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リベンジ
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次の日、僕は倉沢と待ち合わせをしている駅に向かって走っていた。
(やば!遅刻しちゃう!!)
昨日緊張してなかなか寝付けなかったせいだ。
倉沢に抱き締められた感触が妙に体に残っていて、落ち着かなかったせいもある。
腕時計を見ると、駅に着くのは待ち合わせ時間ギリギリになりそうだった。
(倉沢、怒ると面倒だからなー)
更に走るスピードを上げる。
僕の中で新記録が出そうだった。
「倉沢ー!ごめーん!!」
駅前にいた倉沢が手を上げて応えてくれる。よかった、怒ってないみたいだ。
「倉沢?」
「カナタ、来てくれてありがとうな」
倉沢はじ、と僕を見つめてこんなことを言う。
僕が来ないと思っていたのかな?なんだかそれは寂しい。
「く、来るに決まってるだろ!」
「よかったよ、お前が来てくれて」
ん、と倉沢が手を差し出してくる。
僕は倉沢を見つめた。
「遊びに行こうぜ」
「うん!」
僕は彼の手を握った。
倉沢と遊ぶときは決まったコースがある。
なるべくお金を使わないで沢山楽しむためだ。
高校生になった今ならバイトを探すのも楽しいかもしれない。
というか、それはずっと考えていた。
電車の中は休日ということもあって空いていた。入り口近くの座席に僕は座る。
倉沢はその前に立っていた。
「ねえ、倉沢、夏休みどうするの?」
僕が尋ねると倉沢はんーと唸った。
「一応大会あるから部活で潰れそうだなー。お前は?」
「僕、バイトしてみたいんだ!」
「へえ、いいじゃん」
倉沢は笑った。
この笑顔を見るためにクラスの女子は必死になっているわけで。
なんだか申し訳なく思うけど、この特権は譲るわけにはいかない。
「なぁ、カナタ」
「ん?」
「聞きたいことがあるんだけどさ」
そんなことを言っている間に目的の駅に着いた。アナウンスが流れている。
僕らは慌てて電車を降りた。
「聞きたいことって?」
「や、たいしたことじゃねーんだけど」
なんだろう?
改札を出ていつものルートを辿る。
目的地はゲームセンターだ。
この辺りでは一番大きい。
自動ドアをくぐる。
中は電子音の渦だった。
「お前がオレにすげえ怒ったことあったじゃん」
「あったかな?」
記憶を探るけどすぐにはピンと来なかった。
「ほら、お前を可愛いって言ってさ」
「あぁ!」
僕はようやくわかった。
今なら倉沢に可愛いって言われても平気なのに、あのときなんであんなに怒ったのか、自分でも不思議だ。
その時はまだ男としてのプライドがあったのかもしれない。
今それがないわけではないけれど。
「でさ、お前が口聞いてくれなくなったんだよ」
「あったねー、はっずー」
僕は思わず笑ってしまった。
あれから僕たちは絶交に近い状態になってしまったんだっけ。
当時は深刻な問題だった。
僕はしばらく学校に行けなくなってしまった。
「カナタは学校来ないし、プリント持っていっても笑ってもくれなくて、切なかったんだぜ?」
倉沢には相当心配をかけてしまった。
「うん、覚えてる。
僕、倉沢に馬鹿にされたって勝手に思い込んじゃったんだよね」
「そっか、ごめんな」
倉沢に頭を撫でられる。
倉沢はずっと僕を気遣ってくれる唯一の存在だ。
「でさ、なんでオレたち仲直りできたんだ?」
「あれ、なんでだっけ?」
僕もそのあたりの記憶があやふやだ。
「僕もさ、倉沢に聞きたいことがあるんだよ」
倉沢は首を傾げる。
「僕さ、いつから君のこと、倉沢って呼んでるっけ?」
「ん?確かに」
倉沢も今気がついたようだった。
昔、僕は彼のことを千尋って呼んでた。それなのに。
「謎が多いな」
「だよね」
とりあえず、と僕らはゲームで遊ぶことにした。
いつもやっているリズムゲー厶から始めて対戦する。
僕が倉沢に勝てた試しがない。
でもとても楽しい。
僕らは一通り遊んで、自販機でジュースを買った。
倉沢はお茶しか飲まないから大人だなと思う。
「今思い出したんだけど、オレ、お前の家に謝りに行ったよな?」
先程の話の続きだ。
「うん、倉沢、何度か来てくれたよね。僕のこと、可愛いっていうのは好きだからだよって」
「え?!」
倉沢が慌て始める。どうしたんだろう?
