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一章

9・恩返し

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季節は移り変わり、いつの間にか秋になっている。ランスは今日もせっせと庭で作業をしていた。そんなランスの後ろで、タウはスケッチをしている。今の見頃はやはり赤紫色の鮮やかな秋桜である。他にも大ぶりな花を付ける千枚花もある。タウがこうして、植物たちのスケッチをしている時間がランスは大好きだった。会話は、一言二言交わすくらいだが、沈黙ももう気まずくない。二人の間の距離はいつの間にかすごく縮まっている。

「ランスさん、それは?」

ランスが春に咲く花房の球根たちを一輪車で運んでいると、タウに声を掛けられた。ランスはそれに笑顔で答える。

「はい、春になると唇の形に似た花が咲くんですよ。色も華やかですごく綺麗なんです。タウ様に絶対見てもらいたくて」

「それは楽しみだな。スノーベリーも見たが、美しい」

「ふふ、冬になって花が咲いたらもっと綺麗ですよ」

「ランスさんはすごいな。私がやったらきっと死なせてしまう」

タウが自分の手の平を見つめながら悲しげに言った。ランスはそっと一輪車を置いて、タウの手をぎゅっと握った。

「タウ様も一緒に植えませんか?きっと花たちも喜びますよ」

「ランスさんがいると不思議と世界が綺麗に見える…」

タウの言葉が嬉しくて、ランスは笑った。

「俺もですよ!タウ様!」

ランスは一輪車を再び持ち上げ、タウと共に花壇の一角へ向かった。ここには季節ごとに違う花が咲くようにランスが考えて花々を植えている。秋になり涼しい風が吹き抜ける中、花たちはたくましく咲き誇っているのだ。
ランスはタウと共に球根たちを植えた。これから厳しい冬になり、その間寒さをしのいだ球根が花を開かせるのを楽しみに待つばかりである。タウがじっと球根を植えた場所を見つめている。

「タウ様?どうされましたか?」

「いや、植物たちのたくましさに驚いていた。私など、もう朝は寒くてなかなかベッドから出られないんだが」

「ふふ、タウ様、可愛い」

ランスがそう言って笑うとタウが顔を赤らめている。

「ランスさんも朝早くから大変ではないか?」

「離れはぽかぽかですよ。薪ストーブ様々です!ご飯も美味しいしお給金まで頂けて」

「それは何よりだ。ん?」

タウが遠くを見る。急にどうしたのかと、ランスも振り返った。バササと大きな羽音がする。

「ホー」

そこにいたのはフクロウだった。

「お前はこの前の」

「ホー」

ランスが近付いてフクロウの傍に屈む。フクロウは逃げる素振りを見せない。ランスに触られて気持ちよさそうに目を閉じている。フクロウは木の枝を咥えていた。先には小さな松ぼっくりが2つ付いている。どちらも銀色だ。フクロウがランスに木の枝を近付ける。ランスがそれを受け取ると、フクロウは鳴いて飛び去ってしまった。

「銀ぼっくりなんて珍しいな…」

「ランスさん、それは?」

「はい。アルバシアの国境の近くに松林があるんですけど、時々変異種で銀色の松ぼっくりが生るんです。なんでも、幸福のお守りだとか」

「そんなすごいものを…」

タウはランスが持っている銀色の松ぼっくりをしげしげと眺めている。

「その時は、あの子の怪我を治しきれなかったんです。なんでかは分からないけど」

「…なにかの呪いではないだろうか?」

「え?」

「いや、私の推測に過ぎないがね」

ランスの心にその言葉は引っかかった。それが本当に呪いだとしたら、これから大変なことが起きそうな気がする。ランスの心はざわめいた。タウがそんなランスを優しく抱き寄せる。

「大丈夫。私が貴方を守るから」

「俺だけ守ってもらうなんて嫌です」

「貴方には素敵な力がある。私たちを十分に守れるだろう」

「はい。タウ様やリシャさんは俺が絶対に守ります」

フクロウは自分たちに幸運が訪れるようにこの松ぼっくりを置いていってくれたのだろうか。
夕方、仕事が終わり、ランスは銀色の松ぼっくりを空いた瓶に挿した。それをベッドサイドのテーブルに置いた。
ランスはフクロウの眼差しを思い出しながら松ぼっくりを撫でる。そのままランスは眠っていた。

「ここは…」

ランスは辺りを見回した。真っ白な霧の中にいた。何かがこちらへ飛んでくる。火の玉だ。
森が燃えている。フクロウの住処だったところだろうか。

「…まさか」

ランスは信じられない気持ちでいっぱいだった。森はもう燃えてしまったのだろうか。ランスの意識はそこで途切れた。
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