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将軍
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テストが終わって、僕は通学路を一人で歩いていた。
テストの出来はまぁまぁかな、くらい。
良くもなく悪くもなく。
こんな毎日がこれからも続くのかな?
なんだか疲れてきてしまった。
「おい」
上から声が降ってきて僕は驚いた。
声のした方を見ると、昨日のデブ猫。
「おめぇ、ユキっつうんだな?
今日からみっちり練習しようぜ」
「へ?」
気が付くと、僕は猫になっていた。
「おめえはやっぱ才能があるよな。
あんなに簡単に人間を手懐けてよ」
それは僕じゃなくて、彼方さんが優しいだけだと思うけど、とは答えられなかった。
「よっしゃ、とりあえず走るぞ!ついてこい!」
デブ猫は軽快に走り出す。
僕は慌てて後を追い掛けようとした。
したけど昨日のようにまた顔から地面に突っ込んでしまう。
この走り方は難しい。
「ユキ!頑張れ!俺に付いてこい!」
僕は歯を食いしばって起き上がる。
なんとか走り出した。
デブ猫はちらちらとこちらをうかがうように振り返ってくれる。
「ユキ、いいぞ!」
息が切れる。心臓の音がうるさい。
デブ猫を必死に追いかける。
いつの間にか路地裏にいる。
ここがどこなのか、もう分からなくて不安に襲われる。
でも立ち止まれなかった。
「ユキ、どうだ、楽しいだろ?」
僕らは港にいた。
潮風が気持ちいい。
「なんで僕を猫にしたの?」
デブ猫はあぁ、と呟いた。
「毎日お前を見ててな、人間なのに後ろばっか向いてやがる。
放っておけないだろ?」
「あ、ありがと」
猫に心配されている僕って。
「あの、君の名前は?」
僕が尋ねるとデブ猫は考えた。
「俺様は生まれながらに野良なのよ。
だから名前はねえんだ」
でもよ、とデブ猫は笑う。
「この辺じゃ将軍って呼ばれてる」
彼にぴったりの名前だ、僕は笑った。
将軍も笑う。
「そういや、おめえ、さっきもつまんなそうな顔してたよな?
一体どうしたんだい?」
将軍に言われて僕は思い出した。
「うん、テストがあって疲れただけ。
でももう大丈夫」
自分の中で大丈夫は嘘だと分かっている。
こうしてずっとごまかしごまかし来た。
「ユキ、無理はすんな。
お前の世界はそこだけじゃねえ」
そうなのかな。
返答に困っていると将軍が僕の体を押す。
「ユキ、帰んな。
お前の大好きなやつが近くにいるぜ?」
彼方さん?
気が付くと僕は将軍に会った場所に突っ立っていた。
「幸。ぼんやりしてどうした?
具合悪いのか?」
辺りはもう真っ暗だ。
母さんに叱られる。
「あ、お兄さん、僕」
「俺と一緒にいたって言おう。
大丈夫だよ」
彼方さんの大きな手が僕の頭を撫でる。
僕は彼方さんに助けてもらってばかりだ。
そして、将軍にも。
彼方さんのお陰で母さんからは少し小言を言われただけで済んだ。
テストは今日で終わったけど、明日からテストが返ってくるししばらく大変そうだ。
「なんでやる気出ないかなー」
ごろっとベッドに横になる。
僕のやる気が出ない原因。
実は僕が一番それを分かっている。
人生が楽しくないからだ。
彼方さんが好きだけど叶うはずもないし、このままパッとしない人生を送ることだってなんとなくわかっている。
それを変えるためには努力だっていうけれど、そんなやる気も出ない。
わがままだってわかっている。
でも、なんだか疲れていて元気が出ないんだ。
(今日、気持ちよかった)
将軍と全力疾走したことを思い出す。
あんなふうにがむしゃらに走ったのは、もうずっと前のことだ。
いつからだろう。自分に限界を決め始めたのは。
また僕は走り出せるときが来るんだろうか。
テストの出来はまぁまぁかな、くらい。
良くもなく悪くもなく。
こんな毎日がこれからも続くのかな?
