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第三話「トウマの想い〜イヴの過去」

トウマとレイラ

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ラクサスに戻って来てからのレイラ達は大変だった。
辺りにすっかり雪が積もってしまっているうえに、ろくに食料も用意していなかったのである。
そこに大雪の日が数日続いてしまい、家から出ることもままならなかったのだ。
晴れた日に、雪をかいて、薪をひたすら割り、畑にある野菜を採ってなんとか飢えをしのいだ。

「明日なら街に下りれそうですね」

夜、ラウが夕飯を食べながら言う。ラウは雪があろうがなかろうが仕事がある。
馬でどこへでも行ってしまうのだからすごい。

「本当ですか?」

「はい、しばらく雪も降らないでしょうし、明日動きましょう」

「よかった」

そろそろ食料にも限界が来ていたのでレイラはほっと息をついた。
なるべく子供達には美味しいものを食べさせてあげたい。
ラクサスは普段暮らすには過酷な環境だ。
それでもホテルの客の入りはいいようだ。
スキーをする旅行客で絶えないとラウからは聞いている。
ラクサスで遊んでもらって、また来たいと思ってもらえるのが何よりも大事だ。

レイラはラウの為に風呂を沸かすことにした。

「レイラ様」

外に行くとトウマが真っ赤な顔をして佇んでいた。

「トウマ?どうしたんだ?寝ていたんじゃ」

彼の頬を触るととても冷たい。慌ててレイラは彼を中に引き入れる。このままでは風邪を引いてしまう。
レイラは屈んで聞いた。

「俺に話したいことがあるのか?」

「うん」

トウマは頷いた。レイラは彼を抱きしめる。


「なにかあったか?」

「イヴのこと、俺、大好きで」

「そっか」

あくまでも知っていたとは言えない状況である。

「俺、イヴを守れる男になりたいんだ。そう、兄さんみたいな」

「うん、分かるよ」

トウマの一番の目標はずっとラウだ。
レイラは彼を見つめた。

「きっとトウマなら大丈夫」

「それでね、俺、ここを出ようと思う」

「え?」

その言葉にレイラは固まった。トウマが家を出る、その事実を受け入れられなかった。

「でも、まだ早いんじゃ」

「いいと思いますよ」

後ろからラウがやってくる。
ずっと聞いていたのだろうか。

「カヤがトウマと同じ頃に中央に出ています。早すぎることはないと思いますよ」

「ラウ様」

「トウマ、中央に行くのなら、相当な覚悟が必要だよ。わかってるかな?」

ラウの優しい、厳しい言葉にトウマは目を泳がせた。

「俺、カヤ様から聞いたんだ。いろいろ勉強もできるからって」

「そっか」

トウマは改めてまっすぐ二人を見つめた。

「俺、中央に行く。行って修行する」

もうレイラに彼を止める理由はなかった。


次の日、レイラ達は街に下りていた。
いつものように食料を買い込み、最後にお菓子屋に入る。
トウマがイヴに中央に行くことを告げられるのかレイラは一人ひやひやしていた。

「トウマ、このお菓子は?」

「うん。イヴが好きな奴にしたらいい」

「トウマ?なんかおかしいよ?」

さすがイヴである。すぐに気が付いた。
レイラは間に入ろうかとも思ったがラウにそっと止められる。

「うん、俺ね中央に行くんだ」

「え?・・・」

イヴがぴたっと止まる。

「どういうこと?」

「中央に修行に行く。イヴを守りたいから」

「トウマは今だってあたしを守ってくれてるじゃない」

「今のままじゃ足りないんだ。俺、兄さんやカヤ様のようになりたい」

「トウマ・・そんな。トウマ・・」

イヴが必死に泣くのを堪えているのが見ているレイラにも辛かった。

「ごめんイヴ。俺、ちゃんと強くなるから」

「トウマ、うん。約束だよ」

「ああ、約束する」

二人はぎゅっと抱きしめあう。
レイラも思わず涙がこぼれた。

「二人は上手くやっていけそうですね」

そっとラウに言われて頷く。
子供達のたくましさにレイラはいつも救われて来た。それはこれからもだ。

それから話は進み、トウマは春にラクサスを発つことが決まった。




「じゃあ、行ってくるよ」

「トウマ、行ってらっしゃい」

ある春の日、トウマが出発する日が来ていた。
カヤが馬で迎えに来てくれている。
トウマはカヤの前に乗った。

「兄さん、トウマを頼むよ」

「任せとけよ。トウマは絶対強くなる」

「カヤ、弟をよろしくお願いします」

「ラウもたまには中央に来いよな」

「もちろんです」


イヴは泣いていた。レイラが彼女を抱き寄せるとしがみついてくる。
後ろ姿が小さくなっていく。

「イヴ、トウマはさよならをしたんじゃないぞ」

「違うの?」

「これから大きくなるお前を守るために行ったんだ」

「うん・・・あたし大きくなるよ」

「ああ、そうだな」

レイラはトウマを誇らしい気持ちで送り出した。
きっと彼は帰ってくる。今より立派に大きくなって。

おわり
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