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四話

誓いのキス

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「ねぇウル様?」

「ん?」

あの事件からもう数日が経っていた。ウル様はあの時の怪我で入院している。こんな時くらい休めばいいのに、ウル様は毎日パソコンで仕事をしていた。

「夕夏、ハルカを許してやってほしい」

「それは...」

ウル様にこんな大きな怪我をさせた。私はウル様の痛々しい姿を改めて見つめた。許すなんて今はできそうにない。

ハルカさんがあんな事をした理由。それはスポンサーとの関係が原因だったらしい。はじめはハルカさんにつくことになっていたスポンサーが、ウル様の会社のスポンサーとして契約を結んだのだそうだ。
ハルカさんはそれを乗り越えて起業したものの、最近ついに首が回らなくなっていたらしい。自棄になって思いついたのがウル様を殺害することだった。
人の殺害を考えるなんて、正気じゃない。
ハルカさんは相当追い詰められていたのかな。

「ウル様、あの時話していたこと覚えてる?」

ウル様は首を傾げた。

今日はせっかくの日曜日なのに、雨が降っている。梅雨前線がずっと停滞しているからだ。
じめじめムシムシにはもううんざりしている。
早く夏が来ないかな、今年は楽しい計画を、ウル様と沢山練っているのに。
こんなに夏が待ち遠しいなんて、初めてかもしれない。

「あの時、ウル様にアキラの記憶があるって言ってたよね?どうゆうこと?」

「そのことか」

ウル様は笑って私を見つめた。

「私の中にはアキラの魂がある」

「そう、なの?」

「夕夏を知っていたのはそのためだ。
実際に会ってみたら、可愛らしくてびっくりした」

「ウル様ってば」

そんなこと言われると照れる。
あれ?

「私がここに来ることわかっていたの?」

「あぁ、アキラが私に教えてくれたよ」

「そうなんだ」

アキラはずっと私を助けてくれるんだね。
胸の奥がぽっと温かい。
もう彼のことを忘れないようにしなきゃいけない。

「夕夏」

ウル様が私に手招きする。私はベッドに座った。

「発作のことなんだが」

ウル様が困っている?

「どうしたの?」

「よくわからないんだが、君とキスすると発作が収まるようなんだ」

「そうなの?本当?」

「あぁ」

私でもウル様の役に立てる。
嬉しい。

「夕夏、それで」

ウル様は少し躊躇ってこう言った。

「私と結婚してくれないか?もちろんすぐじゃない。君が大人になってから考えてくれれば」

はじめ、単語の意味がよくわからなかった。
今、結婚って言ったよね?
私とウル様が結婚?

「うん、結婚する」

私は頷いた。ずっとウル様の隣にいたい。
ウル様が私を抱きしめてくれる。

「夕夏」

そう名前を呼ばれる。
私達はキスをした。



小さい頃、アキラと私はずっと一緒にいた。
お昼寝をしたり、おやつを食べたり、なんでも一緒だった。
アキラは小さな犬だった。

それでも元気いっぱいで、いつも私の周りでしっぽを振りながら跳ねていた。
私が泣いているときは心配そうに私をみていた。ずっと私に寄り添ってくれた。

(アキラ、ありがとう)

いつの間にか私はベッドに突っ伏して眠っていたようだ。ウル様が大きな手で私の頭を撫でてくれている。
目を開けて顔を上げたら、ウル様が笑った。

「夕夏、起きたのか?」

「うん」 

おわり
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