16 / 18
第三話「トウマの想い〜イヴの過去」
トウマとレイラ
しおりを挟む
ラクサスに戻って来てからのレイラ達は大変だった。
辺りにすっかり雪が積もってしまっているうえに、ろくに食料も用意していなかったのである。
そこに大雪の日が数日続いてしまい、家から出ることもままならなかったのだ。
晴れた日に、雪をかいて、薪をひたすら割り、畑にある野菜を採ってなんとか飢えをしのいだ。
「明日なら街に下りれそうですね」
夜、ラウが夕飯を食べながら言う。ラウは雪があろうがなかろうが仕事がある。
馬でどこへでも行ってしまうのだからすごい。
「本当ですか?」
「はい、しばらく雪も降らないでしょうし、明日動きましょう」
「よかった」
そろそろ食料にも限界が来ていたのでレイラはほっと息をついた。
なるべく子供達には美味しいものを食べさせてあげたい。
ラクサスは普段暮らすには過酷な環境だ。
それでもホテルの客の入りはいいようだ。
スキーをする旅行客で絶えないとラウからは聞いている。
ラクサスで遊んでもらって、また来たいと思ってもらえるのが何よりも大事だ。
レイラはラウの為に風呂を沸かすことにした。
「レイラ様」
外に行くとトウマが真っ赤な顔をして佇んでいた。
「トウマ?どうしたんだ?寝ていたんじゃ」
彼の頬を触るととても冷たい。慌ててレイラは彼を中に引き入れる。このままでは風邪を引いてしまう。
レイラは屈んで聞いた。
「俺に話したいことがあるのか?」
「うん」
トウマは頷いた。レイラは彼を抱きしめる。
「なにかあったか?」
「イヴのこと、俺、大好きで」
「そっか」
あくまでも知っていたとは言えない状況である。
「俺、イヴを守れる男になりたいんだ。そう、兄さんみたいな」
「うん、分かるよ」
トウマの一番の目標はずっとラウだ。
レイラは彼を見つめた。
「きっとトウマなら大丈夫」
「それでね、俺、ここを出ようと思う」
「え?」
その言葉にレイラは固まった。トウマが家を出る、その事実を受け入れられなかった。
「でも、まだ早いんじゃ」
「いいと思いますよ」
後ろからラウがやってくる。
ずっと聞いていたのだろうか。
「カヤがトウマと同じ頃に中央に出ています。早すぎることはないと思いますよ」
「ラウ様」
「トウマ、中央に行くのなら、相当な覚悟が必要だよ。わかってるかな?」
ラウの優しい、厳しい言葉にトウマは目を泳がせた。
「俺、カヤ様から聞いたんだ。いろいろ勉強もできるからって」
「そっか」
トウマは改めてまっすぐ二人を見つめた。
「俺、中央に行く。行って修行する」
もうレイラに彼を止める理由はなかった。
次の日、レイラ達は街に下りていた。
いつものように食料を買い込み、最後にお菓子屋に入る。
トウマがイヴに中央に行くことを告げられるのかレイラは一人ひやひやしていた。
「トウマ、このお菓子は?」
「うん。イヴが好きな奴にしたらいい」
「トウマ?なんかおかしいよ?」
さすがイヴである。すぐに気が付いた。
レイラは間に入ろうかとも思ったがラウにそっと止められる。
「うん、俺ね中央に行くんだ」
「え?・・・」
イヴがぴたっと止まる。
「どういうこと?」
「中央に修行に行く。イヴを守りたいから」
「トウマは今だってあたしを守ってくれてるじゃない」
「今のままじゃ足りないんだ。俺、兄さんやカヤ様のようになりたい」
「トウマ・・そんな。トウマ・・」
イヴが必死に泣くのを堪えているのが見ているレイラにも辛かった。
「ごめんイヴ。俺、ちゃんと強くなるから」
「トウマ、うん。約束だよ」
「ああ、約束する」
二人はぎゅっと抱きしめあう。
レイラも思わず涙がこぼれた。
「二人は上手くやっていけそうですね」
そっとラウに言われて頷く。
子供達のたくましさにレイラはいつも救われて来た。それはこれからもだ。
それから話は進み、トウマは春にラクサスを発つことが決まった。
「じゃあ、行ってくるよ」
「トウマ、行ってらっしゃい」
ある春の日、トウマが出発する日が来ていた。
カヤが馬で迎えに来てくれている。
トウマはカヤの前に乗った。
「兄さん、トウマを頼むよ」
「任せとけよ。トウマは絶対強くなる」
「カヤ、弟をよろしくお願いします」
「ラウもたまには中央に来いよな」
「もちろんです」
イヴは泣いていた。レイラが彼女を抱き寄せるとしがみついてくる。
後ろ姿が小さくなっていく。
「イヴ、トウマはさよならをしたんじゃないぞ」
「違うの?」
「これから大きくなるお前を守るために行ったんだ」
「うん・・・あたし大きくなるよ」
「ああ、そうだな」
レイラはトウマを誇らしい気持ちで送り出した。
きっと彼は帰ってくる。今より立派に大きくなって。
おわり
辺りにすっかり雪が積もってしまっているうえに、ろくに食料も用意していなかったのである。
そこに大雪の日が数日続いてしまい、家から出ることもままならなかったのだ。
晴れた日に、雪をかいて、薪をひたすら割り、畑にある野菜を採ってなんとか飢えをしのいだ。
「明日なら街に下りれそうですね」
夜、ラウが夕飯を食べながら言う。ラウは雪があろうがなかろうが仕事がある。
馬でどこへでも行ってしまうのだからすごい。
「本当ですか?」
「はい、しばらく雪も降らないでしょうし、明日動きましょう」
「よかった」
そろそろ食料にも限界が来ていたのでレイラはほっと息をついた。
なるべく子供達には美味しいものを食べさせてあげたい。
ラクサスは普段暮らすには過酷な環境だ。