「オレ、そんなこと言ったか?」
「うん」
倉沢が赤くなっている。
「倉沢?」
「ないわ、オレ」
倉沢はため息をついて、僕を見つめた。
「その、さ、お前が好きなのはずっとなんだよ」
こんなことを言われて、僕はようやく気が付く。
倉沢の好きは、友情じゃないことに。
「あ、そうなんだ」
僕も恥ずかしくなってきた。
お互いにそっぽを向いて恥ずかしいという感情が去ってしまうのを待つ。
「カナタ、オレはずっとお前を可愛いと思ってる」
「ん、複雑だけどありがと」
僕たちは吹き出した。
その後僕らは、ショッピングモールに移動して、フードコートにあるファーストフード店でハンバーガーを食べながらお喋りした。
倉沢と夏休みに遊園地に行こうという話になって、楽しい気持ちになった。
(ゆづくんが言ってくれなかったら僕は)
彼が僕の気持ちに気付かせてくれたおかげで僕はこうしていられる。
またお礼をしないとなって思った。
「カナタ、行くぞ」
倉沢に引っ張られて付いていくと、大きな公園があった。
「こんなとこあるんだ!」
「最近できたみたいでさ」
二人で並んでベンチに座った。
「あー、なんか思い出してきた」
倉沢が呟く。どうしたんだろ?
僕が倉沢を見ると、彼はこう言った。
「お前の家に謝りに行った時、お前めちゃくちゃ泣いてて、もう親友じゃないって言われたんだよな」
「そう、だったっけ?」
「オレ、めちゃくちゃへこんでさ」
倉沢は僕を抱き寄せてくる。
僕は恥ずかしかったけど抵抗できなかった。
僕に比べて筋肉がしっかりついた体は男らしくてうらやましい。
「何度か謝りに行ったら、お前許してくれたけど、もう千尋って呼んでくれなくなってた」
僕もだんだん思い出してきた。
あのときの苦しかった気持ち。
僕はずっと倉沢と対等でいたかった。
そのバランスが崩れたような感覚。
「ん、そうだったね」
「また呼んでほしい、千尋って」
「っ!!」
倉沢に耳元で囁かれて僕は体が熱くなった。
この感じ知らない、とにかく恥ずかしい。
「く、倉沢、苦しいよ」
違う、苦しいんじゃない。
でも、なんて言ったらいいのかわからない。
「ごめん、力入れすぎた!」
倉沢は慌てて力を緩めてくれたけど、僕のドキドキはおさまらなかった。
「わ、わかった」
「カナタ?」
僕は倉沢を見つめる。
「千尋、ありがとう」
「ん」
千尋は僕から体を離した。
寂しいな、なんて思う。
もっと抱き締めてもらいたい。
でも僕は子供だから、それ以上は怖いという気持ちが強い。
「千尋、これからどうする?」
「そうだな」
時計を見るともう、夕方の4時を過ぎていた。
そろそろ帰ったほうがいいかもしれない。
「カナタ、オレ、お前からまだ聞いてない。
お前はオレが好きかどうか」
僕はごくり、と唾を飲み込んだ。
何故か喉が痛くて、なかなか声が出せない。
僕は大きく息を吸った。
「好きだよ。千尋がいつもそばにいてくれるから僕はずっといられた。
本当にありがとう」
「カナタ」
千尋は笑って、立ち上がった
「帰るか」
「うん」
なんだかバイバイするのが寂しかった。千尋とは明日も学校で会えるのに。
電車の中でもあまり話せなくて、物足りなかった。
もっと千尋と一緒にいたい、そう僕は思っていた。
「カナタ、どうした?」
僕の家の前で、千尋がそう声をかけてくる。
「千尋」
「ん?」
僕は千尋に抱きついて、頬にキスした。千尋は驚いているようだ。
「な?!」
「千尋、浮気しちゃだめだよ!」
「ばーか、しねぇよ!」
僕たちはお互いに手を振って別れた。
また明日。
おわり
(やば!遅刻しちゃう!!)
