気づく。

女は度胸。

「えぇいっ!!」アセナは屋上からぴょんっと飛び降りた。

「あ、アセナっ!?」

セルスの驚く声が聞える。

ヒュウ。

白い竜が飛んできて、アセナの下へと滑り込み、その白い背でアセナを受け止めた。

白竜が空へと舞い上がる。

アセナでも屋上から飛び降りるのは、怖かった。

だが。

キルアとは、心でつながっている。

だから。

大丈夫だと思った。

「アセナ!危ないだろ!」

ノアの背に乗って追いかけてきたセルスは、大きな声で言った。

「ふふふ。」アセナは笑う。

銀糸の髪が風で靡いた。

「はぁ。…いつ呼んだんだ。手も振らずに。」セルスはノアをキルアの隣に移動させて言った。

「心が繋がってるから、手を振って旋律をつくらなくても届くの。」アセナは笑った。

『母様たちみたいだ。笑い方とかよく似てる。』ノアがポツリ、と零した。

「ノア?」セルスは驚いたように名を呼んだ。

「ノアのお母さんは素敵な人なんだね。」アセナは笑った。

「アセナは軍隊になんて、入るつもりはないんだろ?」

「そうだね。」

「もっと別の、もっと上を目指してるんだろ?」

「そう。私は、世界でたった一組の、伝説のドラゴーネになって、絶対ドラグーンになるの。」

アセナの蒼の瞳には確固たる信念の光が宿っている。

「なら、上がってこい。せめて、俺のいる場所くらいには。」セルスはアセナに漆黒の瞳を向けて言った。

「頑張る。」アセナはセルスにそう答えた。



アセナがキルアとノアの背に乗ったセルスと空を飛んでいる頃、近くの森で三本の羽毛に覆われた尾を揺らし、大きく首を伸ばした純白の竜が空を舞う、純白の鱗の竜と漆黒の鱗の竜を眺めていた。

『兄上。次の世代は確実に育っているよ。……だから、僕たちも頑張らないとね。』白竜は小さく呟いた。

そして。

大きな翼をそっと広げる。

ばさり、ばさり。

翼を羽ばたかせた白竜は、誰を乗せるでもなく、飛び立っていった。
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