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十二章

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1・悔しいことに戦いは苦戦を強いられている。集会に来ていたヒトが無事に避難する時間を稼ぎながら戦っているから余計だろう。

「ヒトは守るものがあると弱くなるものなのですね」

エリザ様だった何かが言う。もはや完全に化け物じゃないか。これが力の暴走っていうやつかもしれない。彼女の力はそれだけ強大なんだ。
ステイタスを見ると、みんな、体力が残り僅かだ。
白魔法での回復が全然間に合わない。どうすれば。全滅は世界の終わりだ。

「あなた方に私が負けるとは思えません。降伏すれば許しましょう」

「誰が降伏なんてするか!」

モウカが魔剣を構えて彼女に振りかざす。その攻撃すら、簡単に防がれてしまう。モウカが吹き飛んだ。あんなに強いモウカまで。

「私は神となりました。魔力に関してはやはり魔族のものが一番ですね。あなた方からも吸い付くしてあげましょうね」

神…だって?俺たちは呆気に取られた。魔力を吸い取る?なんだ?

「おや、知らなかったようですね。エネミーを魔族中心に結成したのは純度の高い魔力を奪うためです」

「まさか…仲間だろう?」

イサールが言うのに、彼女はおかしそうに笑った。

「私に仲間などいません。全て利用するために置いているだけ」

そんなのあんまりだ。エリザ様が俺たちに更に攻撃を仕掛けてくる。次から次に兵が倒されていく。
どうしよう、どうしたら彼女を止められるの?

ガガガという音と共に鋭い閃光が走る。これは避けられない!衝撃を覚悟して目をぎゅっと閉じたけれど、なんともない。
目を開けると、ランスロットさんがいた。そんな…まさか俺を庇ったのか?

「ら、ランスロットさん」

ランスロットさんがずるりと崩れ落ちる。

「姫様、老人にはこれくらいのことしか出来んのでな。なあに、大丈夫。死にはしないよ」

「あ…あぁあ…」

俺は倒れたランスロットさんの手を握った。なんでこんな。

「弱き者よ、諦めなさい。私がこの世界を統一します」

「姫!立って!!まだ僕たちは負けてない!!」

睡蓮が叫んでいる。
でもこのまま戦い続けたら、みんなやられてしまう。俺はシャオの顔を思い出していた。
シャオの不敵な笑顔が頭の中で過る。

「シャオ…」

声がかすれている。でもそんなの関係ない。俺は叫んでいた。

「お願い!シャオ!!!俺たちを助けて!!!」

「ましろ、待たせた!」

最初に会った時と同じ。黒い翼をはためかせてシャオがやって来る。本当に来てくれた。

「シャオ…遅いよ」

「悪かった。解毒に時間がかかってな」

シャオも大変な目に遭っていたんだ。俺は立ち上がった。足ががたがた震える、体中がものすごく痛い。
でもまだ負けたわけじゃない。

「シャオ、憎き魔王。まだ生きていたのですね」

「うるせえな。よく俺の目を見てみろよ」

シャオの緑色の瞳が輝く。

「ぐ…まさか今になって力が覚醒したというのか?」

「まあこれも今回限りだと思うけどな」

シャオの緑色の瞳にはなにか秘密があったらしい。エリザ様が急に苦しみだした。

「おのれ、魔族を率いる王め。また我らの邪魔をするつもりか」

エリザ様が呟く。

「一体何のことを言っているの?」

俺がシャオに声をかけると首を傾げられた。シャオも把握していないんだ。

「いい加減消えろ、エリザ。あんたはもう十分暴れただろ?」

「ぐぐぐ…魔王め!」

エリザ様がどんどん小さくなっていく。今がチャンスだ。このまま押し切ろう。
俺たちは更に攻撃を続けた。シャオが瞳の力で彼女の動きを抑えているうちにやるしかない。

「グギャアアアアア」

叫び声をあげてエリザ様だった何かは消滅したのだった。

***

「イテテ。おい睡蓮。もっと優しくやれ」

「王、あなたは刺されてるんですから痛くて当然ですよ」

あの戦いのあと、俺たちはエネミーの集落だった場所で傷の手当てをしてもらっている。睡蓮はシャオの傷口を縫おうとしているらしい。見ているだけで痛そうだ。麻酔は睡蓮の魔法でかけている。でもやっぱり痛そうだ。

