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インフェルノ
悪意を裁く十の嚢
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グノートス遺跡 第8階層 17:39 p.m.(推定) フランチェスコ
第9階層の調査を終えた一同はきびつを返し、上で待つダミアンとロミーと合流した。
水没してこれ以上進めないこと。暖炉からの脱出が絶望的なこと。古代文明の痕跡が見つかったことを話した。
情報交換を終えると、自然とこれからどうするかの話になった。
「ひとまずは身を休めることが優先だ。ここには10部屋もあるのだし、1人1部屋を使って疲れを取ろう」
リュディガーはリーダーシップを取って提案する。
「部屋割りについてはどうします。個人的にはできるだけ広い部屋が良いんですが」
パラヘルメースが質問する。決める方法についてはリュディガーに考えはなかったらしく、しばらく頭を捻っていた。最終的には戦える者たちを優先して階段の近くに配することで決まった。
「あれはどうするよ。あんな目に付く場所に放置ってぇのは嫌だぜ」
ラルフはクロウル・ドラゴンの死骸を指した。鉄っぽい匂いがフランチェスコの鼻に香る。確かにこのまま放置というのは我慢ならない。
「下の階に運ぶのはどうですか。冷たい雪が腐敗を防いだりしますし、第9階層の涼しさが匂いを弱めてくれるでしょう」
パラヘルメースが的を得た答えを出す。しかし、誰がそれをやるのかまでを彼は云わなかった。当然誰もモンスターになど触りたくないからである。自然と皆の視線がフランチェスコに注がれる。
渋々フランチェスコは死骸運びを引き受けた。
清め布越しに矢を掴んで引っぱる。ブチュっという音とともに矢が抜け、どくどくと赤黒い血が流れ出した。急いで持ってきた壺の中に死骸を移す。
慎重に持ち上げると第9階層に降りた。フランチェスコは階段から一番近い部屋に置いて戻った。
「残る問題は上のモンスターたちだな。今のところ入ってくることは無さそうだが、夜間も見張りを立てておくべきだ」
リュディガーは腕を組み目配せする。
「ちょっと待ってよ。うちらに夜もこんなことしてろっていうの」
ロミーが苛立たしげに云った。
「リュディガー様、流石に酷使が過ぎるかと。せめて傭兵たちに交代でやらせるべきです」
部下の提案にリュディガーは少したじろぐ。エーレンフリートは熱心に説得を続け、終いには上司の首を立てに振らせた。合わせて、見張る順番を決めていく。
見張り役はダミアン、フランチェスコ、ラルフ、ロミーの順で行う。この並びに決まった理由は単純で、最初と最後の2人がまとまった睡眠時間を取れるためだ。
場所は第7階層に上がる階段前。自分の見張る時間が満了したら次の見張りを立たせ、第8・9階層を見回ったのち眠りにつく。見張りは0時から開始し、2時間ごとに交代して朝8時を迎える算段だ。時間の計測にはリュディガーが持参した2時間まで計れる砂時計を用いる。
「ところで、今は何時ですかな」
レアンドロは手のひらを腹に当てた。リュディガーはえーとと言い淀むと両手の指を折って数える。
「今は大体19時といったところです」
ちらりと砂時計を見るとちょうど半分くらいが落ちていた。
「19時。夕食にしてもいい時刻ですな」
フランチェスコはまったくお腹は減っていなかった。窮地に立たされているからか、それとも亡くなった傭兵たちへの引け目からか。原因は分からないが、食べた物が体内に動いている感覚があった。
しかし食べなければ生きていけない。自分はこころが折れようとしているのだと思い、フランチェスコは自分を奮い立たせた。
同じ階の一番広い部屋に集まって荷ほどきをする。パラヘルメースはあまり部屋を散らかすなよと小言を云った。
この大部屋はパラヘルメースに割り当てられたが、第8階層でひときわ広いため集合するときはここを使おうと話し合いで決めたのだ。
リュディガーは鞄から食料とぶどう酒を取り出した。一食分ずつにナイフで切り分け、各々勝手に食べ始める。
夕食は純白のパンだった。普段から雑穀の混ざった黒いパンばかり食べているフランチェスコにとって、これは大変な高級品である。ふわりとした手触り。ちぎれば馨しい小麦の香りが鼻に漂ってくる。頬張ると抵抗なく噛むことができ、上品な味が舌の上を弾む。こんな気分でなければ、とフランチェスコはもったいなく感じた。