なんだか疲れてきてしまった。
「おい」
上から声が降ってきて僕は驚いた。
声のした方を見ると、昨日のデブ猫。
「おめぇ、ユキっつうんだな?
今日からみっちり練習しようぜ」
「へ?」
気が付くと、僕は猫になっていた。
「おめえはやっぱ才能があるよな。
あんなに簡単に人間を手懐けてよ」
それは僕じゃなくて、彼方さんが優しいだけだと思うけど、とは答えられなかった。
「よっしゃ、とりあえず走るぞ!ついてこい!」
デブ猫は軽快に走り出す。
僕は慌てて後を追い掛けようとした。
したけど昨日のようにまた顔から地面に突っ込んでしまう。
この走り方は難しい。
「ユキ!頑張れ!俺に付いてこい!」
僕は歯を食いしばって起き上がる。
なんとか走り出した。
デブ猫はちらちらとこちらをうかがうように振り返ってくれる。
「ユキ、いいぞ!」
息が切れる。心臓の音がうるさい。
デブ猫を必死に追いかける。
いつの間にか路地裏にいる。
ここがどこなのか、もう分からなくて不安に襲われる。
でも立ち止まれなかった。
「ユキ、どうだ、楽しいだろ?」
僕らは港にいた。
潮風が気持ちいい。
「なんで僕を猫にしたの?」
デブ猫はあぁ、と呟いた。
「毎日お前を見ててな、人間なのに後ろばっか向いてやがる。
放っておけないだろ?」
「あ、ありがと」
猫に心配されている僕って。
「あの、君の名前は?」
僕が尋ねるとデブ猫は考えた。
「俺様は生まれながらに野良なのよ。
だから名前はねえんだ」
でもよ、とデブ猫は笑う。
「この辺じゃ将軍って呼ばれてる」
彼にぴったりの名前だ、僕は笑った。
将軍も笑う。
「そういや、おめえ、さっきもつまんなそうな顔してたよな?
一体どうしたんだい?」
将軍に言われて僕は思い出した。
「うん、テストがあって疲れただけ。
でももう大丈夫」
自分の中で大丈夫は嘘だと分かっている。
こうしてずっとごまかしごまかし来た。
「ユキ、無理はすんな。
お前の世界はそこだけじゃねえ」
そうなのかな。
返答に困っていると将軍が僕の体を押す。
「ユキ、帰んな。
お前の大好きなやつが近くにいるぜ?」
彼方さん?
気が付くと僕は将軍に会った場所に突っ立っていた。
「幸。ぼんやりしてどうした?
具合悪いのか?」
辺りはもう真っ暗だ。
母さんに叱られる。
「あ、お兄さん、僕」
「俺と一緒にいたって言おう。
大丈夫だよ」
彼方さんの大きな手が僕の頭を撫でる。
僕は彼方さんに助けてもらってばかりだ。
そして、将軍にも。
彼方さんのお陰で母さんからは少し小言を言われただけで済んだ。
テストは今日で終わったけど、明日からテストが返ってくるししばらく大変そうだ。
「なんでやる気出ないかなー」
ごろっとベッドに横になる。
僕のやる気が出ない原因。
実は僕が一番それを分かっている。
人生が楽しくないからだ。
彼方さんが好きだけど叶うはずもないし、このままパッとしない人生を送ることだってなんとなくわかっている。
それを変えるためには努力だっていうけれど、そんなやる気も出ない。
わがままだってわかっている。
でも、なんだか疲れていて元気が出ないんだ。
(今日、気持ちよかった)
将軍と全力疾走したことを思い出す。
あんなふうにがむしゃらに走ったのは、もうずっと前のことだ。
いつからだろう。自分に限界を決め始めたのは。
また僕は走り出せるときが来るんだろうか。
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