兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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僕は、僕の中のハルさんを視ているんです

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タカは両手でハルの手を優しく握る。
ハルの手がひんやりとした冷たさに包まれる。

「今日も……冷たいですね。タカさんの手」

「お酒飲んでも末端冷え性は末端冷え性なんですよね」

「そういう問題でもないと思うんですけど……血流のこと言ってるんですか」

タカにまた手を握られ、困ったような照れ臭いような表情をするハル。
そんなハルをじっと見つめてタカが言う。

「では、僕のこの冷たさに意識を集中してみてください」

「はい」

前回の時と同様に、だんだんとハルの目の奥が冷たくなる。

「どうですか」

「はい。やっぱり……目が冷たくなります。前の時と同じ」

「そうですか。ちょっと今回は長めに刺激してみますか」

「はい。お願いします」

「あ、でもお酒入ってるから感覚がぼやけるかも……まあ、いっか。やってみましょう」

「はい」

ハルは集中しようとしたが、今回もやっぱり自分の心臓の鼓動が邪魔をして、それどころではなかった。

タカに手を触れられるのは今回が2回目で、少しは慣れるはずと思ったが、おかしい、以前よりも動揺している。そんな自分に戸惑いを隠せなかった。

集中しないと、と思えば思うほど鼓動がしっかりと主張してくる。

耐えきれなくなりハルが口を開く。

「あの……」
そう言ってチラッとタカの目を見る。

タカは何も答えず、まっすぐとハルの目を見ていた。目線が動かなければ体も全く動かない。

男の手を掴んだ状態で目を見つめるなんて、タカ自身は照れ臭くないのだろうか、とハルは思っていた。

「あの、すみません。こうしている時ってタカさんは何を考えているんですか。すみません喋ってしまって。ちょっと、なんていうかこの状況に耐えられなくて」

「ああ、気まずいですよね。すみません。言葉にするのがすごく難しくて。僕が視えるときって、この目じゃなくて奥のほうで視るんですよね。前にも言った、目の奥ってところ。物理的にここって指しずらい場所を視るんですね」

「はあ……うーん……分かるような分からないような……」
ハルの首が少し傾く。

「僕の目の機能のこと、もう少し詳しく説明しますね」

「はい」

「あ、ただ、これは僕の機能であって、ハルさんがこれから自分の機能を取り戻していったとしても、同じ感覚になるかはわかりません。そこは伝えておきますね。僕とは違う部分が優位になる可能性もあるので」

「わかりました」

「僕が視えるときって、目の奥で、なんです。ハルさんのお兄さんが見せてきた映像は、この目の奥で視ました」

「はい……」

「僕はいまそこを覗きに行って、その場所にハルさんをイメージしていて」

「……」

「さっき僕がハルさんを視ていたのは、いま目の前に居るハルさんじゃなくて、僕の中のハルさんなんです」


「ますます分からなくなりました……」


タカが、だよね、と言いたそうな表情で顔をガクッと下に向ける。

「そうですよね。僕もうまく説明できずすみません。すごくおかしなこと言ってますよね、表現しにくくて」

「あ、いえ!僕もいま酔いがまわってて、理解力が足りてないんだと思います」

「いやいや。おそらくハルさんがいま冷たさを感じている部分かと思います。僕は僕の中でハルさんを見ている。それを、どういうわけかハルさんは自分の中で感じ取っているのだと思います。たぶんね」

「う、うーん……」

「たまたま僕が目のタイプだからハルさんの目が刺激されて、そこの回路が開いている……のかな」


ハルはタカに握られた自分の手をじっと見つめた。

まだ、よく分からなかった。
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