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倉沢と約束した日の前日、僕は本屋に行った。
僕の好きな漫画の新刊が出たらしい。
ついでに最近買ってもらったゲームの攻略雑誌も見てみようと思って、僕はワクワクしながら自動ドアをくぐった。
新刊はすぐに見つかって雑誌のコーナーへ行こう、と足を向けた。
そこでふと、僕は気が付いた。

「倉沢?!」

「ん?おう」


明日会うはずの倉沢がここにいて、僕は驚いた。

「あれ?部活は?」


「なんか文化祭の準備でしばらく休み」

「あ、そうなんだ」

僕の所属している新聞部は今、絶賛活動中だ。なんかずるい。
そもそも僕が本屋に来よう、と思ったのも、大新聞にする記事に行き詰まったからだった。

「カナタ、何探してるんだ?」

倉沢は持っていた雑誌を元に戻して尋ねてくる。
何を読んでいたのか気になって、僕はそっとその雑誌を見た。
「週間将棋」と書いてある。
渋すぎるそのチョイスに僕が絶句しているのに、倉沢は気付かない。
首を傾げて僕の返事を待っている。

「えーと、倉沢?
僕、ゲーム雑誌探してて?」

「週間将棋」についてもっと深く聞いたほうがいいのか迷いながら僕は言った。

「あぁ、あれな。
この前買ったやつだろ?」


「うん」

倉沢はいつもと変わらなくて、なんだかホッとした。
本当にリベンジなんてされるのかと疑問すら出てくる。
倉沢は明日どうするつもりなんだろう。

「カナタ、こっち」

倉沢に腕を引っぱられる。
どうやら僕の目的のコーナーに辿り着いたようだ。

「これとか、それもそうだよな」

「ホントだ」

僕が今プレイしているゲームはかなり売れているらしい。
いろいろな雑誌で特集が組まれているようだ。
僕は一番馴染みの深い雑誌を買うことにした。
この雑誌の攻略はわかりやすい。

「倉沢、ありがとう。買ってくるね」

「おう」

会計を済ませて戻ると、倉沢が待っていてくれた。このあと倉沢と遊ぶのも悪くないなと僕は思っていた。

「ね、倉沢。このあと暇?」

「わりぃ、これから留守番しなきゃなんだよ、明日遊ぼうぜ」

そう言って倉沢は僕の頭を撫でる。
明日、と言われてなんだかドキドキしてしまうのはなんなんだろう?
やっぱり僕は倉沢のことが好きなんだな。
この気持ちは期待も含まれている。

「ん、わかった」

僕が頷くと倉沢は笑った。

「じゃあな」

倉沢に軽く抱き締められる。
とっさのことに僕は動けなかった。
気が付いたら、倉沢は自転車で行ってしまったあとだった。

(なに、今の)

僕の心臓がバクバク鳴っている。
あんなにナチュラルに抱き締めてくるとかずるいじゃん!!
体が火照ってしょうがない。
倉沢は本当にカッコいい。
僕はフラフラしながら家に帰った。


玄関のドアを開けると、母さんが掃除をしていた。

「カナタ、おかえり」

「うん、ただいま」

「どうしたの?」

僕は答えられなかった。
まさか倉沢に抱き締められたなんて言えるわけがない。

「うん、倉沢に会ってさ」

嘘は付きたくなくて、そこは正直に言う。

「あらー、千尋くん、元気なのー?
最近お母さん会ってないわね」

「うん、元気だよ」

「また遊びに来てって伝えてね」

「わかった」

倉沢の名前が千尋ちひろというのを僕はそこで思い出していた。
自分の部屋に入ってドアを閉める。

(昔は名前で呼んでたよな)

なんで僕は倉沢って呼ぶようになったんだっけ?僕は考えた。
明日倉沢と話したら思い出せるかな。

(記事の続き、やるか)

僕は本の入った紙袋をベッドに置いて勉強机に向かった。
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