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冬休みが終わり、拓海も職場である中学校に来ている。相談室にはひっきりなしに生徒が様々な想いを抱えてやってくる。
「川田先生、もうすぐ試験だよ。やだなぁ」
「テストありすぎだよなー。来年は受験生だし。親に勝手に期待されてるし」
試験のことで、ぶうぶう文句を垂れているのは2年生の男子生徒2人組だ。波長が合うのか、2人が一緒にいるのをよく見かける。
「僕もテストは嫌だったなぁ。懐かしい」
「大人は仕事があるもんねー。テストが懐かしくなっちゃうのかぁ」
「アレだろ?社畜ってやつ。うわぁ、働きたくない」
「でも自分に向いているやりがいのある仕事が出来たらいいと思わない?」
拓海の言葉に、確かにと2人は同時に頷いた。
「進路頑張って考えるかー」
「俺も勉強頑張るかー」
予鈴のチャイムが鳴っている。
「じゃ、先生また来るね!」
「うん。待ってるね。廊下は走らないんだよ!」
「はーい!」
嵐のように去っていったなと拓海は一人笑ってしまった。
「さて、そろそろ帰る支度するか」
今日は面談の約束もない。拓海は荷物をまとめ始めた。ストーブを消したことを確認して、教室に鍵を掛ける。
「あ、川田先生」
廊下を歩いていると、教頭がやって来た。なにか用事だろうかと拓海は歩を止めた。
「どうされましたか?教頭先生」
「来年度の話なんですが、特殊学級が拡大することになるんですよ」
「そうなんですね」
「今は発達障害とか色々あるでしょ。特別支援学校だけじゃ、とてもまかないきれなくて」
「なるほど」
「川田先生がウチに来てから、学校が穏やかになった気がします」
「そんな…他の先生方もかなり協力してくれてますし」
「来年度も頼みますね」
「はい。では、お先に失礼致します」
(契約切られるのかと思った!!)
拓海は教頭に呼び止められて、内心ヒヤヒヤしていた。だが、来年度もここで働けることが今確定した。それにホッとする。
(よかったー。また無職にはなりたくない)
日雇いのバイトは主に肉体労働なので、その日限りとはいえ辛いものがある。
「ただいまー」
家の中はしん、と静まり返っている。そういえば皆出掛けていたなと拓海は思い出していた。正月休みボケだ。
(夕飯どうしようかなー、確かひき肉あったよね)
拓海は冷蔵庫の中身を漁った。ひき肉の大容量パックを見つける。安さに釣られて買ったのだ。
(ハンバーグ確定。玉ねぎでも炒めるか)
拓海は玉ねぎを取り出してみじん切りを始めた。
「くぅ、冷蔵庫入れておいても目が沁みる」
みじん切りが終わり、バターで玉ねぎが飴色になるまで炒める。知らず知らずのうちに拓海は鼻歌を歌っていた。
しばらくして、カチリと鍵を開ける音と足音がする。
「ただいまー」
「お帰り。慎吾、賢くん」
「ハンバーグだ!」
「賢、嬉しいな。先に手洗いとうがいしような」
「ん」
賢が洗面所に向かう。慎吾がそれを見送って拓海の頭を撫でた。
「拓海、お疲れ」
ちゅ、と口付けられている。久しぶりのキスだ。
「い、今は駄目」
ぐ、と慎吾の胸をやんわり押し返すと、そうだなと笑われた。
「風呂の支度するか」
「うん、お願い」
久しぶりに慎吾を男性として魅力的だと拓海は思っていた。賢と3人でいるとなかなかそれは難しい。
(久しぶりに慎吾とデートしたいなぁ)
拓海はそろっと思った。
「川田先生、もうすぐ試験だよ。やだなぁ」
「テストありすぎだよなー。来年は受験生だし。親に勝手に期待されてるし」
試験のことで、ぶうぶう文句を垂れているのは2年生の男子生徒2人組だ。波長が合うのか、2人が一緒にいるのをよく見かける。
「僕もテストは嫌だったなぁ。懐かしい」
「大人は仕事があるもんねー。テストが懐かしくなっちゃうのかぁ」
「アレだろ?社畜ってやつ。うわぁ、働きたくない」
「でも自分に向いているやりがいのある仕事が出来たらいいと思わない?」
拓海の言葉に、確かにと2人は同時に頷いた。
「進路頑張って考えるかー」
「俺も勉強頑張るかー」
予鈴のチャイムが鳴っている。
「じゃ、先生また来るね!」
「うん。待ってるね。廊下は走らないんだよ!」
「はーい!」
嵐のように去っていったなと拓海は一人笑ってしまった。
「さて、そろそろ帰る支度するか」
今日は面談の約束もない。拓海は荷物をまとめ始めた。ストーブを消したことを確認して、教室に鍵を掛ける。
「あ、川田先生」
廊下を歩いていると、教頭がやって来た。なにか用事だろうかと拓海は歩を止めた。
「どうされましたか?教頭先生」
「来年度の話なんですが、特殊学級が拡大することになるんですよ」
「そうなんですね」
「今は発達障害とか色々あるでしょ。特別支援学校だけじゃ、とてもまかないきれなくて」
「なるほど」
「川田先生がウチに来てから、学校が穏やかになった気がします」
「そんな…他の先生方もかなり協力してくれてますし」
「来年度も頼みますね」
「はい。では、お先に失礼致します」
(契約切られるのかと思った!!)
拓海は教頭に呼び止められて、内心ヒヤヒヤしていた。だが、来年度もここで働けることが今確定した。それにホッとする。
(よかったー。また無職にはなりたくない)
日雇いのバイトは主に肉体労働なので、その日限りとはいえ辛いものがある。
「ただいまー」
家の中はしん、と静まり返っている。そういえば皆出掛けていたなと拓海は思い出していた。正月休みボケだ。
(夕飯どうしようかなー、確かひき肉あったよね)
拓海は冷蔵庫の中身を漁った。ひき肉の大容量パックを見つける。安さに釣られて買ったのだ。
(ハンバーグ確定。玉ねぎでも炒めるか)
拓海は玉ねぎを取り出してみじん切りを始めた。
「くぅ、冷蔵庫入れておいても目が沁みる」
みじん切りが終わり、バターで玉ねぎが飴色になるまで炒める。知らず知らずのうちに拓海は鼻歌を歌っていた。
しばらくして、カチリと鍵を開ける音と足音がする。
「ただいまー」
「お帰り。慎吾、賢くん」
「ハンバーグだ!」
「賢、嬉しいな。先に手洗いとうがいしような」
「ん」
賢が洗面所に向かう。慎吾がそれを見送って拓海の頭を撫でた。
「拓海、お疲れ」
ちゅ、と口付けられている。久しぶりのキスだ。
「い、今は駄目」
ぐ、と慎吾の胸をやんわり押し返すと、そうだなと笑われた。
「風呂の支度するか」
「うん、お願い」
久しぶりに慎吾を男性として魅力的だと拓海は思っていた。賢と3人でいるとなかなかそれは難しい。
(久しぶりに慎吾とデートしたいなぁ)
拓海はそろっと思った。
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