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インフェルノ
悪魔の護る城塞都市
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グノートス遺跡 第4階層 08:46 a.m.(推定) フランチェスコ
調査2日目。
ひどいねむけ眼をこすり、フランチェスコは列に続いていた。昨晩は女傭兵の見張りを買って出てしまい、眠る時間が確保できなかったためだ。寝不足なときは陽光を浴びたり風にあたったりするのだが、こんな地下ではそれも叶わない。
第4階層を踏破し第5階層へと降りる。それまで石畳だった地面が急に変わり、むき出しの土になる。踏み込むと足がぐちゃりと沈み、歩くたびに粘着質な音を立てる。大勢の男が練り歩くため辺りは粘着音で騒がしくなった。
「おい。泥がはねたじゃねぇか、きたねぇ」
後ろにいたラルフは憤慨する。たかが泥一つ、なんだというのだ。フランチェスコは小馬鹿にする。
「失礼しました。これではあなたの染みひとつない清め布が汚れてしまいますね」
「なんだとこいつ、ブン殴られてぇのか」
清め布はモンスターの血を拭って清める道具。汚れていればいるほど、モンスター狩りとして高いステータスを表すのである。ラルフはのものは教会で買ったばかりの真っ白なもので、彼自身はモンスターとほぼ戦ったことがないと想像できた。
ラルフの激昂をダミアンが仲介に入ってなだめる。ラルフの小言は第6階層に降りるまで続いた。
第6階層。床がふたたび石畳に戻る。壁や天井も石に覆われ、まるで普通の建物の中にいるようだ。この形質の変化に最も興奮していたのはレアンドロだった。石のひとつひとつを覗き込んでじっくりと分析していく。調査団はしばらくこの場所に留まることとなった。
フランチェスコは通路の左右に点々とある部屋を見ていく。手狭な暗い部屋。第2階層の牢獄と似ているが、床の作りがすこし違う。床の中央の石畳だけがやけに大きいのだ。迷わず手で触る。ずらせないかと力を込めるとガタリを動いた。どうやら溝に大きい石畳をはめ込んでいる構造のようだ。
両の指を引っかけて腰で引っ張り上げる。石畳はぐぐぐっと持ち上がった。石の下を確認する。底にあったのは、土に埋もれた人骨だった。
フランチェスコの発見に、知識人たちが大急ぎでやってくる。レアンドロは体を激しく揺すって興奮し、アイディンは不思議そうに腕を組んで眺めた。
「アイディンさん、これは凄いですな。古代人たちは地下深くまで穴を掘り、そしてこの第6階層に墓を作っていた。」
「しかし変ですよ。この通り骨は土とともに埋葬されていますが、土に埋もれた骨は一世紀と経たず消えてしまうはずです。真教では『地獄に落ちていったため消えた』と説明されますが」
明瞭な解答を持ち合わせていなかったようで、レアンドロもアイディンを真似るように腕を組む。うーんと唸った後、部屋の外にいたパラヘルメースに向けて云う。
「錬金術師さんはどうお考えですかな」
パラヘルメースは入口の壁に肩を預けて云った。
「地上で埋まった骨が地獄に落ちる最中、偶然ここに収まった、なんて事はないだろう。ほかに原因を思案するとしたらその土にあるだろうな。風の噂で聞いた話だが、気候に適した種を植えているのに成長が著しく遅い地域があるという。そこの土を他の場所へ持っていくと同じように成長が阻害されたらしい。『呪いの土』と呼ばれ恐れられたが、おそらくその土には骨が落ちることを阻害する力も備わっているんじゃないかと思う。ここにあるのがその『呪いの土』だとして、だから埋葬された骨は2000年経ってもそこにあるんだ」
彼の説明にレアンドロとアイディンは目から鱗だったようで、何度もうなずきながらしげしげと墓穴を見下ろした。二人をよそにパラヘルメースは「骨が地獄に落ちていくことすら疑わしいがな」と、確証がないことを付け加えた。
それから数時間、レアンドロの調査が続けられた。傭兵たちは交代で昼食を取る。へとへとなフランチェスコは座り込むと、くたびれた目をつぶった。
