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インフェルノ
暴力者は末路にいる
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グノートス遺跡 第8階層 16:35 p.m.(推定) フランチェスコ
フランチェスコたちの前に道が二手に分かれている。
右手はまっすぐ。左手は曲がりくねっている。
「どっちから行きましょうか」
フランチェスコは皆に問うた。エーレンフリートが答える。
「真教の救い主は右側のものを天国に導き、左側のものを火の池に沈めた。私が分かれ道を選ぶなら、当然右だな」
一同は右の道から進んでいく。フランチェスコは壁に背中を預け、横向きに移動しながら先を伺う。
ここには出っ張るように部屋が2つ並んでいた。のぞき込むと、どちらもがらんどうだった。生き物がいたような形跡は見当たらない。
階段から15メートルほど進むと壁に突き当たる。そこから左に道が伸びており、ここは第8階層の角のようである。
「おい、そこの床を見ろ」
リュディガーが足元を指差す。第7・8階層を繋ぐ階段に蓋してあった石畳と同じものがそこにあった。
フランチェスコとラルフが両端から持ち上げた。またしても下りの階段である。その先は真っ暗な闇の空間が広がっており、第9階層に通じているようだ。
「これが天の国か」
ニヤケ顔でラルフが云った。
「まあ、神の右手側は私達の左手に当たりますから」
アイディンは冷静に返す。
「どうします。先に下を調べますか」
フランチェスコは全員に向けて聞いた。
「この階から廻ってほしいわ。そのほうが地図を書きやすいもの」
ベアトリーチェは手に持っていた書きかけの地図をはたいた。
彼女の提案で階段を避け、左に進路を取る。
左右に一度ずつ曲がると、右手に部屋が見えた。
灯りを掲げて暗闇を照らす。床にはいくつか壺が置かれていた。どれも鮮やかな色が塗られている。
「おお、これはすごい。古代文明の装飾壺ですな」
レアンドロは歓喜して壺に詰め寄った。
はてなと思い壺をよく見てみる。壺はただ色が塗られているだけでなく、装飾的な絵が描かれていた。陸地や海辺を背景に、このあたりに原生していたであろう生き物の姿が確認できる。
アイディンが不思議そうに聞く。
「博士。その壺に描かれている大きな青い魚はなんですか」
レアンドロは得意げに云う。
「ああ、アイディンさんがご存じないのも無理ないですな。これはイルカといって、モンスターが現れる前に生息していた魚ですぞ」
「はあ…150年前はこんなものがいたんですか」
このままでは探索が終わらないと、リュディガーがレアンドロを引っ張って進む。
道を再び左に曲がると、真っすぐ伸びた通路の横に部屋が設けられていた。
左に2つ、右に3つ。一同は手分けして部屋を調べる。
フランチェスコが調べるのは左の奥の部屋だ。入ってみると上部がくり抜かれた石が並べられていた。大きさや高さも含めて浴槽のように見えるが、奇妙な点がある。浴槽同士がつながっていて、その面に穴が開けられているのだ。これでは隣の浴槽へ水が流れてしまってなかなか満たすことができない。
一体何に使うのか見当がつかず、フランチェスコは部屋を後にする。
通路に全員が集まり、何があったか順番に報告していく。
「僕の調べた部屋は、なんというか石の水溜のようなものが並んでました。それも穴が空いてつながっている」
彼の報告に皆、頭の上に疑問符を浮かべる。
次いでリュディガーが報告した。
「私の部屋には井戸があった。灯りで照らしてみたが水が溜まっているかは確認できない。溜まっていたとしても深い位置にあるだろうな」
「なるほど、そういうことか」
パラヘルメースがパチンと指を鳴らす。
「あなた、これでしょうもないことだったら承知しないわよ」
ベアトリーチェはじとりと横目で睨んだ。
「ご期待に添えましょう、ノーノさん。僕がこれに気づいたのはリュディガーのおっさんのおかげだ」
「私はまだ32だが」
それを聞いてフランチェスコは訝しんだ。リュディガー目元と髭を交互に見やる。
「あんたは砂時計を用意していた。それは地下遺跡にいたら時間が分からないからだ。
ということは、ここに住んでいた古代人たちもまた、時間を把握する術を持っていたんじゃないか。時計の歴史ってのは遡ると色々あるけれど、それほどコストも技術もかからないのは砂時計、水時計、日時計だ。地下だから日時計は除外、砂時計もみあたらない。彼らは水時計を使っていたことになる。あの浴槽みたいなのは水時計なのさ」
「そうなのね、結局私にはさしてどうでもいいことだわ」
ベアトリーチェは冷たく言い放つ。一方、レアンドロは興奮して云う。
「いやいや興味深い推論ですぞ。なぜこの遺跡が放置されたのかの考察もはかどりますからな。例えばそばにあるあの井戸。あの井戸から水を引いて時間を計っていた。しかし井戸が枯れたことで計る手段を失い、やむなく地下遺跡として打ち捨てられた、とか」