第9階層の調査を終えた一同はきびつを返し、上で待つダミアンとロミーと合流した。
水没してこれ以上進めないこと。暖炉からの脱出が絶望的なこと。古代文明の痕跡が見つかったことを話した。
情報交換を終えると、自然とこれからどうするかの話になった。
「ひとまずは身を休めることが優先だ。ここには10部屋もあるのだし、1人1部屋を使って疲れを取ろう」
リュディガーはリーダーシップを取って提案する。
「部屋割りについてはどうします。個人的にはできるだけ広い部屋が良いんですが」
パラヘルメースが質問する。決める方法についてはリュディガーに考えはなかったらしく、しばらく頭を捻っていた。最終的には戦える者たちを優先して階段の近くに配することで決まった。
「あれはどうするよ。あんな目に付く場所に放置ってぇのは嫌だぜ」
ラルフはクロウル・ドラゴンの死骸を指した。鉄っぽい匂いがフランチェスコの鼻に香る。確かにこのまま放置というのは我慢ならない。
「下の階に運ぶのはどうですか。冷たい雪が腐敗を防いだりしますし、第9階層の涼しさが匂いを弱めてくれるでしょう」
パラヘルメースが的を得た答えを出す。しかし、誰がそれをやるのかまでを彼は云わなかった。当然誰もモンスターになど触りたくないからである。自然と皆の視線がフランチェスコに注がれる。
渋々フランチェスコは死骸運びを引き受けた。
清め布越しに矢を掴んで引っぱる。ブチュっという音とともに矢が抜け、どくどくと赤黒い血が流れ出した。急いで持ってきた壺の中に死骸を移す。
慎重に持ち上げると第9階層に降りた。フランチェスコは階段から一番近い部屋に置いて戻った。
「残る問題は上のモンスターたちだな。今のところ入ってくることは無さそうだが、夜間も見張りを立てておくべきだ」
リュディガーは腕を組み目配せする。
「ちょっと待ってよ。うちらに夜もこんなことしてろっていうの」
ロミーが苛立たしげに云った。
「リュディガー様、流石に酷使が過ぎるかと。せめて傭兵たちに交代でやらせるべきです」
部下の提案にリュディガーは少したじろぐ。エーレンフリートは熱心に説得を続け、終いには上司の首を立てに振らせた。合わせて、見張る順番を決めていく。
見張り役はダミアン、フランチェスコ、ラルフ、ロミーの順で行う。この並びに決まった理由は単純で、最初と最後の2人がまとまった睡眠時間を取れるためだ。
場所は第7階層に上がる階段前。自分の見張る時間が満了したら次の見張りを立たせ、第8・9階層を見回ったのち眠りにつく。見張りは0時から開始し、2時間ごとに交代して朝8時を迎える算段だ。時間の計測にはリュディガーが持参した2時間まで計れる砂時計を用いる。
「ところで、今は何時ですかな」
レアンドロは手のひらを腹に当てた。リュディガーはえーとと言い淀むと両手の指を折って数える。
「今は大体19時といったところです」
ちらりと砂時計を見るとちょうど半分くらいが落ちていた。
「19時。夕食にしてもいい時刻ですな」
フランチェスコはまったくお腹は減っていなかった。窮地に立たされているからか、それとも亡くなった傭兵たちへの引け目からか。原因は分からないが、食べた物が体内に動いている感覚があった。
しかし食べなければ生きていけない。自分はこころが折れようとしているのだと思い、フランチェスコは自分を奮い立たせた。
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この大部屋はパラヘルメースに割り当てられたが、第8階層でひときわ広いため集合するときはここを使おうと話し合いで決めたのだ。
リュディガーは鞄から食料とぶどう酒を取り出した。一食分ずつにナイフで切り分け、各々勝手に食べ始める。
夕食は純白のパンだった。普段から雑穀の混ざった黒いパンばかり食べているフランチェスコにとって、これは大変な高級品である。ふわりとした手触り。ちぎれば馨しい小麦の香りが鼻に漂ってくる。頬張ると抵抗なく噛むことができ、上品な味が舌の上を弾む。こんな気分でなければ、とフランチェスコはもったいなく感じた。
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