「シャオ、刺されたの?」

「姫も動かないでください。あなたも軽傷ではないんですから」

「すみません」

フギさんが俺のわき腹を診ている。

「ふむ、これなら傷口は残らなさそうですね」

「よかった」

「多分、姫が天使属だからでしょうね」

「それって結局、どういうことなんでしょうか?」

それについてはずっと疑問に思っていた。フギさんが俺の体に包帯を巻きながら説明してくれる。

「簡単に説明すると、天使属性の他に悪魔属性というものがあります。その属性を持つヒトは本当に稀なようです。
天使属は回復、悪魔属は呪いの力が強いのだとか」

「へえ」

悪魔属性というものもあるんだ。呪いの力なんて、なんか怖いな。

「はー、疲れた。飴でも舐めるか」

シャオがどこからともなく飴玉を取り出す。シャオのその能力、本当に便利だよね。
あむあむとシャオが飴玉を口の中で転がしている。それにしてもお腹空いたな。

「みんな、飯だぞ!」

モウカが大皿を両手に持って現れる。

「モウカ、ありがとうね」

俺がそう言うと、彼はさっと顔を赤くした。

「姉御、これ食べて欲しい」

モウカが差し出してきたのは笹の葉でくるまれた包みだった。なにかな?包みをほどくと、中から三角形のおにぎりみたいなものが現れる。スカーさんが前にくれたものとは少し違う?

「そ、それチマキっていう料理なんだ、俺が小さい頃いた場所で良く食べてた。スカー兄に話したら作ってくれて」

照れ照れとしながらモウカが説明してくれる。

「美味しそうだね」

「モウカ、俺にも寄越せ、早くしろ」

シャオが飴をガリガリしながら言う。そんなに慌てなくてもいいのに。モウカもこくこく頷いている。

「も、もちろんだよ兄貴!」

それからみんなでご飯を食べた。生きているって素晴らしいな。こうやって美味しいご飯が食べられるんだし。スカーさんはここに来るなり、辺り一帯を見て回って来たらしい。さすがだ。エネミーの勢いはここにきて急速になくなっているようだ。よかったな。

「さ、美味しいご飯も食べたことですし、ヒト族の町まで戻りましょうか。姫も王も医師に見てもらう必要があります」

あれ?ランスロットさんは?って思っていたら普通に元気だった。え、防御力高過ぎない?タンカーって化け物なの?

フギさんがにこやかに笑って手を叩く。現れたのは可愛らしい砂イルカたちだった。彼らは群れをつくるらしい。つまり集団で移動するのに向いている。俺たちは彼らの背に乗ってヒト族の町を目指した。

そうだ、この間行こうと思って、家族に会えなかったんだったっけ。せっかくだし今回は寄ってみよう。俺はそう心に決めたのだった。

2・「はい、入院」

「え?」

病院に来て診察室に入り、傷口を見せた瞬間、先生に言われたのが入院という二文字だった。

「エネミーの殲滅に力を貸さなかった我々が言えることじゃないけれど、君は重症だよ。とにかく体を休めなさい」

「はぁ…」

そんなこんなで俺とシャオは入院している。今日でまだ二日目だけど、既に暇をもて余している。病院ってなんて退屈なんだろう。シャオはごろんとベッドに横になって棒キャンディを無心で舐めている。あ、このヒトぐうたらするの得意分野だった。しかもいくらぐうたらしても太らないし、本当に最強だな。

「シャオ。君、楽しそうだね」

「なんだましろ?俺がうらやましいのか?せっかくだ。キャンディをやる」

「ありがと」

シャオから棒キャンディをもらって、俺もそれを頬張った。あ、甘くて美味しい。

「毎日ごろごろ楽しいな!幸せだな!」

シャオは入院生活を満喫しているようだ。やれやれ。この調子じゃ退院した後が大変だぞ。絶対に仕事やだってぐずるじゃないか。ぐずぐずシャオは相手をするのが大変なんだよな。そこも愛おしい部分ではあるけれど。

まあ今くらいはいいか。シャオはそれだけ頑張ったもんな。シャオはエリザ様に毒が塗られている剣でお腹を刺されてしまったらしい。それでも、シャオは俺たちを心配して、解毒をなるべく急いだようだ。シャオはそこで自分の瞳の力に気が付いたらしい。
解毒で気持ちがハイになっていた彼は、勢いのままその力を解放した。その結果、エリザ様を倒せたのだ。その時は、いい方に転がったから良かったけれど、シャオの瞳の力に関しては気を付けた方がいいと、みんなの意見が一致した。シャオ自身も「今回限りかも」と言っていたし。とにかく今は体を休めよう。また忙しい日々が待っている気がするしね。

