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二話·王子がやって来た!
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困ったなぁとクモリは思っていた。ハレやメアも同じ気持ちであることに間違いない。彼らは王の前に跪いていた。王はもう齢60を越えているが、体つきも逞しく、そこらの若い兵士などより、よほど強いだろう。
そんな王が言う。
「ジュアが公務に行くと先方に伝えたら、迎えに来ると言っておってな」
アーモからわざわざ…とクモリは思ったが顔には出さない。それだけアーモの王子のジュアへの愛は本物なのだろう。だがせっかく行く気になったジュアにこのことをどう伝えればいいのだろう。
ただでさえ、王子に対して緊張しているというのに。
「陛下、おそれながら。アーモの殿下はいつこちらに?」
「うむ、飛ばしてくると言っておった。今日中には着くじゃろう」
三人はお互いを見て頷きあった。もう来てしまうものはしょうがない。
「よくもてなせよ」
「は」
三人は下がった。
「困ったわね。姫様が聞いたらまた騒ぐわよ」
メアの言うことにハレも頷いた。
「だが言わないわけにもいかない。できるだけ殿下を姫に近付けさせないようにするか」
「無理だよ。殿下は姫が大好きだもん」
クモリの言葉にハレがだよなぁとかぶせる。
「でも姫だってアーモの殿下が嫌いなわけじゃないみたいなんだ」
「なにそれkwsk」
メアが飛び付いてきた。
「姫は自己肯定感が低いから優しくされるとその人を疑うみたいで」
「ああ、あんなに可愛らしいのに」
メアが両目を手で覆う。
「じゃあ結局どうすりゃいいんだ?」
ハレの言葉にクモリは頷いた。
「ジュア姫、アーモの殿下にメロメロ大作戦を決行します」
「なるほど!」
メアが手を打つ。ハレはいまいち話が掴めていないようだ。クモリは改めて説明した。
「俺たちでアーモの殿下は信頼できる人ですよ、って姫に報せるの」
「…まあ、やってみるか」
ハレは気乗りしないようだが、試して見る気にはなったらしい。三人は姫の部屋をノックした。
姫から返事がある。
「クモリ、アーモの殿下がいらっしゃるの?」
あちゃあ、とクモリは思った。彼女は部屋にこもりきりのはずだが情報には敏い。ネズミなんかの動物と話が出来るのではと噂が立っているくらいだ。クモリは彼女に向かって頷いた。
「そう。今夜には来るよ。嫌じゃない?」
ジュアは眉根を寄せて困ったという顔をした。
「私は夜起きてないから、今日殿下にはお会いできないわ」
そっちかい!と突っ込みそうになったクモリだがなんとか堪える。ジュアが顔を赤らめた。
「わざわざお迎えに来てくださるなんて、殿下は本当に私を好きでいてくれているのかしら」
どうやらジュアの中で気持ちの変化があったらしい。
彼女は笑った。
「クモリが殿下の気持ちを確認した方がいいって言っていたからその通りだなって。私も引きこもってばかりでは駄目だと思ったの」
「姫様…」
メアが感激ですでに泣いている。ジュアも年頃だ。異性が気になるのだろう。
「姫が嫌だったら嫌だって言うんだよ?俺たちはそばにいるからね」
「クモリは優しいのね」
ジュアに仕えるようになって早5年。彼女のこんな穏やかな表情を見るのは初めてかもしれない。
「姫、あなたに仕えられて私達は幸せです」
ハレが跪く。クモリやメアもそれに倣った。ジュアがハッとして、机の上に置いてあった何かをクモリに差し出してきた。どうやらプレゼントのようだ。ピンク色の可愛らしい袋に入っている。
「殿下にお渡ししてほしいの」
「姫から渡したほうが…」
ジュアが首を横に振る。
「お菓子だから今日食べてもらいたいの。解毒の刻印が入ってるから大丈夫」
慎重な姫らしい配慮である。
「わかりました。必ずお渡し致します」
「お願いね、クモリ」
ジュアがメアを呼んでいる。明日何を着ようという相談をしているらしい。年頃らしい悩みに微笑ましくなる。
「姫はもう嫁がれるのかもな」
「俺たちも行くよね?」
ハレが笑う。
「もちろんだ」
✢✢✢
その日の晩、彼はやって来た。王子エクリプスの登場だ。彼は白馬を宥めている。
クモリたちは彼らの元に駆け寄った。
「殿下、はるばるようこそ。どうぞ、城へ」
クモリは王子らの大事な馬たちを裏の厩舎に繋いだ。城に戻ると、王子たちには茶が振る舞われている。
「姫はもう眠っている頃だろうね」
エクリプスは普段、物腰の柔らかい男だ。だが、いざ馬に乗り剣を掲げれば勇ましい戦士になる。
「姫に贈り物を持ってきたのだけど気に入ってもらえるかな?」
兵士たちに似つかわしくないピンクや赤の可愛らしく包装された箱にクモリたちはようやく合点がいった。全てジュアへの贈り物だったらしい。
クモリは先程ジュアから預かっていたプレゼントのことを思い出していた。エクリプスの前に進み出て跪く。
「殿下、ジュア王女より預かりものが…」
「これは…」
エクリプスが中身を取り出す。それはジュアが焼いた焼き菓子だった。手紙を読んだエクリプスが泣いてしまう。
「姫が私のために」
クモリは跪いたまま言った。
「殿下、姫はあなた様の愛を信じようと努力されています。どうか姫のことをあなたの愛で優しく包んでいただければと思います」
