生なる庭師と死の王の秘密の庭

はやしかわともえ

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一章

7・迷いこんだフクロウ

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ランスは生まれて初めて正装というものをした。この間、採寸した服が出来上がったということで、最後の調整をしてもらっている。それは紺色のタキシードだった。いかにも高級そうで普段のランスであれば縁もゆかりもない。今はリシャがそばにいてくれていた。タウはとっくに仕事に出かけている。早くタウに見てもらいたいとランスはワクワクしている。
最後の調整も終わり、ホッとしながら庭に戻ると、いつもと違うことに気が付いた。植物たちがなにやらざわついている。ランスはその原因を突き止めるべく庭を走った。気配がある。

「あ…」

ランスは駆け寄った。フクロウが倒れている。
怪我をしているようだ。まだ子供なのか小さい。
ランスはフクロウに手を翳した。だがいつものように完全に治すことが出来ない。フクロウは薄く目を開けた。

「ホー」

まるで自分は大丈夫だと言っているようだ。ランスはそれにホッとした。

「お前、どこから来たの?この辺の子じゃないよね?」

ランスがそう話しかけると首を傾げている。そっと首元を撫でるとフクロウは気持ちよさそうに目を閉じた。

「怪我が治るまでなるべくジッとしてな。それくらいなら狩りはできそうだね。この辺りはネズミが多いから食いっぱぐれないよ」


「ホー」

フクロウはバササと羽ばたき、傍の木に留まった。ちょうど日陰になっている涼しげな場所である。

頭のいい子だな。―

とランスは感心し、作業に取り掛かった。秋に向けての庭造りは着々と進んでいる。はじめは何もなかった庭だが、今となっては花々の咲き誇る美しい庭になっている。タウは休日になると、スケッチをしにやってくるのだ。これからも彼のために庭を手入れしていこうとランスは張り切っている。夕方になり、ランスはリシャに呼ばれた。いよいよパーティーへ行く仕度をするのかとランスは覚悟した。社交界など全然知らないランスである。とりあえずタウから離れないようにしよう、そう決めていた。

タキシードを着て髪の毛をセットしてもらう。それだけで随分印象が違う。
ランスは見慣れない自分を鏡の中に見て不思議に思った。

「タウ様、どうですか?」

タウはじっとランスを上から下まで見つめた。

「可愛らしいと思う。可憐だ」

可愛いとタウはよく自分に言ってくれる。こうして褒めてもらえるとランスはそわそわする。
そう言えば自分と彼は恋人同士になったのだ。できるならもう少し距離を詰めたい。

「タウ様はこういう服、きっと着慣れてますよね。すごいなあ」

「私もあまりかっちりした服は得意ではない。職場では白衣で隠せるから下はゆるゆるだ」

そんなタウの意外な告白にランスは噴き出してしまった。

「タウ様、可愛い。意外でした」

タウは照れているのかランスから顔を背けている。

「ランスさんの方が絶対に可愛いが」

「あ、そういえば今日フクロウが来たんです」

「フクロウ?この辺りにいるのか」

ランスはいいえ、と首を振る。タウの屋敷は郊外にあるが森は随分遠い。フクロウがいるとは考えにくい。

「俺も初めて見かけた子だったので、親が探しに来るかもしれませんね」

「…森の主か」

「森の主?」

「あぁ、この辺りは元々、深い森だったようだ。その主がフクロウだったと聞いている」

「えぇ!すごい!」

「我々が勝手に森を切り開いてしまって良かったのかと私はつい考える」

「タウ様…」

やはりタウは優しい人だ。ランスはたまらなくなってそっと彼に抱き着いた。タウが背中を撫でてくれる。

「タウ様、そんな貴方が俺は好きです」

「ランスさん、私もだよ」

パーティー会場は賑やかだった。皆着飾り、グラスを片手に楽しそうに話をしている。ランスはその空気にドキドキとしていた。初めての場所というのは緊張する。ランスはテーブルにご馳走を見つけてホッとした。自分の知っているパーティーだ!と思ったからだ。

「タウ様。ど、どうすれば?」

「とりあえず上司の関係者に挨拶をしよう」

タウがランスの手を緩く掴んで引く。ドリンクをお盆いっぱいに載せたボーイがやって来て、ランスたちに配ってくれた。色は薄いピンク。ランスはなんの飲み物だろう?と鼻で嗅いで見るが嗅ぎ慣れない匂いだ。
ぐい、と試しに飲んでみるとなんだか顔が熱い。隣でタウが挨拶をしている。ランスはふにゃふにゃしながらもなんとか彼の隣りにいた。

「た、たうさま…お、れなんか、へん…」

「ランスさん?!」

ランスはへにゃへにゃとその場に崩れ落ちたのだった。
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