太った男は愉快に笑みを浮かべる。フランチェスコの眼には、彼が狂気をまとっているように写った。
フランチェスコたちの前に道が二手に分かれている。
右手はまっすぐ。左手は曲がりくねっている。
「どっちから行きましょうか」
フランチェスコは皆に問うた。エーレンフリートが答える。
「真教の救い主は右側のものを天国に導き、左側のものを火の池に沈めた。私が分かれ道を選ぶなら、当然右だな」
一同は右の道から進んでいく。フランチェスコは壁に背中を預け、横向きに移動しながら先を伺う。
ここには出っ張るように部屋が2つ並んでいた。のぞき込むと、どちらもがらんどうだった。生き物がいたような形跡は見当たらない。
階段から15メートルほど進むと壁に突き当たる。そこから左に道が伸びており、ここは第8階層の角のようである。
「おい、そこの床を見ろ」
リュディガーが足元を指差す。第7・8階層を繋ぐ階段に蓋してあった石畳と同じものがそこにあった。
フランチェスコとラルフが両端から持ち上げた。またしても下りの階段である。その先は真っ暗な闇の空間が広がっており、第9階層に通じているようだ。
「これが天の国か」
ニヤケ顔でラルフが云った。
「まあ、神の右手側は私達の左手に当たりますから」
アイディンは冷静に返す。
「どうします。先に下を調べますか」
フランチェスコは全員に向けて聞いた。
「この階から廻ってほしいわ。そのほうが地図を書きやすいもの」
ベアトリーチェは手に持っていた書きかけの地図をはたいた。
彼女の提案で階段を避け、左に進路を取る。
左右に一度ずつ曲がると、右手に部屋が見えた。
灯りを掲げて暗闇を照らす。床にはいくつか壺が置かれていた。どれも鮮やかな色が塗られている。
「おお、これはすごい。古代文明の装飾壺ですな」
レアンドロは歓喜して壺に詰め寄った。
はてなと思い壺をよく見てみる。壺はただ色が塗られているだけでなく、装飾的な絵が描かれていた。陸地や海辺を背景に、このあたりに原生していたであろう生き物の姿が確認できる。
アイディンが不思議そうに聞く。
「博士。その壺に描かれている大きな青い魚はなんですか」
レアンドロは得意げに云う。
「ああ、アイディンさんがご存じないのも無理ないですな。これはイルカといって、モンスターが現れる前に生息していた魚ですぞ」
「はあ…150年前はこんなものがいたんですか」
このままでは探索が終わらないと、リュディガーがレアンドロを引っ張って進む。
道を再び左に曲がると、真っすぐ伸びた通路の横に部屋が設けられていた。
左に2つ、右に3つ。一同は手分けして部屋を調べる。
フランチェスコが調べるのは左の奥の部屋だ。入ってみると上部がくり抜かれた石が並べられていた。大きさや高さも含めて浴槽のように見えるが、奇妙な点がある。浴槽同士がつながっていて、その面に穴が開けられているのだ。これでは隣の浴槽へ水が流れてしまってなかなか満たすことができない。
一体何に使うのか見当がつかず、フランチェスコは部屋を後にする。
通路に全員が集まり、何があったか順番に報告していく。
「僕の調べた部屋は、なんというか石の水溜のようなものが並んでました。それも穴が空いてつながっている」
彼の報告に皆、頭の上に疑問符を浮かべる。
次いでリュディガーが報告した。
「私の部屋には井戸があった。灯りで照らしてみたが水が溜まっているかは確認できない。溜まっていたとしても深い位置にあるだろうな」
「なるほど、そういうことか」
パラヘルメースがパチンと指を鳴らす。
「あなた、これでしょうもないことだったら承知しないわよ」
ベアトリーチェはじとりと横目で睨んだ。
「ご期待に添えましょう、ノーノさん。僕がこれに気づいたのはリュディガーのおっさんのおかげだ」
「私はまだ32だが」
それを聞いてフランチェスコは訝しんだ。リュディガー目元と髭を交互に見やる。
「あんたは砂時計を用意していた。それは地下遺跡にいたら時間が分からないからだ。
ということは、ここに住んでいた古代人たちもまた、時間を把握する術を持っていたんじゃないか。時計の歴史ってのは遡ると色々あるけれど、それほどコストも技術もかからないのは砂時計、水時計、日時計だ。地下だから日時計は除外、砂時計もみあたらない。彼らは水時計を使っていたことになる。あの浴槽みたいなのは水時計なのさ」
「そうなのね、結局私にはさしてどうでもいいことだわ」
ベアトリーチェは冷たく言い放つ。一方、レアンドロは興奮して云う。
「いやいや興味深い推論ですぞ。なぜこの遺跡が放置されたのかの考察もはかどりますからな。例えばそばにあるあの井戸。あの井戸から水を引いて時間を計っていた。しかし井戸が枯れたことで計る手段を失い、やむなく地下遺跡として打ち捨てられた、とか」
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