僕の死亡日記

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
21 / 22

二十一話・あの子

しおりを挟む
僕はまた夢を見ているんだろうか。また知らない場所にいる。僕の目の前で田植えが行われていた。もちろん機械でじゃない。全て手作業だ。農業は大変だよな。僕は自分の体が自由に動かせることに気が付いた。

「主人、ここは俺の前の主人、じっちゃんがいた場所だ。鵺と戦って一度倒した。主人は確かにじっちゃんによく似ている。でも主人はじっちゃんの写し身なんかじゃないぞ」

獅子王がそう言うのだからそうなんだろう。僕は田んぼに近付いた。作業をしていた人が僕に気が付く。もちろんその人が僕のひいひいひいおじいちゃんなんだ。僕と年齢は同じくらいだろうか。色白で華奢な体を必死に動かしている。

「あの、お手伝いさせてください」

「金が欲しいのか?」

「違います。話を聞かせてください。鵺について」

鵺、というワードに彼は眉を顰めた。僕は気にせず続けることにする。

「あなたは獅子王という刀剣を持ってますよね?鵺と戦うために」

「…まあな。お前は何者だ?」

「僕は詩史っていいます。鵺と戦いました」

「詩史…だって?」

おじいちゃんが目を見開く。何かあったのかな。

「お前は鵺をどうした?」

「切り刻んで海に流しました」

「なるほどな。奴らしい最期だ。詩史、この苗を植えてくれ」

どうやら信じてもらえたらしい。僕は裸足になって、田んぼに足を踏み入れた。泥の感触になかなか慣れない。そして思っていたより冷たい。
苗を均等になるように気を付けながら植えた。
日差しは雲に覆われていたからそこまでじゃなかったけど、大変だったのは間違いない。片手に苗の入った箱を抱いての作業は辛かった。

「詩史、ありがとうな。助かったよ」

タオルを借りて、汗を拭う。足は井戸の水で洗った。ものすごく冷たい。でも気持ちいい。縁側に座っていろと言われて、座っていたらおにぎりとスイカが出てきた。僕のお腹が急に鳴り出す。
おじいちゃんはそれに噴き出した。

「詩史、沢山食べろ。よく鵺を退治してくれたな」

「うん、頂きます」

僕は大きなおにぎりを掴んで齧り付いた。塩むすびだ、美味しい。

「おじいちゃんが死亡日記を作ったの?」

僕の最初の疑問はそれだった。

「あぁ。獅子王にもらった。記述を残したほうが後に困らないからと。タイトルはいつ死んでもいいようにだ。俺は体が小さい。軽いはずの獅子王すら重たかった」

確かに彼は僕より小柄だ。戦うのは大変だったはずだ。

「鵺に沢山奪われたよね?獅子王に会わなかったらおじいちゃんは…」

彼は頷く。

「自殺も考えたよ。でも獅子王がそれを止めてくれた。未来のために日記に書いておいたほうがいいと勧めてくれた。やはり、鵺を殺しきれてなかったか」

おじいちゃんが悲しそうに目を細める。

「大丈夫。獅子王が力を貸してくれたよ!」

おじいちゃんがボロボロ涙を零す。急なことに僕は驚いていた。

「獅子王は眠ってしまった。あいつに会いたい。あの笑顔をもう一度見たい」

獅子王が眠った?僕は寒気を感じた。今の時代の獅子王はどうなってしまうんだろう。

「僕、戻らなきゃ」

「詩史、俺は遺言を残すつもりだ。男の子が生まれた時、ししと名付けてくれとな」

「え…?」

それが僕だったんだ。おじいちゃんが手を振っている。僕は彼に手を振り返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

海藤日本の怖い話。

海藤日本
ホラー
これは、私が実際に体験した話しと、知人から聞いた怖い話である。

【総集編】 1分怪談短編集

Grisly
ホラー
⭐︎登録お願いします。 1分で読めるホラー、怪談、サスペンス。 ひんやりしませんか。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

『オークヘイヴンの収穫祭』

takehiro_music
ホラー
人類学者エレノア・ミッチェルは、遠隔地の町オークヘイヴンに赴く。そこでは、古代から続く収穫祭が行われていたが、その祭りにはただの風習を超えた、何か得体の知れない力が潜んでいた。町に刻まれた奇妙なシンボル、住民たちの謎めいた言動、そして夜ごと響く不可解な声――エレノアが真実を探るうちに、現実そのものが歪み始める。 この町の収穫祭は、何世代にもわたり受け継がれてきた「儀式」の一部に過ぎないのか? それとも、人知を超えた力が世界のあり方を書き換えようとしているのか? 禁断の書物、隠された言語、そして儀式に秘められた意味を解き明かすうちに、エレノアは恐るべき選択を迫られることになる。 変容と犠牲、言語と現実の交錯する恐怖の中で、人間の理解を超えた真実が明らかになる――。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...