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九話・ケーキ雑談
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1.メアが言っていた通り、ジュアは夕食頃復活した。とにかく喉が渇いたと、メアを慌てさせたらしい。
いつも通りのジュアにクモリは内心笑ってしまった。
これが彼女の本来の姿なのである。
「クモリ、笑ってないで手伝ってよ」
さすがのメアも対応しきれなかったのか、ボヤかれてクモリはいよいよ噴き出してしまった。メアは必死にジュアに頼まれた飲み物を簡易的に設置されたキッチンで作っている。このキッチンは来客のためのものだ。全て魔法でまかなえてしまう。クモリもその隣でメアを手伝った。
「もー、あんたって本当に姫様に寛容よね?」
「小さい時から姫と一緒だしね?」
「あー、そうだったわね」
メアがホットミルクに砂糖を入れている。決まった量だけ入れるのが通例だ。ん?とクモリは思う。
「ねえメア。今日の夜はケーキだけど、カフェオレじゃないよね?」
「あ、そうだった。姫様は夕方以降は紅茶とコーヒーは辞めてるんだったわね。
じゃあ何飲むのよ?」
メアに真顔で尋ねられて、クモリは小瓶を数本取り出した。こんな時のために持参しているものがある。瓶に清涼の刻印が描かれているものだ。これならどんなものでも冷たいまま保存が効く。
「何よそれ」
「いちごミルクのジャムとか色々」
「なるほどね」
メアが笑って小瓶の中身を冷たいミルクにすべて入れる。そう、全て一回分なのだ。新鮮なまま瓶に入れるのには限界がある。
クモリも温めたホットミルクにチョコレートソースをたっぷり入れた。ミルクがソースでぬるくならないように気を付ける。
「にしても、姫様はこんなに飲むつもり?」
「さぁ」
メアの疑問は最もだが、姫の望みだ。作らないわけにはいかないので、二人はドリンク7杯分を作り上げた。
「ふう、出来た」
二人はそれを運ぶ。部屋に向かうとジュアがベッドに座って待っていた。ハレがそばにいてくれていたようだ。
「ありがとう、メア、クモリ」
ジュアの可愛らしい笑顔には敵わない。そこに扉をノックする音が聞こえた。ジュアがベッドから立ち上がってドアを開ける。
「エクリプス様!本当に来てくださったんですね!」
「お土産です」
「わぁ、ありがとうございます。開けてもいい?」
「もちろん」
ジュアが早速机の上で箱を開け始めた。中から出てきたのは果物が乗ったタルトである。
「わぁ、美味しそう。メア、切り分けて頂戴。
クモリも少しどう?」
「ん、もらう」
ジュアはいつの間にエクリプスと約束をしたのだろうとクモリは考えた。だが分かるはずもない。やはりジュアには不思議な力が宿っているのだろうか。だがそれに関しては知らなくても問題ない。ジュアが笑っていることが大事だ。
「はい、クモリ」
ジュアにケーキが載った皿を渡されてクモリは受け取った。メアが解毒の魔法をかけている、安心だ。
「ドリンクは好きなものを取ってね。私は3杯飲むわ。とても喉が渇いているの。」
ジュアはみんなで一緒にケーキが食べたかったらしい。お腹も空いているようだ。
「いただきます」
手を合わせてみんなが食べ始める。ジュアが美味しいと目を輝かせると、エクリプスは嬉しそうに目を細めた。ケーキを食べながらみんなでする雑談は楽しかった。
「姫」
エクリプスがジュアの手を取り、何かを握らせた。クモリはしっかり見ている。間違いない、指輪だ。
「え、エクリプス様…これは?」
「ずっとあなたに渡したかったのです」
ジュアの顔がみるみる赤くなっていく。
「婚約して頂けませんか?」
「あ…はい」
ジュアが左手の薬指に指輪を嵌める。ダイヤがきらりと輝いた。
「ジュア姫、あなたを愛しています」
「わ、私も」
クモリはホッとしていた。ハレやメアも同じ気持ちだったらしい。二人を見ると頷かれた。
明日、ジュアたちはオーテスカに戻る。王もはじめからエクリプスのことは承知している。アーモにジュアが移り住むのはすぐだろう。自分たちも姫についていく、と決めている。姫の幸せが自分の幸せだ。