自分の仕事が回ってきても、きっと誰かが起こしてくれるだろう。思考はだんだんと鈍っていき、いつの間にかすぅすぅと寝息を立てていた。
調査2日目。
ひどいねむけ眼をこすり、フランチェスコは列に続いていた。昨晩は女傭兵の見張りを買って出てしまい、眠る時間が確保できなかったためだ。寝不足なときは陽光を浴びたり風にあたったりするのだが、こんな地下ではそれも叶わない。
第4階層を踏破し第5階層へと降りる。それまで石畳だった地面が急に変わり、むき出しの土になる。踏み込むと足がぐちゃりと沈み、歩くたびに粘着質な音を立てる。大勢の男が練り歩くため辺りは粘着音で騒がしくなった。
「おい。泥がはねたじゃねぇか、きたねぇ」
後ろにいたラルフは憤慨する。たかが泥一つ、なんだというのだ。フランチェスコは小馬鹿にする。
「失礼しました。これではあなたの染みひとつない清め布が汚れてしまいますね」
「なんだとこいつ、ブン殴られてぇのか」
清め布はモンスターの血を拭って清める道具。汚れていればいるほど、モンスター狩りとして高いステータスを表すのである。ラルフはのものは教会で買ったばかりの真っ白なもので、彼自身はモンスターとほぼ戦ったことがないと想像できた。
ラルフの激昂をダミアンが仲介に入ってなだめる。ラルフの小言は第6階層に降りるまで続いた。
第6階層。床がふたたび石畳に戻る。壁や天井も石に覆われ、まるで普通の建物の中にいるようだ。この形質の変化に最も興奮していたのはレアンドロだった。石のひとつひとつを覗き込んでじっくりと分析していく。調査団はしばらくこの場所に留まることとなった。
フランチェスコは通路の左右に点々とある部屋を見ていく。手狭な暗い部屋。第2階層の牢獄と似ているが、床の作りがすこし違う。床の中央の石畳だけがやけに大きいのだ。迷わず手で触る。ずらせないかと力を込めるとガタリを動いた。どうやら溝に大きい石畳をはめ込んでいる構造のようだ。
両の指を引っかけて腰で引っ張り上げる。石畳はぐぐぐっと持ち上がった。石の下を確認する。底にあったのは、土に埋もれた人骨だった。
フランチェスコの発見に、知識人たちが大急ぎでやってくる。レアンドロは体を激しく揺すって興奮し、アイディンは不思議そうに腕を組んで眺めた。
「アイディンさん、これは凄いですな。古代人たちは地下深くまで穴を掘り、そしてこの第6階層に墓を作っていた。」
「しかし変ですよ。この通り骨は土とともに埋葬されていますが、土に埋もれた骨は一世紀と経たず消えてしまうはずです。真教では『地獄に落ちていったため消えた』と説明されますが」
明瞭な解答を持ち合わせていなかったようで、レアンドロもアイディンを真似るように腕を組む。うーんと唸った後、部屋の外にいたパラヘルメースに向けて云う。
「錬金術師さんはどうお考えですかな」
パラヘルメースは入口の壁に肩を預けて云った。
「地上で埋まった骨が地獄に落ちる最中、偶然ここに収まった、なんて事はないだろう。ほかに原因を思案するとしたらその土にあるだろうな。風の噂で聞いた話だが、気候に適した種を植えているのに成長が著しく遅い地域があるという。そこの土を他の場所へ持っていくと同じように成長が阻害されたらしい。『呪いの土』と呼ばれ恐れられたが、おそらくその土には骨が落ちることを阻害する力も備わっているんじゃないかと思う。ここにあるのがその『呪いの土』だとして、だから埋葬された骨は2000年経ってもそこにあるんだ」
彼の説明にレアンドロとアイディンは目から鱗だったようで、何度もうなずきながらしげしげと墓穴を見下ろした。二人をよそにパラヘルメースは「骨が地獄に落ちていくことすら疑わしいがな」と、確証がないことを付け加えた。
それから数時間、レアンドロの調査が続けられた。傭兵たちは交代で昼食を取る。へとへとなフランチェスコは座り込むと、くたびれた目をつぶった。
自分の仕事が回ってきても、きっと誰かが起こしてくれるだろう。思考はだんだんと鈍っていき、いつの間にかすぅすぅと寝息を立てていた。
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