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宇宙へ

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「ゆづくん、荷物ここでいい?」

「うん、ありがとう」

文化祭も無事に終わって、秋。
僕と千尋はゆづくんにくっついて、山に星を見に来た。
山の上は思ったより涼しくて寒いくらいだ。
ここまで車で来れて本当によかった。登山なんて学校の行事で一回経験したくらいだ。あのときは疲れて本当に大変だった。

星が見やすい場所までは少し歩くらしいけど、それくらいなら僕でもできるだろう。
(肉体改造計画はずっと先延ばしにされている)
コテージは木の匂いがしてなんだか気持ちいい。
向こうにあるキッチンスペースで千尋はご飯を作るのを手伝ってくれている。千尋に苦手という二文字は存在しないらしい。
なんでもそつなくこなすんだよなー。
かっこいいな、って素直に思ってしまうのがなんだか悔しい。

「カナタ、花柳、飯だってよ」

「あ、はーい!」

千尋が呼びに来てくれる。
僕たちをここまで連れてきてくれたのは、ゆづくんのご両親だった。
家族揃って星を見るのが好きなんて、素敵だな、と思う。
ゆづくんのお母さんは天文学者なんだそうだ。

「わー、いい匂いー」

カレーの匂いが辺りを漂っていて僕のお腹がぐう、と鳴る。

「沢山食べてね」

ゆづくんのお父さんが言った。
ゆづくんのご両親は本当に優しそうでゆづくんのゆったりした感じは納得だった。
なるほどなー、なんて思う。

カレーは甘めで美味しかった。

「ゆづが辛いの苦手で甘口なんだけど、大丈夫だった?」

お母さんが僕たちに心配そうに聞いてくれる。
ゆづくん辛いの駄目なんだ、可愛い。

「あ、美味しいです!」

「オレも大丈夫です」

とりあえずカレーをおかわりして、僕はようやくお腹いっぱいになった。
千尋も沢山食べていて、お母さんが嬉しそうに笑っていた。

食器を洗いながらゆづくんがそっと耳打ちしてくる。

「今日二人を誘ってよかったよ」

「誘ってくれてありがとうね」

僕が答えるとううん、と首を振られる。どうしたのかな?

「僕、あんまり食べないし、親がすごく心配しちゃってさ。最近一緒に出掛けるのがちょっと嫌になっちゃって」

「そうだったんだー」

ゆづくんにはゆづくんなりの難しさがあるんだな。

「でも花柳、本当食べないよな。
大丈夫なのか?」

千尋が心配そうに言う。

「うん、僕は大丈夫だし、元気なんだけどね」

「そうか」


ゆづくんはよく僕にエネルギーバーをくれる。
あれも食べきれないのかもしれない。
確か一箱に二袋入っていたはずだ。

「二人共、ありがとう。それに、今日は星がよく見えそうだよ」

ゆづくんが嬉しそうに笑う。

「UFOは呼ばないの?」

僕が尋ねるとゆづくんは吹き出した。

「もちろん、呼ぶよ。
準備してきた!」

ゆづくんは意気込んでいるようだ。

「UFOか、いたら面白いけどな」

「倉沢くんもそう思う?!」

ゆづくんが目をきらきらさせる。
こういうとこが可愛くて好きだな、なんて思う。

「花柳、まず写真撮らなきゃなんだろ?コンクールだっけ?」

千尋がたしなめるように言う。
ゆづくんは、そうだった、と照れ笑いした。

意外と僕ら三人は気が合う。
全然タイプが違うのに不思議だ。
初め千尋とゆづくんは少しギクシャクしていた気がするのに、いつの間にか仲良くなっている。
なにがあったのかは分からないけれど、仲がいいのはいいことだ。

片付けも終わって、いよいよ星空を見に行くことになった。
星を見るスポットまでは意外と道は平坦で楽だった。
それでも僕は少し息が切れた。
ゆづくんはカメラを担いで歩いているのに息も切らしていない。
千尋もだ。
悔しい。

(やっぱり鍛える、絶対!)