クモリたち騎士はそのためにいるのだから。
おわり
いつも通りのジュアにクモリは内心笑ってしまった。
これが彼女の本来の姿なのである。
「クモリ、笑ってないで手伝ってよ」
さすがのメアも対応しきれなかったのか、ボヤかれてクモリはいよいよ噴き出してしまった。メアは必死にジュアに頼まれた飲み物を簡易的に設置されたキッチンで作っている。このキッチンは来客のためのものだ。全て魔法でまかなえてしまう。クモリもその隣でメアを手伝った。
「もー、あんたって本当に姫様に寛容よね?」
「小さい時から姫と一緒だしね?」
「あー、そうだったわね」
メアがホットミルクに砂糖を入れている。決まった量だけ入れるのが通例だ。ん?とクモリは思う。
「ねえメア。今日の夜はケーキだけど、カフェオレじゃないよね?」
「あ、そうだった。姫様は夕方以降は紅茶とコーヒーは辞めてるんだったわね。
じゃあ何飲むのよ?」
メアに真顔で尋ねられて、クモリは小瓶を数本取り出した。こんな時のために持参しているものがある。瓶に清涼の刻印が描かれているものだ。これならどんなものでも冷たいまま保存が効く。
「何よそれ」
「いちごミルクのジャムとか色々」
「なるほどね」
メアが笑って小瓶の中身を冷たいミルクにすべて入れる。そう、全て一回分なのだ。新鮮なまま瓶に入れるのには限界がある。
クモリも温めたホットミルクにチョコレートソースをたっぷり入れた。ミルクがソースでぬるくならないように気を付ける。
「にしても、姫様はこんなに飲むつもり?」
「さぁ」
メアの疑問は最もだが、姫の望みだ。作らないわけにはいかないので、二人はドリンク7杯分を作り上げた。
「ふう、出来た」
二人はそれを運ぶ。部屋に向かうとジュアがベッドに座って待っていた。ハレがそばにいてくれていたようだ。
「ありがとう、メア、クモリ」
ジュアの可愛らしい笑顔には敵わない。そこに扉をノックする音が聞こえた。ジュアがベッドから立ち上がってドアを開ける。
「エクリプス様!本当に来てくださったんですね!」
「お土産です」
「わぁ、ありがとうございます。開けてもいい?」
「もちろん」
ジュアが早速机の上で箱を開け始めた。中から出てきたのは果物が乗ったタルトである。
「わぁ、美味しそう。メア、切り分けて頂戴。
クモリも少しどう?」
「ん、もらう」
ジュアはいつの間にエクリプスと約束をしたのだろうとクモリは考えた。だが分かるはずもない。やはりジュアには不思議な力が宿っているのだろうか。だがそれに関しては知らなくても問題ない。ジュアが笑っていることが大事だ。
「はい、クモリ」
ジュアにケーキが載った皿を渡されてクモリは受け取った。メアが解毒の魔法をかけている、安心だ。
「ドリンクは好きなものを取ってね。私は3杯飲むわ。とても喉が渇いているの。」
ジュアはみんなで一緒にケーキが食べたかったらしい。お腹も空いているようだ。
「いただきます」
手を合わせてみんなが食べ始める。ジュアが美味しいと目を輝かせると、エクリプスは嬉しそうに目を細めた。ケーキを食べながらみんなでする雑談は楽しかった。
「姫」
エクリプスがジュアの手を取り、何かを握らせた。クモリはしっかり見ている。間違いない、指輪だ。
「え、エクリプス様…これは?」
「ずっとあなたに渡したかったのです」
ジュアの顔がみるみる赤くなっていく。
「婚約して頂けませんか?」
「あ…はい」
ジュアが左手の薬指に指輪を嵌める。ダイヤがきらりと輝いた。
「ジュア姫、あなたを愛しています」
「わ、私も」
クモリはホッとしていた。ハレやメアも同じ気持ちだったらしい。二人を見ると頷かれた。
明日、ジュアたちはオーテスカに戻る。王もはじめからエクリプスのことは承知している。アーモにジュアが移り住むのはすぐだろう。自分たちも姫についていく、と決めている。姫の幸せが自分の幸せだ。
クモリたち騎士はそのためにいるのだから。
おわり
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