昨日緊張してなかなか寝付けなかったせいだ。
倉沢に抱き締められた感触が妙に体に残っていて、落ち着かなかったせいもある。
腕時計を見ると、駅に着くのは待ち合わせ時間ギリギリになりそうだった。
(倉沢、怒ると面倒だからなー)
更に走るスピードを上げる。
僕の中で新記録が出そうだった。
「倉沢ー!ごめーん!!」
駅前にいた倉沢が手を上げて応えてくれる。よかった、怒ってないみたいだ。
「倉沢?」
「カナタ、来てくれてありがとうな」
倉沢はじ、と僕を見つめてこんなことを言う。
僕が来ないと思っていたのかな?なんだかそれは寂しい。
「く、来るに決まってるだろ!」
「よかったよ、お前が来てくれて」
ん、と倉沢が手を差し出してくる。
僕は倉沢を見つめた。
「遊びに行こうぜ」
「うん!」
僕は彼の手を握った。
倉沢と遊ぶときは決まったコースがある。
なるべくお金を使わないで沢山楽しむためだ。
高校生になった今ならバイトを探すのも楽しいかもしれない。
というか、それはずっと考えていた。
電車の中は休日ということもあって空いていた。入り口近くの座席に僕は座る。
倉沢はその前に立っていた。
「ねえ、倉沢、夏休みどうするの?」
僕が尋ねると倉沢はんーと唸った。
「一応大会あるから部活で潰れそうだなー。お前は?」
「僕、バイトしてみたいんだ!」
「へえ、いいじゃん」
倉沢は笑った。
この笑顔を見るためにクラスの女子は必死になっているわけで。
なんだか申し訳なく思うけど、この特権は譲るわけにはいかない。
「なぁ、カナタ」
「ん?」
「聞きたいことがあるんだけどさ」
そんなことを言っている間に目的の駅に着いた。アナウンスが流れている。
僕らは慌てて電車を降りた。
「聞きたいことって?」
「や、たいしたことじゃねーんだけど」
なんだろう?
改札を出ていつものルートを辿る。
目的地はゲームセンターだ。
この辺りでは一番大きい。
自動ドアをくぐる。
中は電子音の渦だった。
「お前がオレにすげえ怒ったことあったじゃん」
「あったかな?」
記憶を探るけどすぐにはピンと来なかった。
「ほら、お前を可愛いって言ってさ」
「あぁ!」
僕はようやくわかった。
今なら倉沢に可愛いって言われても平気なのに、あのときなんであんなに怒ったのか、自分でも不思議だ。
その時はまだ男としてのプライドがあったのかもしれない。
今それがないわけではないけれど。
「でさ、お前が口聞いてくれなくなったんだよ」
「あったねー、はっずー」
僕は思わず笑ってしまった。
あれから僕たちは絶交に近い状態になってしまったんだっけ。
当時は深刻な問題だった。
僕はしばらく学校に行けなくなってしまった。
「カナタは学校来ないし、プリント持っていっても笑ってもくれなくて、切なかったんだぜ?」
倉沢には相当心配をかけてしまった。
「うん、覚えてる。
僕、倉沢に馬鹿にされたって勝手に思い込んじゃったんだよね」
「そっか、ごめんな」
倉沢に頭を撫でられる。
倉沢はずっと僕を気遣ってくれる唯一の存在だ。
「でさ、なんでオレたち仲直りできたんだ?」
「あれ、なんでだっけ?」
僕もそのあたりの記憶があやふやだ。
「僕もさ、倉沢に聞きたいことがあるんだよ」
倉沢は首を傾げる。
「僕さ、いつから君のこと、倉沢って呼んでるっけ?」
「ん?確かに」
倉沢も今気がついたようだった。
昔、僕は彼のことを千尋って呼んでた。それなのに。
「謎が多いな」
「だよね」
とりあえず、と僕らはゲームで遊ぶことにした。
いつもやっているリズムゲー厶から始めて対戦する。
僕が倉沢に勝てた試しがない。
でもとても楽しい。
僕らは一通り遊んで、自販機でジュースを買った。
倉沢はお茶しか飲まないから大人だなと思う。
「今思い出したんだけど、オレ、お前の家に謝りに行ったよな?」
先程の話の続きだ。
「うん、倉沢、何度か来てくれたよね。僕のこと、可愛いっていうのは好きだからだよって」
「え?!」
倉沢が慌て始める。どうしたんだろう?