心の中で僕は誓った。
突然木々がなくなって、開けた場所に出る。

「わぁあ!」

思わず声が出てしまった。
星が空一面に輝いている。

「こりゃ、すげえな」

千尋も笑っていた。

「ここ、お母さんがお祖父ちゃんに教えてもらったんだって」

穴場なんだよ、とゆづくんは得意そうに言う。

確かに僕ら以外に人はいない。
ゆづくんは望遠鏡をリュックから取り出して組み立て始めた。
僕も手伝おうと駆け寄る。

「カナタくん、重たいから気をつけてね」

「う、うん」

確かに三脚からすでに重たかった。ゆづくんはこれとカメラを持って山道を歩いていたのか、と驚く。

「いい望遠鏡だな」

千尋がそう呟いたのを聞いてゆづくんは嬉しそうに笑う。

「お祖父ちゃんが買ってくれたんだよ」

「ゆづくんのお祖父さんも星が好きなんだ?」

僕が尋ねると、ゆづくんは頷いた。

「大好きだよ。写真一緒に撮りに行ったりする」

「へえ」

「できた」

ゆづくんの準備が完了したらしい。
僕たちも改めて星空を見上げる。

「あれ、星座か?」

千尋の指差す方を見ても僕はすぐにはわからなかった。

「うん、秋の台四辺形だよ、よくわかったね!」

「へー」

僕もじっと空を見つめた。

「まだ夏の星も見えるよ」

ゆづくんは秋に見える星座について丁寧に説明してくれた。
将来、ゆづくんはお母さんと同じ、天文学者になりたいんだろうか?
それは聞いたことがなかった。
今度聞いてみようと思う。

「カナタくん、望遠鏡で見てみて。見やすいと思うから」

「うん!」

ゆづくんが望遠鏡を調節してくれる。
その世界はとても幻想的だった。
星をこんなに近くで見たのは初めてだ。なんてきれいなんだろう。

「倉沢くんも!」

「おう」

僕が千尋と場所を変わる。
千尋もすぐに歓声をあげた。

「ね、すごいでしょ!」

僕たちはそれぞれ頷いた。
写真を撮らなきゃ、とゆづくんは途中で気が付いたらしい。
慌ててカメラを設置して、写真を撮り始めた。
僕らはそれをのんびり見つめていた。

「花柳って意外とうっかりだよな」

こそっと千尋が言ってきたので僕は笑ってしまった。
ゆづくんは撮れた写真を確認している。

「あれ?」

ゆづくんが首を傾げる。

「どうした?」

千尋が声をかけると、ゆづくんはデジタル画面を見せてきた。

「これ、何かな?」

ゆづくんが指さして示したもの。それは銀色の何かだった。
僕は閃いてぞっとした。これは。

「UFOじゃない?」

ゆづくんがぽかん、と口を開ける。
千尋も僕を見つめてくる。

「だって、これ、飛行機じゃないよね?」

僕が一生懸命言うと、二人は再び空を見上げた。

「すごい!!」

ゆづくんがぴょん、と飛んで笑った。
千尋もため息をついて笑う。

「なんか奇跡起きたっぽいな」

「僕、怖くなってきた」

僕の言葉にゆづくんが笑う。

「僕も怖くなったー」

ふふふ、とゆづくんは笑いが止まらなくなってしまったようだ。

「なんか花柳壊れたし、帰るか」

ゆづくんはしばらく笑って、(ツボに入ってしまったらしい)片付けに取り掛かり始めた。

「二人のおかげでいい写真撮れたよ、ありがとう!」

「おいおい、UFOの写真、コンクールに出すつもりじゃないよな?」

ゆづくんは笑いながら首を振る。

「あれは宝物にする。
普通のも撮ったから」

とりあえず僕たちがゆづくんの邪魔にならなかったようで安心した。


コテージに戻ると、ゆづくんのご両親が待っていてくれた。

ゆづくんは早速先程の写真を二人に見せていたのでよかったな、と思う。

「カナタ」

後ろから千尋に声をかけられる。どうやら千尋も僕と同じことを思っていたらしい。

「花柳、嬉しそうでよかったな」

「うん」

こうして、夜は更けていった。

おわり。
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