僕の死亡日記

はやしかわともえ

文字の大きさ
上 下
5 / 22

五話・入院

しおりを挟む
病院に行って、傷口を縫ってもらったのはよかった。あまりに処置が痛過ぎて、僕は思わず泣いてしまった。怪我している部分だってすでに痛いのに、それを縫い合わせるために更に患部に注射針を刺して麻酔薬を入れるのだから当然だ。泣きながらじっとしてるのは難しくて、隣に座ってくれていた兄さんの腕にずっと掴まっていた。麻酔をしたら本当に感覚という物がなくなって怖かった。先生もめそめそ泣いている僕を不憫に思ったのか、するすると縫ってくれた。包帯を巻いてもらって、やっと処置室を出ることが出来た。まだ麻酔が効いているせいか、傷口は痛くない。今日の夜中に痛くなるかもと言われていた。でもこういう時って、大抵痛み止めの薬を出してもらえるはずだ。早く帰りたい。でも僕はお母さんに止められた。

「詩史、今日は大事を取って一晩入院しましょうって」

「なんで?ヤダ!ヤダヤダ!!」

お母さんがおろおろしているのが伝わってきたけれど、僕は早く家に帰りたくてしょうがなかった。知らない大人に囲まれるのが嫌だった。お母さんが僕を抱きしめる。

「詩史、明日の夕方迎えに来るわ。いい子にしてるのよ?」

お母さんは有無を言わせなかった。看護師さんたちに挨拶をして行ってしまった。兄さんも僕を心配そうにちらりと見てくる。

「詩史くん、お部屋に行きましょうか」

看護師さんが話しかけてくる。僕は渋々頷いた。 なんで入院しなきゃいけないんだろう。腑に落ちない。僕は内心でものすごく怒っていた。大人はいつも勝手だ。やっぱりちゃんと言わないと気が済まない。

「なんで僕は入院なんですか!兄さんは帰れたのに!!」

思わず口調がきつくなってしまった。看護師さんは動じない。僕の顔をしっかり見つめて優しく笑った。

「今日のことは本当に怖かったと思うの。怪我のこともあるし。傷口がくっつくまで君にはあまり動いてほしくないのよ。詩史くんはさっきまで痛みを感じてなかったよね?もしかしたらその原因に心が傷ついたせいもあるんじゃないかなって」

「僕の頭がおかしいってこと?」

看護師さんが首を横に振る。

「正常だからそういう反応が出るの。大丈夫、すぐ退院できるからね」

看護師さんに頭を撫でられて、僕は急に恥ずかしくなった。なんだか幼い子供扱いされたみたいだったからだ。僕はもう15歳なのに。いや、看護師さんにとっては患者さんはみんな子供みたいなものなのかも。自分のベッドのある部屋に入ると、僕のショルダーバッグが置いてあった。お母さんが持ってきてくれたらしい。僕の大事なものは大抵この中に入れるようにしている。
入院着に着替えて、僕はベッドに横になった。
そうだ。明日には帰れるんだ。今は諦めて眠ろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪詛人形

斉木 京
ホラー
大学生のユウコは意中のタイチに近づくため、親友のミナに仲を取り持つように頼んだ。 だが皮肉にも、その事でタイチとミナは付き合う事になってしまう。 逆恨みしたユウコはインターネットのあるサイトで、贈った相手を確実に破滅させるという人形を偶然見つける。 ユウコは人形を購入し、ミナに送り付けるが・・・

猫屋敷

ツヨシ
ホラー
私の家は猫屋敷になりました。

ダルマさんが消えた

猫町氷柱
ホラー
ダルマさんが転んだの裏側には隠された都市伝説があった。都市伝説実践配信者の頬月 唯は実際に検証しその日を境に姿をくらましてしまう。一体彼女の身に何が起きたのだろうか。

狙われた女

ツヨシ
ホラー
私は誰かに狙われている

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

鈴落ちの洞窟

山村京二
ホラー
ランタンの灯りが照らした洞窟の先には何が隠されているのか 雪深い集落に伝わる洞窟の噂。凍えるような寒さに身を寄せ合って飢えを凌いでいた。 集落を守るため、生きるために山へ出かけた男たちが次々と姿を消していく。 洞窟の入り口に残された熊除けの鈴と奇妙な謎。 かつては墓場代わりに使われていたという洞窟には何が隠されているのか。 夫を失った妻が口にした不可解な言葉とは。本当の恐怖は洞窟の中にあるのだろうか。

幽霊船の女

ツヨシ
ホラー
海を漂う幽霊船に女がいた。

ホラー短編集

緒方宗谷
ホラー
気付かない内に足を踏み入れてしまった怨霊の世界。

処理中です...