「オレ、そんなこと言ったか?」
「うん」
倉沢が赤くなっている。
「倉沢?」
「ないわ、オレ」
倉沢はため息をついて、僕を見つめた。
「その、さ、お前が好きなのはずっとなんだよ」
こんなことを言われて、僕はようやく気が付く。
倉沢の好きは、友情じゃないことに。
「あ、そうなんだ」
僕も恥ずかしくなってきた。
お互いにそっぽを向いて恥ずかしいという感情が去ってしまうのを待つ。
「カナタ、オレはずっとお前を可愛いと思ってる」
「ん、複雑だけどありがと」
僕たちは吹き出した。
その後僕らは、ショッピングモールに移動して、フードコートにあるファーストフード店でハンバーガーを食べながらお喋りした。
倉沢と夏休みに遊園地に行こうという話になって、楽しい気持ちになった。
(ゆづくんが言ってくれなかったら僕は)
彼が僕の気持ちに気付かせてくれたおかげで僕はこうしていられる。
またお礼をしないとなって思った。
「カナタ、行くぞ」
倉沢に引っ張られて付いていくと、大きな公園があった。
「こんなとこあるんだ!」
「最近できたみたいでさ」
二人で並んでベンチに座った。
「あー、なんか思い出してきた」
倉沢が呟く。どうしたんだろ?
僕が倉沢を見ると、彼はこう言った。
「お前の家に謝りに行った時、お前めちゃくちゃ泣いてて、もう親友じゃないって言われたんだよな」
「そう、だったっけ?」
「オレ、めちゃくちゃへこんでさ」
倉沢は僕を抱き寄せてくる。
僕は恥ずかしかったけど抵抗できなかった。
僕に比べて筋肉がしっかりついた体は男らしくてうらやましい。
「何度か謝りに行ったら、お前許してくれたけど、もう千尋って呼んでくれなくなってた」
僕もだんだん思い出してきた。
あのときの苦しかった気持ち。
僕はずっと倉沢と対等でいたかった。
そのバランスが崩れたような感覚。
「ん、そうだったね」
「また呼んでほしい、千尋って」
「っ!!」
倉沢に耳元で囁かれて僕は体が熱くなった。
この感じ知らない、とにかく恥ずかしい。
「く、倉沢、苦しいよ」
違う、苦しいんじゃない。
でも、なんて言ったらいいのかわからない。
「ごめん、力入れすぎた!」
倉沢は慌てて力を緩めてくれたけど、僕のドキドキはおさまらなかった。
「わ、わかった」
「カナタ?」
僕は倉沢を見つめる。
「千尋、ありがとう」
「ん」
千尋は僕から体を離した。
寂しいな、なんて思う。
もっと抱き締めてもらいたい。
でも僕は子供だから、それ以上は怖いという気持ちが強い。
「千尋、これからどうする?」
「そうだな」
時計を見るともう、夕方の4時を過ぎていた。
そろそろ帰ったほうがいいかもしれない。
「カナタ、オレ、お前からまだ聞いてない。
お前はオレが好きかどうか」
僕はごくり、と唾を飲み込んだ。
何故か喉が痛くて、なかなか声が出せない。
僕は大きく息を吸った。
「好きだよ。千尋がいつもそばにいてくれるから僕はずっといられた。
本当にありがとう」
「カナタ」
千尋は笑って、立ち上がった
「帰るか」
「うん」
なんだかバイバイするのが寂しかった。千尋とは明日も学校で会えるのに。
電車の中でもあまり話せなくて、物足りなかった。
もっと千尋と一緒にいたい、そう僕は思っていた。
「カナタ、どうした?」
僕の家の前で、千尋がそう声をかけてくる。
「千尋」
「ん?」
僕は千尋に抱きついて、頬にキスした。千尋は驚いているようだ。
「な?!」
「千尋、浮気しちゃだめだよ!」
「ばーか、しねぇよ!」
僕たちはお互いに手を振って別れた。
また明日。
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