上 下
8 / 50

7.実習訓練

しおりを挟む
数日がたった。

「伝承のドラゴーネがクラスDなんて。」そんな声がどこからか聞こえた。

あれから、スクール中で噂になった。

伝承に伝わる伝説の白竜の主がアセナで、ドラグーンになる可能性があると。

表では。

羨ましい、と。

ドラグーンになれるよ、と。

お似合いだ、と。

口々にアセナを称えた。

だが。

裏では。

もっと優秀な人がいる、と。

なぜ自分ではないのか、と。

竜が可哀そう、と。

様々にアセナを貶した。

普通は止める立場である教師でさえ、そうだった。

一人を除いて。

その教師とは。

リリア・ストレイゼ。

ドラゴーネスクールでも三本指に入る高等ドラゴーネだった。

リリアは微笑む。

伝説の白竜と契約コントラクトした少女が、リリアには輝いて見えた。



「ふふん。」アセナは鼻歌を奏でながら、ご機嫌に廊下を歩む。

隣には、リラとロイの姿がある。

「アセナ、ご機嫌ね。」リラは微笑ましい、というように言った。

「どうしたんだ?」ロイは聞く。

「実はねぇ、次の授業が実習訓練なの。」アセナは笑った。

「へぇ。」と、ロイ。

「頑張ってね。」と、リラは微笑む。

「ありがと、リラ!」そうアセナは、リラに礼を言うとそのまま見送られて、その場を後にした。

実習訓練は、教師一人に二、三人の生徒が付いて行うものだ。

訓練場と呼ばれる屋外で、魔法を使う訓練だった。

今回は、騎竜と共に初めて実習を行うらしい。

外に向かう途中。

ちら、と赤銅色の髪が見えた気がした。

アセナは自分の勘に従って、突撃した。

「セルスーー!!」

「アセナ?」

その人物はやはりセルスであった。

「やっぱり、セルスだった。」にこやかにアセナは告げる。

「おれじゃなかったらどうしたんだよ。」呆れたように、はあ、とため息を一つついて言った。

「セルスだったから大丈夫。」アセナは輝かしい笑顔で告げた。

「なあ、アセナ___」セルスは、アセナに声をかける。

が。

アセナは外を見ると、ハッとしたようにセルスに背を向けた。

「次、実習訓練だった!!じゃあね、セルス!!」アセナは忙しなく言うと、タタタッと駆けていきすぐ姿を消した。

セルスは、アセナの消えた方をずっと眺めていた。



アセナは、外の魔法樹の木の下に教師を見つけた。

トトト、と近づく。

居たのは、リリア。

ただ、1人だった。

「ほかの生徒は、居ないんですか?」アセナはコテン、と首を傾げる。

「いないわ。貴女だけよ。クラスDで気になったのは貴女だけだったもの。」リリアは微笑んで、言った。

(ああ。私が、キルアを相棒にしたから凄いって思ってるんだ。)

アセナは、そう納得した。

「じゃあ、コールからやりましょうか?」リリアは言った。

コールとは、ドラグーンやドラゴーネが相棒の竜を呼ぶための基本的な魔法である。

手を挙げ、竜の名前を呼びながら、手を振り下ろす。

そうすると、竜がドラゴーネのいるところへ、舞い降りてくるのだ。

アセナは来い、と竜に命令するために魔力を流す。

心の中で呼ぶように。

直ぐ側にいる竜に呼びかけるように。

かつてアセナにある教師が言った言葉だ。

それを思い出して、アセナは流していた魔力を止めた。

魔力を出す瞬間になって、魔力を急に止めたアセナに、リリアは驚いた。

アセナはジッとリリアを見つめる。

「それって出来なきゃ駄目ですか?」アセナはリリアに言い放った。

「そうね。出来ないと、ドラゴーネとは認められないわ。」リリアは苦笑して言った。

「アセナちゃんがキルアに命令するのが嫌だということは、私にだって分かるのよ。」リリアは優しく笑った。

今では考えられない感情。

それでも、リリアには分かった。

ただ、その感情をリリアが分かっていたことに、アセナは驚く。

「私には、ドラゴーネが竜に命令する理由が分からないです。」アセナはリリアをまっすぐに見つめ、言う。

「そう。でも、コールを命令にするのは、アセナちゃん次第だわ。」

「私次第……?」アセナは、ぽつり、と言った。

「そうよ。いい?コールには種類が2つあるの。”来い”と”来て欲しい”は全く違う。でも、二つともコールなのよ。」リリアはアセナへ言った。

アセナは、にこり、と笑った。

さらり、とアセナの銀糸の髪が風に揺れ、いつも元気な雰囲気のアセナが一瞬だけ、儚く見えた。

そのとき。

遠くから、風の翔ける音が、微かに聞こえてくる。

「まさか……」

ヒュウ。

『そんなこと願わなくても、来て、と呼べばいいのに。』キルアは言った。

その声色は、独白に近い。

声わ上げずに。

手を振らずに。

心でキルアを呼んだ。

ありがとう。

アセナは、そうキルアに言った。

『はっきり聞こえるまでに少し時間がかかるみたいですね。』キルアは考察する。

時間がかかるのは、まだ安定していないからだろう。

安定したら。

アセナは恐ろしく凄いドラゴーネになるだろう。

「素敵。」

リリアはそう静かに零す。

アセナはきっと、高く美しく舞い上がっていくだろう。

あの空に____
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

少年剣士、剣豪になる。

アラビアータ
ファンタジー
 此処は架空の王国、クレムラート王国。木剣の音を聞くだけでも身の毛がよだつ程、武芸が嫌いな少年ルーク・ブランシュは、とある事件で恩人を喪ってしまう。恩人を葬った剣士、コジロウ・ミヤモトに一剣を見舞い、恩人の仇を討つため、一念発起、ルークは剣の修行に出る。  しかし、そんな彼の行く手を阻むのは、山賊野盗に悪剣士、ルークに恋する女達。仇の片割れハーラ・グーロに、恩人の娘もルークを追う。  果たしてルークは、剣の腕を磨き、仇を討てるのだろうか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...