兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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母が隠していること

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「母が僕に対してあんな顔になるの、見たことなかったから今でも覚えてて。別に陰でコソコソと探せば良かったんだけど、裏切る感じがして出来なかったんですよね。僕の知らないなにか理由があるんだろうなって」


「そうなんですね」


ハルは、もう一つ母親が取り乱したことを思い出していた。

大学から家に帰宅したら、母が受話器をもったまま泣き崩れていたのだ。
目を真っ赤にして、悲痛な表情だということがすぐに分かった。

ハルに気づいた母はすぐに台所に行き、しばらく椅子に座っていた。

ハルは、幼少期から勘が冴えることが多々あり、母の涙がなんとなく兄に関係していそうな気がしていた。

けれど、直接母に聞くことはなかった。

そんなことを思い出したが、これは言わなくていいか。そう思いハルは、少しの沈黙のあと、
「って!こんな他人の重い話、聞いてて楽しいです
か?僕もペラペラ喋ってますけども」
と、またクスクスっと笑いながら言った。


ハルは、タカとはこの先また会うことはないという気兼ねなさからつい話してしまっていた。

でもそれだけじゃなく、時より見せるタカの微かな笑みに心地よさを感じ、話したくなってもいた。

こんな話誰にしようがしまいがもうどうでもいいしな、なんて思いもあった。


「楽しいですよ。あ、いや、内容的に楽しいとかじゃなくて、人の人生、ちょっと興味あるんで。てか、僕から質問したわけですし」タカがニコっと笑いながら答えた。


ハルは、そっか、と心の中で答えた。


「僕の人生の一部はそんな感じです」


「そうだったんですね。で、お兄さんのことで何をやらかしたんです?」


「え?ああ!そうでした。そうだそうだ、兄。兄に、もっと早く会いに行けばよかったかなって。母の気持ちよりも、自分の気持ちを優先して探してればよかったかなって」


「……」


「いつか、タイミングがきたら~とかって後回しにしちゃってたんです。もっと早い段階で行動してればよかったなって」


「今からでも会いに行こう、探そう、とは思わないんですか?」


「うーん。そうですよね」

ハルは心の中で、もういいんです、生きていないかもしれないし、生きていたとしてもどこかで元気でいてくれたら、それでいいんですよ、と言った。

その瞬間、また風がふわっとふいてハルとタカを包み込んだ。

ハルが風に揺れる木々を見て言う。
「タカさん、ここ風気持ちいいですね」


「はい。そうですね。とても」


「はい」


「ねえハルさん、明日帰るとかじゃないですよね?」


「え?ああ、はい。数日間は予約してますけど……」


「じゃあもしよかったら明日もここで話しませんか?」


「えぇ!?ああ、、えーっと……」


ハルの反応にタカが声を出して笑う。


「そうですよね!おいおい明日もかよ~ですよね。すみません。けどまだ話聞きたいなって」


「えええ!まだ知りたいんですか?他人の人生を?」
ハルもつられて、ケラケラと笑った。


「タカさん、変わってますね。旅の影響?」


「そうかも笑 旅に来てて、テンションがあがってるのかもしれません」
タカも笑いながら言った。


そして続けて
「知りたいですよ、ハルさん。それに、僕も目的を達成したいので」

タカがハルの目をじっと見つめる。

タカは、なんとなくハルがここに来た目的を察していたようだった。

ハルはタカの目的というのがなんなのか気にはなったが、まあどうでもいっか、と思い明日も会うことを約束した。


「ハルさん、初対面で不審者な僕に話してくれてありがとうございます」


「え、あ、いえ」


そうしてタカはその場を離れ、ハルはしばらくその場に座って
ああ、やっぱりすごく綺麗だ、と思いながら海の奥の、ずっと奥の方を眺めていた。
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