***

入院は約5日間続いた。退院できて本当によかった。傷口もだんだん塞がりつつあるけど、激しい運動はなるべく避けるように言われたな。しばらくは戦うことも出来なさそうだ。そういう場面に遭遇しないよう気を付けないとな。

そんな俺とシャオは俺の実家の前にいたりする。俺の実家は古びたアパートだ。狭くて、部屋のあちこちにガタがきている。母さんは俺が送ったお金を、弟たちの将来のために貯金しているらしい。母さんもまた、毎日働きに出ているから、いつも疲れきった表情をしていて、心配になる。
弟たちもそれを知っているから、家のことは自分たちでやっているようだ。父さんはずっと病気がちで、俺が13の時に亡くなった。もう6年経つのか。時の流れは早いものだな。

「これがましろの家…!」

シャオがアパート見つめて言った。そしてこんなことを提案してくる。

「みんなで、王族の別邸に引っ越すのはどうだ?魔界は寒いけれど、慣れたらいいところだぞ」

それは俺がよく知っている。シャオの番…というワードが頭に過って顔が熱くなった。シャオのことは大好きだ。シャオが俺を抱き寄せる。久しぶりにシャオを近くで感じて、俺は嬉しかった。生きていて本当によかった。

ドアの近くにあるインターフォンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。

「兄ちゃん!!帰ってきてくれたんだね!」

小さな弟が腰に抱き付いてくる。部屋からぞろぞろ俺の弟たちが現れた。

「兄ちゃん…寂しかったよ。なんで今まで連絡くれなかったの?」

「ごめんね。ずっとエネミーを倒していたんだ」

「兄ちゃん、すげー!」

とりあえず中に入ろう。俺はシャオを弟たちに紹介した。

「え、本物の魔王様なの?かっけー!」

シャオがその言葉にふんぞり返っている。シャオはこうして定期的に褒めた方がいいみたいだな。その方がやる気も出るだろうし。

俺は弟たちにケーキを買ってきていた。シャオの分も当然ある。

「わ、でっかいケーキ!」

「やったー!これ食べていいの?」

「先に手を洗ってね」

「はーい」

シャオももりもりケーキを頬張り始めた。母さんはそろそろ帰ってくるな。
カチリ、と玄関からドアの開く音がする。母さんだ。

「ましろ?帰ってるのー?」

母さんの声がする。俺は玄関に向かった。シャオもついてくる。

「母さん、ただいま」

「シャオ陛下?なんでこんなところに?」

母さんの肩に掛かっていた鞄がずり落ちる。相当びっくりしたようだ。しばらく母さんは玄関で固まって、ようやく中に入ってきた。

俺はシャオと一緒に暮らしていることをみんなに話した。そして、引っ越しのこともだ。

「王族の別邸なんて、私たち庶民には似つかわしくありませんよ」

母さんが困ったように笑う。
シャオは母さんの両手を優しく握った。母さんがまたびっくりしている。

「家族がそばにいた方がましろも安心します」

「うん、そうだよ、母さん」

「まぁまぁまぁ」

母さんはすごく悩んでいるようだ。シャオに面倒を見てもらうことに抵抗があるんだろうな。真面目なヒトだし、しっかりしてるから。

「魔界にいい働き口はあるんですか?」

「ありますよ。近くに学校もあります」

学校という言葉に弟たちは惹かれたらしい。ずっと行きたがってたもんな。魔界の学校、俺も気になるな。

「分かりました。よく考えてみます」

母さんにも買ってきたケーキを食べさせたら美味しいと言ってくれた。俺たちは再びホテルに戻ってきている。夕飯を食べていけばいいのにと言われたけど、母さんの気が休まらないだろうから辞退した。

「優しい母さんだな」

シャオがそう言ってくれて嬉しかった。少し話しただけだけど、シャオのことを知ってもらえたかな?

「ねえ、シャオ?」

「なんだ?」

「俺、シャオと番になる」

そう言うと、シャオにぎゅうと抱き締められる。そのままキスされた。いつの間にかベッドに押し倒されている。

「しゃ、シャオ?」

焦って声を掛けたら、シャオが真剣な眼差しで俺を見つめてきた。体が熱い。シャオ、ずっとオレを欲しいって思っていてくれた?

「ましろ、お前をくれ」

シャオに耳元で囁かれる。

「うん、あげるよ」

シャオの広い背中に俺は腕を回した。 大好きだよ、シャオ。
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