生なる庭師と死の王の秘密の庭

はやしかわともえ

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一章

10・火事

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日が明ける前、ランスは目を覚ました。それはいつものことだ。慌てて着替えて離れを飛び出す。ランスは森のある方向に向かってひたすら走った。森まで数十キロ離れているが走らざるを得なかった。そうしないと気持ちが揺れてたまらなかった。フクロウが隣を滑空してくる。

「ホー」

「フクロウ、お前たちの森は…もうないのか?」

フクロウがランスの前に立ち塞がるように回り込んでくる。翼を広げると1メートルをゆうに超えるだろうか。

「フクロウ!」

「ホー」

フクロウがランスの腕に留まる。そして再び翼をはためかせた。ランスはまだ街中にいる。遠くを見るが森の状況など分かるはずがない。ランスは諦めてフクロウと共にタウの屋敷に戻った。

「ランスさん!」

タウが駆け寄ってくる。ランスはこの気持ちをどう処理すればいいか分からなかった。

「タウ様…俺…」

嗚咽が漏れそうになったが、なんとか堪らえる。
ここで自分が泣いてもどうにもならない。

「フクロウがいた森が燃えてるかもしれなくて…それ…で」

タウに説明しようとしたが、声が詰まって上手く話せなかった。涙がぼろぼろと溢れてきたせいだ。そのまま堰を切ったように涙が溢れて、ランスはわぁわぁ泣いた。

「ランスさん」

ぎゅ、とタウに抱き寄せられて頭を撫でられる。
しばらく泣いていたら流石に落ち着いてきた。急に恥ずかしくなる。

「ごめんなさい、タウ様」

「大丈夫。悲しい時は泣けばいい。フクロウさん」

ランスの左肩に留まっていたフクロウの首元をタウがそっと撫でる。

「貴方は森に棲む他の動物たちを救おうとした。違うか?」

「ホー」

フクロウはそうだとばかりに鳴いた。

「ランスさん」

タウにじっと見つめられランスはどぎまぎしてしまう。

「森を見に行こう」

「え、でも…」

「森は国の資源だ。確認する必要がある。私が今作っている新薬は、ある一定の森林から採れる特殊な液体が必要で…」

「わぁぁ、分かりました!!行きます!!」

タウの薬への熱い想いはランスも理解しているつもりだが、その説明は毎度さっぱりである。

「支度をしなければ。とにかく私は会社に行く。ランスさん、貴方も早めに仕事を切り上げてほしい」

「わ、分かりました」

タウのその後の流れるような出勤にランスは思わず拍手を送りそうになった。自身も、今日予定していた作業を前倒しで進めている。フクロウがいつの間にか日陰で休んでいるのを見て、なんだかホッとした。

「お前、頑張ったんだな」

そう声を掛けると、フクロウがちらりと視線を向けてきた。警戒されているのかと思ったが、フクロウはその場から動かなかった。なんだか嬉しいと思いながら、ランスは作業に戻る。夕方、ヘトヘトになりながらなんとか今日の行程を終わらせることが出来た。だが、やはりいつもより作業の精度が低いのは否めない。後日きっちりやり直そうとランスは決めた。

タウはそろそろ屋敷に帰ってくる頃合いだろう。最近のランスは屋敷で夕食を食べている。庭師の自分が主人であるタウと同じ席で食事をするというのは少し恐れ多いが、タウはランスが食べているのを見ると嬉しそうにする。

「戻った」

ランスは帰ってきたタウの元に駆け寄った。

「お帰りなさい!タウ様!」

「ランスさん、もう泣いていないか?」

頭を撫でながら聞かれて、ランスははにかんだ。照れ臭かったのだ。

「とりあえず夕食を食べながら話そう」

「はい!」

タウはラフな格好に着替え、食卓に着いた。二人は頂きますをして食べ始める。今日はシチューがメインらしい。厚切りの肉がどかっと入っている。ランスはこんなに豪華なシチューを食べたことがない。先程まで落ち込んでいたのに、少し元気になる。食事は大事だ。ランスは肉をナイフで切り分けて口に運んだ。

「ランスさん、今晩から出掛けるが構わないだろうか?」

「はい。俺なら大丈夫です」

タウが笑う。

「決まりだな。リシャ、夜食を頼む」

控えていたリシャが頭を下げる。

「ランスさん、今日も貴方はよく働いたようだ。少し休みなさい、いいね?」

「は、はい」

確かに今日はいつもより作業ペースが早くきつかった。食事を終えたランスは離れで仮眠をとった。森はどうなっているだろう。ランスはぱちり、と目を開けた。
出掛ける支度をして、ランスは離れを出た。

「ランスさん、ちょうど呼ぼうと思っていた」

「タウ様、行きましょう森へ」

タウの愛車に荷物を積み、出発した。
フクロウが前を飛んでいる。誘導してくれるつもりらしい。車は眠った街を抜け、更に先へ進む。いよいよ森が見えてくる。

「あぁ…」

ランスはため息を吐いた。森はほとんどが燃えてしまって地面が剥き出しになってしまっている。
何故燃えたのだろう、とランスは辺りを探ったが、分かるはずもない。

タウはカメラを持ってきていたようだ。この状態を収めるために持ってきたのだろう。
パシャと何回かシャッターを切っている。

「俺に出来ること…」

フクロウが呼んでいるような気がして、ランスは歩き出した。タウも気が付いたようだ。

フクロウの案内の先には、傷付いた動物たちがいた。事切れているものもいる。ランスは魔力で傷を癒やしたのだった。
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