少し図々しかったな、とクモリは反省した。だが、エクリプスはそれにやる気を出したらしい。
コクリ、と頷いたのだった。
そんな王が言う。
「ジュアが公務に行くと先方に伝えたら、迎えに来ると言っておってな」
アーモからわざわざ…とクモリは思ったが顔には出さない。それだけアーモの王子のジュアへの愛は本物なのだろう。だがせっかく行く気になったジュアにこのことをどう伝えればいいのだろう。
ただでさえ、王子に対して緊張しているというのに。
「陛下、おそれながら。アーモの殿下はいつこちらに?」
「うむ、飛ばしてくると言っておった。今日中には着くじゃろう」
三人はお互いを見て頷きあった。もう来てしまうものはしょうがない。
「よくもてなせよ」
「は」
三人は下がった。
「困ったわね。姫様が聞いたらまた騒ぐわよ」
メアの言うことにハレも頷いた。
「だが言わないわけにもいかない。できるだけ殿下を姫に近付けさせないようにするか」
「無理だよ。殿下は姫が大好きだもん」
クモリの言葉にハレがだよなぁとかぶせる。
「でも姫だってアーモの殿下が嫌いなわけじゃないみたいなんだ」
「なにそれkwsk」
メアが飛び付いてきた。
「姫は自己肯定感が低いから優しくされるとその人を疑うみたいで」
「ああ、あんなに可愛らしいのに」
メアが両目を手で覆う。
「じゃあ結局どうすりゃいいんだ?」
ハレの言葉にクモリは頷いた。
「ジュア姫、アーモの殿下にメロメロ大作戦を決行します」
「なるほど!」
メアが手を打つ。ハレはいまいち話が掴めていないようだ。クモリは改めて説明した。
「俺たちでアーモの殿下は信頼できる人ですよ、って姫に報せるの」
「…まあ、やってみるか」
ハレは気乗りしないようだが、試して見る気にはなったらしい。三人は姫の部屋をノックした。
姫から返事がある。
「クモリ、アーモの殿下がいらっしゃるの?」
あちゃあ、とクモリは思った。彼女は部屋にこもりきりのはずだが情報には敏い。ネズミなんかの動物と話が出来るのではと噂が立っているくらいだ。クモリは彼女に向かって頷いた。
「そう。今夜には来るよ。嫌じゃない?」
ジュアは眉根を寄せて困ったという顔をした。
「私は夜起きてないから、今日殿下にはお会いできないわ」
そっちかい!と突っ込みそうになったクモリだがなんとか堪える。ジュアが顔を赤らめた。
「わざわざお迎えに来てくださるなんて、殿下は本当に私を好きでいてくれているのかしら」
どうやらジュアの中で気持ちの変化があったらしい。
彼女は笑った。
「クモリが殿下の気持ちを確認した方がいいって言っていたからその通りだなって。私も引きこもってばかりでは駄目だと思ったの」
「姫様…」
メアが感激ですでに泣いている。ジュアも年頃だ。異性が気になるのだろう。
「姫が嫌だったら嫌だって言うんだよ?俺たちはそばにいるからね」
「クモリは優しいのね」
ジュアに仕えるようになって早5年。彼女のこんな穏やかな表情を見るのは初めてかもしれない。
「姫、あなたに仕えられて私達は幸せです」
ハレが跪く。クモリやメアもそれに倣った。ジュアがハッとして、机の上に置いてあった何かをクモリに差し出してきた。どうやらプレゼントのようだ。ピンク色の可愛らしい袋に入っている。
「殿下にお渡ししてほしいの」
「姫から渡したほうが…」
ジュアが首を横に振る。
「お菓子だから今日食べてもらいたいの。解毒の刻印が入ってるから大丈夫」
慎重な姫らしい配慮である。
「わかりました。必ずお渡し致します」
「お願いね、クモリ」
ジュアがメアを呼んでいる。明日何を着ようという相談をしているらしい。年頃らしい悩みに微笑ましくなる。
「姫はもう嫁がれるのかもな」
「俺たちも行くよね?」
ハレが笑う。
「もちろんだ」
✢✢✢
その日の晩、彼はやって来た。王子エクリプスの登場だ。彼は白馬を宥めている。
クモリたちは彼らの元に駆け寄った。
「殿下、はるばるようこそ。どうぞ、城へ」
クモリは王子らの大事な馬たちを裏の厩舎に繋いだ。城に戻ると、王子たちには茶が振る舞われている。
「姫はもう眠っている頃だろうね」
エクリプスは普段、物腰の柔らかい男だ。だが、いざ馬に乗り剣を掲げれば勇ましい戦士になる。
「姫に贈り物を持ってきたのだけど気に入ってもらえるかな?」
兵士たちに似つかわしくないピンクや赤の可愛らしく包装された箱にクモリたちはようやく合点がいった。全てジュアへの贈り物だったらしい。
クモリは先程ジュアから預かっていたプレゼントのことを思い出していた。エクリプスの前に進み出て跪く。
「殿下、ジュア王女より預かりものが…」
「これは…」
エクリプスが中身を取り出す。それはジュアが焼いた焼き菓子だった。手紙を読んだエクリプスが泣いてしまう。
「姫が私のために」
クモリは跪いたまま言った。
「殿下、姫はあなた様の愛を信じようと努力されています。どうか姫のことをあなたの愛で優しく包んでいただければと思います」
少し図々しかったな、とクモリは反省した。だが、エクリプスはそれにやる気を出したらしい。
コクリ、と頷いたのだった。
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