僕の死亡日記

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
12 / 22

十二話・決意

しおりを挟む
今日は学校の登校日だった。夏休みだけど学校に行くという不思議な行事だ。僕は久しぶりに制服に腕を通した。これを着たのは店で試着した時以来だったりする。特にきついということもなく、すっと着れたのがちょっとがっかりだった。このことを後でお母さんに言ったら、予め大きめに作ってもらったのだから当たり前だと笑われた。どうやら僕も成長期なんだと改めて自覚した。

階下に行くと、お母さんが驚いたような顔をした。だってこの僕が制服を着ているのだ。天変地異とまでは行かなくても、雪が降るくらいには思ったかもしれない。

「詩史のお弁当はこれね」

お母さんにお弁当の包みを渡される。

「ありがとう」

僕がご飯を貪っていると、眠たそうなパジャマ姿の兄さんがやってきた。

「おはよ。詩史、学校?」

ふああと大きな欠伸をして兄さんが尋ねてくる。兄さんが僕の様子に驚いてないのに僕は驚いていた。

「学校なんて八年ぶりだよ」

ふざけて言ったら兄さんがクスリと笑う。

「八年なんてお前ならすぐ取り返せるよ」

「そうかな?」

「俺が保証する。それに」

兄さんは僕の通学カバンをちらりと見て笑った。獅子王がちまっと顔を外に出して周りを窺っている。昨日、獅子王が学校は楽しいところなんだと力説していた。だから僕も少しだけならと思った。こうやって色々なことが変化していくのかもしれないな。朝ごはんを食べ終えた僕はごちそうさまをして家を出た。学校が怖くないわけじゃない。でも獅子王もいてくれるから大丈夫だって思えた。教室に入ると、周りの子達がしん、と静まり返った。まぁ、予想通りだ。自分の席すら分からない。困っていたら短髪の元気そうな子に声を掛けられた。

「なぁなぁ、お前が詩史?俺、そら!ずっとお前に会いたかったんだ!」

「空くん?」

「空でいいよ!俺の席の隣がお前の席だし、特別授業でも同じ班!よろしくな!」

空が手を差し伸べてくれる。そろっと掴んだらブンブン振られてびっくりした。

「なあなあ詩史、夏休みの間、どこかで遊ばねえ?俺、課題ばかりやっててさ」

空が言うには大好きなお兄さんに課題をまず片付けるように厳命されたらしい。そんなに好きになれるお兄さんもすごいな。僕も人のことは言えないけど。

「兄ちゃんは俺の憧れなんだ!!剣道で日本一なんだぜ!」

「すごいね!空も剣道やってるの?」

「俺はすごく弱いから恥ずかしいよ。よく兄ちゃんと比べられる」

しょんぼりと空が言う。僕は不思議だった。みんな、悩んだり迷ったり落ち込んだりしてるんだって初めて知った。当たり前だ、人間なんだから感情がある。でも僕はそれを知らなかった。僕以外の人はただ淡々と毎日をこなすものだと思っていた。

「空は偉いね…あ…なんだろう。変な意味じゃなくてさ」

つい上から目線になってしまった気がして慌てると、空が噴き出した。

「詩史ともっと早く会いたかったよ。夏休み終わってからも学校に来て欲しい」

まっすぐ言われて、僕は困った。出来ない約束ならしない方がいい。

「僕には無理だよ」

「詩史…」

空が心配そうな顔をしている。そこに担任がやってきて、僕に気が付いた。

「詩史、来てくれたのか!」

「はい」

先生は本当に嬉しそうだった。でも僕は大人を信じないって決めている。それから長いホームルームがあって、その後はみんなで教室や廊下の掃除をした。
お弁当を食べていると、空が羨ましそうにこちらを見つめてくる。

「詩史の弁当美味そー!俺の家の弁当ってなんていうか、地味なんだよね」

「おかず交換する?」

「いいのか?」

空が食べたがったのはハムでアスパラを巻いたやつだった。お母さんがよく作ってくれるから僕は食べ慣れている。僕は空からうずらのたまごのフライをもらった。

「へー、美味え!」

「空も自分で作れるんじゃないかな?」

「え!本当?」

「うん、アスパラは炒めて、ハムで巻くだけだと思う」

「そっかー!俺、料理は食べる専門でさ」

たはは、と空が困ったように言う。優しい子だな。僕みたいに捻れてないのがすごい。友達になれるかな?分からない。

「詩史、なんでバッグ、ずっと机に置いてあるんだ?」

それは獅子王のためだった。獅子王は教室の目まぐるしく変わる環境を眺めている。

「実は僕、刀剣使いでして」

「え!それもしかして、そういう設定ってやつ?」

空が上手く食い付いた。

「本当だよ」

「詩史は分かってるな!」

空とは帰る間際まで一緒だった。スマートフォンの連絡先も交換し合った。連絡来るかな?空は僕を嫌ってないだろうか。僕はこうして優しい人を疑ってしまうんだよな。悪い癖なのはわかっているつもりなんだけど。
それでも僕はとにかく心配で仕方がない。自分が裏切られないかって。

「主人、元気なお友達だな!」

「友達かはまだ分からないよ」

投げ捨てるように言ったら獅子王が黙ったまま見つめてきた。

「主人はなんでそんなに人を疑うんだ?主人は誰よりも優しいし、気配りだってできる」

「だからじゃないかな」

獅子王はしばらく考えて、そうかと呟いた。

「主人には色々分かりすぎるんだな」

「そうだよ」

こんな特性、僕には必要ないのに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

餅太郎の恐怖箱

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩20:20更新!(予定)

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...