兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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同じレシピでも

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「え……?あ……そう思ってたけど……」

「……」

「違うと思う?」

「何か引っかかるんです。それに、嫌な感覚がします。なんだろうこれ」

ハルはこの胸騒ぎのようなものが、タカに関係しているような気がしてならなかった。

「……そうですか。なら、そうなんだと思います」

「わかんないですけど、なんとなく」

「早く、原因が分かるといいですよね」

「……はい。何か、感じたら言いますね」

「わかりました」


ハルがスマホの時計を見る。

「あ、そうだタカさん。お腹空いてませんか?」

「ああ、そっか。そんな時間ですよね」

「あの」

「ん?」

「僕、タカさんの料理食べてみたいです」

「えっ、僕のですか?」

「はい。確か前に、仕事で覚えたって」

「ああ、そんなようなこと言いましたね」

「タカさんが迷惑でなければ……って、わざわざうち来てくれてたのに、料理までしろって僕もなかなかなこと言ってますけど」

「あはは!いや、それは大丈夫ですよ。何が食べたいですか?」

「えっと……タカさんが得意なものならなんでも」

「嫌いなものないんでしたっけ。アレルギーは?」

「ないです」

「うーん」

「あ、そうだ。さっきみたいに僕に見せてください」

「え?」

「ほら、練習にもなりますし。お兄さんの姿を僕に見せてくれたみたいに。なんとなくでも、食べたいもの思い浮かべてみてください。過去に食べてうまかったー!ってときの光景でもいいです」

「あ、そっか、わかりました。やってみます、頭に浮かべますね」

「はい。じゃあ、手を」

「はい」

ハルが両手をタカに差し出す。

タカの手を握って数秒後、目の奥がまたひんやりとしてきたのを確認し、ハルがいくつかの料理を頭に浮かべた。

ハルの目線は、ちょうどタカの喉あたりに固定されていた。

するとタカが急に吹き出して笑った。

「えっ何!?」

「あっはっはっ!いや、ハルさん面白くて。すみません」

「え?」

「シチュー?エビフライ?オムライス?」

「え!!そんなにありました!?」

タカはそう言ってくっくっく、と笑いはじめた。

「何これ、楽しいですねハルさん。自分で言っといてなんですけど僕こんなことしたことないので、すごく新鮮です」

「ぼぼ、ぼ、僕もですよ!そもそもこんなことができるなんて以前の僕は全く自覚なかったことですし」

「いや、なんか面白かったです!ごめんね、ほんと面白くて」

腹をかかえて笑うタカに、ハルもつられて笑った。

目をくしゃっとさせながら笑うタカが、とても愛おしく見えた。

「じゃあ、一番簡単にできそうなオムライスにしますか」

「はい。あ、でも卵ないですうち!」

「あはは、そこのスーパー行きましょう」

「はい!」




スーパーの帰り道、ハルがタカに言う。

「ここ、他にもいろんなお店あるんですよ。スーパー以外にも」

「へえ」





帰宅後、段取りよくタカが料理をはじめ、ハルは先にシャワーを浴びた。

ハルがキッチンに戻ってくると、オムライスが2つ、テーブルに置かれていた。

「はい、どうぞ」

「わあ、美味しそうです。ありがとうございます。いただきます!」

「はい」

「わ!うまっ。うまいです」

「良かったです。カフェのメニューにあるんですよ。オムライス」

「そうなんですか」

「まあでも、誰が作っても同じように美味しくなるから、お店のレシピは最強です」

タカの言葉に反応し、ハルがもぐもぐと口を動かしながらタカに言う。



「同じ材料を使っても、作る人によって味は違うんですよ」



タカが、えっと言いたそうな表情でハルを見た。

「って、兄なら、そう言うんでしょうね」

「……」

数秒間ほど、2人の間にスプーンが皿に当たる音が響き渡った。

「それ、サエちゃんから聞きましたか」

「はい。前にサエさんに兄との馴れ初めとか聞いたときに、話の流れで」

「そっか」

「でも僕も兄と同じ意見です。例え同じレシピを参考にして作った料理であっても、作る人によって味は変わると思ってます」

「そう……」

タカはそれ以上何も言わず、オムライスを口に入れた。
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