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二章

6・真相

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タウとランスは無言で車に乗っている。だが、気まずい沈黙ではない。お互いを信じ、分かり合っているからこその沈黙だ。

「タウ様…」

「…ランスさんがそう言うのだから間違いないのだろう」

ランスはきゅっと拳を握った。気が付いたのは本当に偶然だった。タウの撮った写真に人のものと思われる足跡がかすかに映っていたのである。ほとんど消えかけていたが、確認してみよう、と二人の間で自然と決まった。もちろんこのことは誰にも言っていない。あくまで、植えたばかりの樹木の手入れに行くという体だ。もちろんはじめはそれが目的だったので、ランスもタウも変に構えることなくここまで来た。

「もうじきだ」

向こう側に剝き出しになった土地が見える。ぽつぽつと緑が見えてきてランスはホッとした。
また燃えていたらと不安になっていたのだ。タウは車を近くに停めた。ランスは道具を持って車を降りた。

「タウ様」

ランスはタウの腕を叩いた。誰かがいる気配がある。ランスだから分かることだった。タウの腕を引いてランスは気配に近付いた。普通の人間には気配を読み取るなどよほど集中していないと出来ない。ランスたちは木の陰に隠れた。

「む・・・」

タウが唸る。
ランスは目の前の光景を見て息を呑んだ。男が一人スコップで穴を掘っている。何かを探しているのは間違いない。

「くそ、掘り出すのがこんなに後になるなんて」

男は悪態をつきながら大きな穴を掘っている。

ランスはタウを見た。

「ランスさん」

二人は小さな声で打ち合わせた。ランスは何でもないように男に近付いた。

「あれ?俺と同じ、樹木の手入れをされている方ですか?」

「な、なんで人が?」

男は明らかにうろたえている。

「あれ?違うんですか?最近ここで火事があったんです。だから皆で木を植えて。もしかして知らなかったんですか?」

「それくらい知ってるよ。俺は忙しいんだ、あっちへ行け」

「でも同じ作業をするなら手分けをした方が」

ランスはあくまでもとぼけてみせた。

「だから忙しいんだよ!」

「宝石を探しているのだな」

タウが新聞を片手に現れる。そこには指名手配の男の写真が載っていた。間違いなくこの男だ。

「なんで今更、くそ!」

「ふむ、簡単な話だ」

タウが写真を二枚取り出す。写真に映った微かな足跡は襲われたジュエリーショップに残されたものと一致した。タウが調べてくれたのだ。

「当時の技術では足跡だけではどうにもならなかったが、今は科学力が発展している。もし反省する気持ちがあるのなら自首を勧める」

「そんなバカなこと言うな!森まで燃やしたんだぞ」

男がスコップを振り上げる。あれで殴られたらひとたまりもない。

「ふむ」

タウが前に出る。

「私たちは貴方を取り押さえねばならない」

「く、くそ」

男がスコップを振り下ろしてくる。ランスは怖くなって目を瞑った。だが、思っていたような衝撃はない。タウがスコップを大きな手で掴んでいる。男がスコップを取り返そうと必死だが、タウは手を離さない。

「くそ、邪魔をするな!」

「そう言うわけにはいかないだろう。貴方がしたことは犯罪であり罰せられるのが妥当だ」

男との力比べにタウは全く負ける気配を見せない。

「どうかもう諦めて欲しい。貴方は私には勝てない」

「くっそお、ここまで上手くいってたのに!」

男が地団駄を踏む。

「貴方は森の主を知らなかったんですか?」

「あのフクロウか。散々抵抗されたからぶん殴ったんだ」

「・・・」

ランスは言葉を返せなかった。

「フクロウさんはただ森を守ろうとしていた。貴方が身勝手な理由で壊していいものではない」

「くそお・・・」

男はその場に崩れ落ちた。

サイレンが鳴り響いている。タウが警察を予め呼んでおいてくれたらしい。

「タウ様、なんだか大変なことになりましたね」

「まあこれで収まるべきところに収まったのでは?」

よかったとランスは胸を撫でおろした。男が掘っていた場所一帯は立ち入り禁止になっている。今は警察官たちが掘り返していた。しばらくすると袋が出て来た。中身は宝石だ。

「タウ殿!なぜもっと早くに我々を呼んでくれないのですか?」

警部と思しき男性が声を掛けて来る。彫りの深い顔立ちをした男だった。

「まだ確定していたわけではなかったし、私は何もないことを祈っていた」

「タウ殿・・・今後は連絡くださいよ?」

「もう今度はない方がいいのだが」

タウの言うとおりである。ランスは樹木たちのことが心配になった。確認してみると皆ぐんぐん育っているようである。

「先ほどの男にはまだ仲間がいたようで、そこから引っ張ります」

「ああ。事件の解決を祈る」

タウが手入れをしているランスの元に歩いてくる。

「ランスさん、木々は怖がっていないだろうか」

「はい、ちょっとざわついていますが、安心してくれたようです」

タウがホッと息を吐いた。ランスは手入れを一通り終える。

「タウ様、作業完了です。ここの手入れは親方に任せた方がいいかもしれません」

「ランスさんの師匠様なのだから間違いないな」

「はい」

ふふとランスが笑うとタウに頭を撫でられた。

「帰ろう」

「はい」

車に再び乗りこみ二人は屋敷を目指した。
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