それでもホテルの客の入りはいいようだ。
スキーをする旅行客で絶えないとラウからは聞いている。
ラクサスで遊んでもらって、また来たいと思ってもらえるのが何よりも大事だ。
レイラはラウの為に風呂を沸かすことにした。
「レイラ様」
外に行くとトウマが真っ赤な顔をして佇んでいた。
「トウマ?どうしたんだ?寝ていたんじゃ」
彼の頬を触るととても冷たい。慌ててレイラは彼を中に引き入れる。このままでは風邪を引いてしまう。
レイラは屈んで聞いた。
「俺に話したいことがあるのか?」
「うん」
トウマは頷いた。レイラは彼を抱きしめる。
「なにかあったか?」
「イヴのこと、俺、大好きで」
「そっか」
あくまでも知っていたとは言えない状況である。
「俺、イヴを守れる男になりたいんだ。そう、兄さんみたいな」
「うん、分かるよ」
トウマの一番の目標はずっとラウだ。
レイラは彼を見つめた。
「きっとトウマなら大丈夫」
「それでね、俺、ここを出ようと思う」
「え?」
その言葉にレイラは固まった。トウマが家を出る、その事実を受け入れられなかった。
「でも、まだ早いんじゃ」
「いいと思いますよ」
後ろからラウがやってくる。
ずっと聞いていたのだろうか。
「カヤがトウマと同じ頃に中央に出ています。早すぎることはないと思いますよ」
「ラウ様」
「トウマ、中央に行くのなら、相当な覚悟が必要だよ。わかってるかな?」
ラウの優しい、厳しい言葉にトウマは目を泳がせた。
「俺、カヤ様から聞いたんだ。いろいろ勉強もできるからって」
「そっか」
トウマは改めてまっすぐ二人を見つめた。
「俺、中央に行く。行って修行する」
もうレイラに彼を止める理由はなかった。
次の日、レイラ達は街に下りていた。
いつものように食料を買い込み、最後にお菓子屋に入る。
トウマがイヴに中央に行くことを告げられるのかレイラは一人ひやひやしていた。
「トウマ、このお菓子は?」
「うん。イヴが好きな奴にしたらいい」
「トウマ?なんかおかしいよ?」
さすがイヴである。すぐに気が付いた。
レイラは間に入ろうかとも思ったがラウにそっと止められる。
「うん、俺ね中央に行くんだ」
「え?・・・」
イヴがぴたっと止まる。
「どういうこと?」
「中央に修行に行く。イヴを守りたいから」
「トウマは今だってあたしを守ってくれてるじゃない」
「今のままじゃ足りないんだ。俺、兄さんやカヤ様のようになりたい」
「トウマ・・そんな。トウマ・・」
イヴが必死に泣くのを堪えているのが見ているレイラにも辛かった。
「ごめんイヴ。俺、ちゃんと強くなるから」
「トウマ、うん。約束だよ」
「ああ、約束する」
二人はぎゅっと抱きしめあう。
レイラも思わず涙がこぼれた。
「二人は上手くやっていけそうですね」
そっとラウに言われて頷く。
子供達のたくましさにレイラはいつも救われて来た。それはこれからもだ。
それから話は進み、トウマは春にラクサスを発つことが決まった。
「じゃあ、行ってくるよ」
「トウマ、行ってらっしゃい」
ある春の日、トウマが出発する日が来ていた。
カヤが馬で迎えに来てくれている。
トウマはカヤの前に乗った。
「兄さん、トウマを頼むよ」
「任せとけよ。トウマは絶対強くなる」
「カヤ、弟をよろしくお願いします」
「ラウもたまには中央に来いよな」
「もちろんです」
イヴは泣いていた。レイラが彼女を抱き寄せるとしがみついてくる。
後ろ姿が小さくなっていく。
「イヴ、トウマはさよならをしたんじゃないぞ」
「違うの?」
「これから大きくなるお前を守るために行ったんだ」
「うん・・・あたし大きくなるよ」
「ああ、そうだな」
レイラはトウマを誇らしい気持ちで送り出した。
きっと彼は帰ってくる。今より立派に大きくなって。
おわり
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話
こじらせた処女
BL
網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。
ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
俺のソフレは最強らしい。
深川根墨
BL
極度の不眠症である主人公、照国京は誰かに添い寝をしてもらわなければ充分な睡眠を得ることができない身体だった。京は質の良い睡眠を求め、マッチングサイトで出会った女の子と添い寝フレンド契約を結び、暮らしていた。
そんなある日ソフレを失い困り果てる京だったが、ガタイの良い泥棒──ゼロが部屋に侵入してきた!
え⁉︎ 何でベランダから⁉︎ この部屋六階なんやけど⁉︎
紆余曲折あり、ゼロとソフレ関係になった京。生活力無しのゼロとの生活は意外に順調だったが、どうやらゼロには大きな秘密があるようで……。
ノンケ素直な関西弁 × 寡黙で屈強な泥棒(?)
※処女作です。拙い点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。
※エロ少しあります……ちょびっとです。
※流血、暴力シーン有りです。お気をつけください。
2022/02/25 本編完結しました。ありがとうございました。あと番外編SS数話投稿します。
2022/03/01 完結しました。皆さんありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる