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五話・山賊
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「おはよう、クモリ」
「姫、よく眠れた?少し疲れてる?」
ジュアの手を取り脈を測る。脈は正常ではあるが姫の表情に疲れが見える。
「ホテルの枕がすごくふかふかしていたの」
ジュアが困ったように言う。確かにいつもよりふかふかしていた。そのおかげでジュアはよく眠れなかったらしい。旅慣れていないとよくある話だ。
「今日はこれからアーモに行くよ。大丈夫。姫は馬車にいて。あまり揺らさないよう兄ちゃんに気を付けてもらうから」
クモリが励ますとジュアも頑張ると拳を握った。こういうところが可愛らしい部分である。
引きこもる!と宣言したのは今から三年程前だろうか。ジュアはそれまでとてもいい子だった。わがままも言わずただ勉強に励む日々。
そのしわ寄せが来たのだと周りの誰もが思った。
王ですら、ジュアが引きこもるのを止めなかったくらいだ。だが、ジュアは引きこもる、と言っても人を寄せ付けないわけではなかったし、普通に部屋の外で食事もした。
ただ変わったことは城から出なくなっただけである。自分であれば部屋からも出ず、ゴロゴロダラダラするなとクモリなら思う。
「姫は真面目だなぁ」
そう呟くと、ジュアが慌てたような顔をした。本当に可愛らしい人である。エクリプスが惚れてしまう理由もよく分かる。
「私、なにか失敗した?」
ジュアに尋ねられて、クモリはゆるゆると首を横に振った。そして親指で自分の後ろを示した。
「メアが死にそうになってる」
「メア!!」
メアがこんなふうに、姫尊い…という発作を起こすのは毎度のことである。やれやれ、とクモリは思う。
「とりあえず、支度をしようか」
クモリは腰の剣を握った。この先しばらく山林を走り抜けると、アーモに繋がる道だ。そこは石畳でしっかり舗装されている。そこまで行けば、馬車もそんなに揺れないはずだ。だが、無事アーモに到着するまで気は抜けない。今、こんな噂が騎士の間で流れている。山賊がアーモに向かう貨物を狙って襲ってくると。エクリプスたちが狙われなかったのは、馬車がいなかったせいかもしれない、とクモリは踏んでいる。
だが今回は馬車がいる。そして中にはジュアが乗っている。絶対に守る、そう決意していたら右肩を優しく叩かれていた。見上げると、兄であるハレがクモリを見つめている。
「クモリ、あまり難しく考えるな。俺たちは姫様のために存在している。考えすぎて動けなかったら意味がないだろう?」
「兄ちゃんは怖くないの?」
ハレは笑う。
「俺は姫が守れないことが何より怖い」
その通りだ。クモリは頬を強く叩いた。自分は何を弱気になっているのだろう。強くあれと常々言われているのにだ。
「そろそろ出発だな」
ホテルのロビーに向かうと、エクリプスが既に待っていた。
「姫、大丈夫ですか?疲れてますよね」
エクリプスはジュアの疲労にいち早く気が付いた。クモリの中でこの人なら姫を任せられるという気がしてくるが、決めるのはジュア自身だ。
ジュアはエクリプスに心配を掛けてしまったことを何度も謝っており、最終的にはエクリプスに優しく抱きしめられて真っ赤になっていた。
「きついスケジュールを組んでしまったこと、深くお詫びします」
「わ、私の体力がないから」
「ジュア姫は本当に可愛らしい方だ」
結局この二人はラブラブなのだが、ジュアは全く気が付いていない。やれやれその2だなとクモリは思った。
一行は出発している。ひたすらに山林を駆け抜けた。
もうすぐ峠を越えるといったところで、急に火花が飛び交う。馬たちの足が止まる。やはりか、とクモリはあたりを探った。
ガラの悪そうな男たちがクモリたち一行をいやらしい笑みを浮かべて見つめてくる。
「おい、馬車を置いていけ。女が乗ってるだろう?」
やはり彼らの目的はジュアだった。
「それは出来ない」
エクリプスが前へ出る。他の兵士たちも臨戦態勢に入る。正に一触即発だ。
「やっちまえ!お前ら!!」
怒号から激しい戦いが始まった。
馬車を護りながらクモリは戦っている。
ナタで切りかかってくる者を右手の剣で抑え、後ろから切りかかってきた者に思い切りよく蹴りを入れる。
「小僧、小癪な!」
山賊の一人が思い切り剣を振りかぶってきた。それを先に横一文字に切りつける。
「ぐああ」
「クモリ強くなったな」
ハレが背中合わせに立つ。クモリは笑った。
「兄ちゃんの弟だもん」
いつの間にか雨が降っている。山賊たちは縛り上げられていた。
「姫様、姫様!」
メアが馬車の中で叫んでいる。クモリは慌てて馬車の中に駆け込んだ。
「メア、どうしたの?」
メアが首を横に振る。ジュアの意識がないらしい。顔色も優れなかった。
「戦いが始まってから苦しみだして」
「姫、怖い思いさせてごめんね」
クモリはそっとジュアの頭を撫でた。今すぐにでも医師に見せる必要がある。
一行は目指す。アーモへ。
「姫、よく眠れた?少し疲れてる?」
ジュアの手を取り脈を測る。脈は正常ではあるが姫の表情に疲れが見える。
「ホテルの枕がすごくふかふかしていたの」
ジュアが困ったように言う。確かにいつもよりふかふかしていた。そのおかげでジュアはよく眠れなかったらしい。旅慣れていないとよくある話だ。
「今日はこれからアーモに行くよ。大丈夫。姫は馬車にいて。あまり揺らさないよう兄ちゃんに気を付けてもらうから」
クモリが励ますとジュアも頑張ると拳を握った。こういうところが可愛らしい部分である。
引きこもる!と宣言したのは今から三年程前だろうか。ジュアはそれまでとてもいい子だった。わがままも言わずただ勉強に励む日々。
そのしわ寄せが来たのだと周りの誰もが思った。
王ですら、ジュアが引きこもるのを止めなかったくらいだ。だが、ジュアは引きこもる、と言っても人を寄せ付けないわけではなかったし、普通に部屋の外で食事もした。
ただ変わったことは城から出なくなっただけである。自分であれば部屋からも出ず、ゴロゴロダラダラするなとクモリなら思う。
「姫は真面目だなぁ」
そう呟くと、ジュアが慌てたような顔をした。本当に可愛らしい人である。エクリプスが惚れてしまう理由もよく分かる。
「私、なにか失敗した?」
ジュアに尋ねられて、クモリはゆるゆると首を横に振った。そして親指で自分の後ろを示した。
「メアが死にそうになってる」
「メア!!」
メアがこんなふうに、姫尊い…という発作を起こすのは毎度のことである。やれやれ、とクモリは思う。
「とりあえず、支度をしようか」
クモリは腰の剣を握った。この先しばらく山林を走り抜けると、アーモに繋がる道だ。そこは石畳でしっかり舗装されている。そこまで行けば、馬車もそんなに揺れないはずだ。だが、無事アーモに到着するまで気は抜けない。今、こんな噂が騎士の間で流れている。山賊がアーモに向かう貨物を狙って襲ってくると。エクリプスたちが狙われなかったのは、馬車がいなかったせいかもしれない、とクモリは踏んでいる。
だが今回は馬車がいる。そして中にはジュアが乗っている。絶対に守る、そう決意していたら右肩を優しく叩かれていた。見上げると、兄であるハレがクモリを見つめている。
「クモリ、あまり難しく考えるな。俺たちは姫様のために存在している。考えすぎて動けなかったら意味がないだろう?」
「兄ちゃんは怖くないの?」
ハレは笑う。
「俺は姫が守れないことが何より怖い」
その通りだ。クモリは頬を強く叩いた。自分は何を弱気になっているのだろう。強くあれと常々言われているのにだ。
「そろそろ出発だな」
ホテルのロビーに向かうと、エクリプスが既に待っていた。
「姫、大丈夫ですか?疲れてますよね」
エクリプスはジュアの疲労にいち早く気が付いた。クモリの中でこの人なら姫を任せられるという気がしてくるが、決めるのはジュア自身だ。
ジュアはエクリプスに心配を掛けてしまったことを何度も謝っており、最終的にはエクリプスに優しく抱きしめられて真っ赤になっていた。
「きついスケジュールを組んでしまったこと、深くお詫びします」
「わ、私の体力がないから」
「ジュア姫は本当に可愛らしい方だ」
結局この二人はラブラブなのだが、ジュアは全く気が付いていない。やれやれその2だなとクモリは思った。
一行は出発している。ひたすらに山林を駆け抜けた。
もうすぐ峠を越えるといったところで、急に火花が飛び交う。馬たちの足が止まる。やはりか、とクモリはあたりを探った。
ガラの悪そうな男たちがクモリたち一行をいやらしい笑みを浮かべて見つめてくる。
「おい、馬車を置いていけ。女が乗ってるだろう?」
やはり彼らの目的はジュアだった。
「それは出来ない」
エクリプスが前へ出る。他の兵士たちも臨戦態勢に入る。正に一触即発だ。
「やっちまえ!お前ら!!」
怒号から激しい戦いが始まった。
馬車を護りながらクモリは戦っている。
ナタで切りかかってくる者を右手の剣で抑え、後ろから切りかかってきた者に思い切りよく蹴りを入れる。
「小僧、小癪な!」
山賊の一人が思い切り剣を振りかぶってきた。それを先に横一文字に切りつける。
「ぐああ」
「クモリ強くなったな」
ハレが背中合わせに立つ。クモリは笑った。
「兄ちゃんの弟だもん」
いつの間にか雨が降っている。山賊たちは縛り上げられていた。
「姫様、姫様!」
メアが馬車の中で叫んでいる。クモリは慌てて馬車の中に駆け込んだ。
「メア、どうしたの?」
メアが首を横に振る。ジュアの意識がないらしい。顔色も優れなかった。
「戦いが始まってから苦しみだして」
「姫、怖い思いさせてごめんね」
クモリはそっとジュアの頭を撫でた。今すぐにでも医師に見せる必要がある。
一行は目指す。アーモへ。
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