僕の死亡日記

はやしかわともえ

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十五話・鏡を嫌う理由

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 僕は一体どうしたんだ?ふと気が付くと周りからジージーとセミの鳴く声がしている。ここはどこだ?しかもすごく暑いな。窓は開いているけど風すら吹いていない。もわっとした空気が体に纏わりついているみたいだ。もしかして冷房がないの?僕の意識がだんだんはっきりしてきた。僕?はじっと本を見つめている。すごく読みにくいな、カタカナと漢字が入り乱れている。まさか、これは現代じゃない?また僕は過去の世界に来ている?推測しかできないのがもどかしい。

「主人、一体どうするつもりなんだ?」

 遠い所から獅子王の声がする。獅子王は小さな姿で目の前の棚にちまっと座っていた。僕は彼に話しかけようとして、出来ないことに気が付いた。やはり、また意識だけらしい。その子は言う。色白な華奢な子。僕によく似ているその子。僕はこの子の写し身なんだろうか?つまり僕はそっくりな偽物?

「鵺をおびき寄せるんだ」

「おびき寄せるって言ったってどこに?」

 彼はとん、と獅子王に見えるように本のある一点を指差す。どうやら本は地図帳だったらしい。僕はその町の名前を見て驚いた。おじいちゃんがかつて暮らしていた町だったからだ。元々ここに本家があったのだとおじいちゃんは言っていた。

「ここに噴水広場がある。ここは時間にならないと噴水の水は出ないんだ、つまり」

「鵺をこの中にうまくおびき寄せて水でやつを反射させるってことか?」

「そうだ。俺たちにならきっとできる」

「さすがだな!主人!!」

 この子はすごいな。僕とは真逆じゃないか。勇気があって、自分に自信もある。思わず羨ましいと思ってしまう。妬んでしまう。そんな僕は自分が大嫌いだ。弱くて泣き虫で、そしてねじ曲がっている。どうして僕は皆みたいに普通になれないんだろう?悔しい、そして悲しくて虚しい。惨めだ。僕はギュッと目を閉じた。どうしたらこの暗闇から抜け出せる?

「主人には主人の良さがあるだろう?」

 獅子王の少年らしい声が響く。僕の目の前には獅子王がいて、いつもみたいに、にかっと笑っていた。獅子王はいつでも笑っている。獅子王は平安に作られた刀だ。きっと辛いことや苦しいことだって沢山、たくさん経験してきているはずだ。でも獅子王は笑っている。僕に大丈夫だって言ってくれる。けど。

「僕の良さ…そんなの…」

 僕にいい所なんかない。探しても見つからない。獅子王が僕を抱き寄せてきて驚いた。僕は獅子王より小さいらしい。初めて知った。

「お前に分からないなら俺が言う。ちゃんと聞いとけよ?」

「し、獅子王、近いよ…」

 困って言ったらそれがいいんだろと笑われてしまった。獅子王が口を開く。

「主人は誰よりも優しい。気配り出来すぎるくらいだ。人の為に誰よりも行動できるし、気持ちも分かりすぎる。それって単純にすっげーよな!」

 僕の顔は多分真っ赤になっている。僕はオロオロしながら獅子王から離れようと彼の胸を押そうとして失敗した。獅子王が僕にぎゅっと抱きついてきたからだ。

「主人!俺はお前を尊敬してる!お前はすごい!自分から戦うって決めた!逃げるやつだって中にはいるのに」

「か、買い被り過ぎだよ」

「主人、お前はじっちゃんの記憶を見たんだな?」

「そうだ。ずっと聞きたかったんだけどじっちゃんって誰?僕に似てるって鵺も言ってたよね?」

 獅子王が腕を組む。

「じっちゃんは詩史のじっちゃんのじっちゃんのじっちゃんだ」

 そんなに前?僕は驚いてぽかんとした。それって150年くらいは余裕で経っている。

「まぁ俺の初めての主人もじっちゃんだったんだけどな」

 獅子王が笑う。

「俺は軽くて振るいやすい。だから主人たちから重宝されたんだ」

 確かに獅子王は軽い。僕はそれに頷いていた。

「ねえ、獅子王。なんで鵺は鏡に弱いの?」

「あいつは自分の容貌が嫌いなんだ。だから人間になりたいんだろうな」

 人間になりたい妖怪。昔のアニメであった気がするな。そんな事が可能なのかは分からないけれど。

「あの時、鵺を上手く噴水広場におびき出せたの?」

 獅子王が頷く。

「ああ、作戦は上手く行った。途中まではな。ただあいつを完全に葬れなかったんだ」

「でも、すごいよ」

「ああ!主人にもきっとできる!俺は信じている!」

 獅子王に両肩を叩かれて、僕は自室にいることに気が付いた。そうだ、課題をしていたんだ。ふと、窓が開いていることに気が付く。開けていないのに、なんで?嫌な感じがして振り向いたら黒いなにかに襲われた。

「うわあっ!!」

 咄嗟に叫んだら獅子王が反応する。

「主人!!」

 獅子王は軽いからあっさりと突き飛ばされてしまう。僕は黒いドロドロの中に閉じ込められた。どうしよう、どうすれば。息が苦しい。僕は意識を失っていた。
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