兄が届けてくれたのは

くすのき伶

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ハルがここに来た理由

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「ああ、えーと……」


なんでここに来たかって。ストレートに答えられるわけがない。


ハルは数秒間の沈黙ののち、

「海の近くで、誰もこなそうな場所を探していたら、たまたまこの近くの宿の情報を見つけて」


「へえ」


タカは目線だけをまた下に向け、そして少しの笑みを浮かべて続けて言った。


「僕に会っちゃいましたね」

そう言ったあとに、クスクスと笑った。

ハルもつられて

「ほんとですよ。まさか人に会うなんて。まあでも宿がある以上は、100%誰もいないなんてありえないんですけどね」


「僕のように急に話しかける奴も、いる可能性はゼロじゃないですしね」

「はい」

2人は笑い合った。


「なんで誰も来ないとこがよかったかって言ったら、なんで?って思いますよね。ここ最近、気分が落ちてて。絶望感というやつですかね」


「仕事で?ですか?」

「全部。僕の世界全部です」

こんなこと言ったら相手に気を使わせることになる。別に重々しく言いたいわけでもない、そう思ったハルは少しでも場の空気が軽くなるように笑いながら、そう答えた。


「何があったか聞いてもいいです?」
タカが聞いた。


ハルは、タカとはこの場限りの出会いでこの先関わることはないし赤の他人だし、そう思ったので少し話してみることにした。

「絶望~とか言うと重いですよね。はは。別にたいしたことじゃないんです。仕事とプライベートが散々で」


「ほお」


「僕はいつも判断を見誤るんですよね。職場だっていつもブラック企業を選んじゃうし、プライベートでもこの人と付き合ってみようかなと思ってたら実は恐ろしい人だったり」

「まあ、誰の人生でもよくあることなんですけど、自己否定が入ると厄介だな~って。抜け出せなくなるんです」



「自己否定?」


「はい。そんな判断をしてきた自分に嫌気がさすし、自分が許せない。でも自分から逃れることなんてできないじゃないですか」


「はい」


「自分を恨んでしまうんです。なんであの時あんな選択したんだ。自分はどれだけクズなんだ。なんでああしなかったんだって。後悔ってやつなんですけど」

「はい」


「そう考えていると、この先もいろんな判断を見誤るんだろうなって。いままでですらこんだけ参ってんのに、この先もこの延長線かよって思ったら、ねえ」
笑いながらハルは答えた。


"ねえ"、の先は察してくださいね。そう心の中で付け足した。


ハルは、タカが、未来は誰にも分からないですよ~とでも言い返してくるのかと思ったが、タカはただ頷くだけだった。


「僕が判断をしくったのは、他にも1つあって」
ハルが続けて言った。


「何があったんですか」


「兄がいるんですけど。兄に関することで」


タカは顔を少し上に向けて、視線また下にそらし、ハルに顔を向けた。

その瞬間、心地よい風が二人を包み込んだ。
その風でなびいたタカの髪が、なぜだかキラキラと光って見えた。


「ハルさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
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