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第三話「トウマの想い〜イヴの過去」
アメリアの家にて
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ある日、レイラが夕飯の仕込みを台所でしていると、トウマがふらっとやってきた。
今は部屋で勉強をしていたはずだ。
少し休憩に来たのかな、とレイラは思ったのだが彼の表情を見て、そうではないことに気が付いた。
「トウマ、ちょっと休憩にしないか?」
そう声を掛けるとトウマが頷いてくれた。
いつもであれば勉強があるからと断られるので、珍しいななんてレイラは思う。
今日はみんなの為にレイラはアップルパイに挑戦していた。
サチにこの間、レシピを教えてもらったのだ。
「今日はアップルパイを焼いてみたんだ」
「レイラ様、俺・・・」
お茶の用意をしてレイラがトウマの対面に座るとトウマがそう切り出してきた。
今、イヴは昼寝をしている時間だ。
その時間を狙ったかのようなタイミングにトウマの意図を感じる。
レイラは彼を待った。
急かしたら彼は話してくれない、そう思った。
「イヴのことなんだけど」
ようやく彼は、こうぽつりと漏らした。
「イヴがどうかしたか?」
「アメリアさんとイヴが話していたんだ。妖精の泉のこと」
レイラはあまり驚かなかった。なんとなく予想はついていたからだ。
アメリアとイヴの共通の話題、それは彼女たちが暮らしていた泉のことになるだろう。
トウマはレイラが驚かないことに驚いたようだ。
「レイラ様は、びっくりしないんだね」
「うん、でもイヴとアメリアさんが何を話していたのかは知っておきたい。
話してくれるか?トウマ」
「うん」
トウマが話してくれたことで分かったのは、イヴが泉を消そうとしていることだった。
泉をはじめからなかったことにするというのだ。
そうすることによって、イヴはますます人間に近付くらしい。
「トウマはどう思う?」
それを聞いてレイラがトウマにそう尋ねると、トウマはしばらく考えてこう言った。
「俺は今のイヴが好きだからイヴのしたいようにすればいいと思う」
「なるほど」
トウマの言う「好き」は自分とラウの間にある「好き」と同じものだろうとレイラは感じていた。
イヴとトウマがお互いに好きあっていることはレイラにもよく分かっている。
だからこそイヴはトウマと同じ人間になりたいのだろう。
「一回、泉にみんなで行ってみようか」
「え?」
トウマが驚くのは無理もない。泉は空想上のものとされている。
だがそこは確かにある。イヴがそこにいたのだから間違いない。
「今日ラウ様が帰ってきたら相談してみよう」
「いいにおいするー」
ふわわと欠伸をしながらイヴがやってくる。
「イヴ、今日のおやつはアップルパイだぞ」
「わあい」
トウマとはまた隙を見て二人で話すことにして、レイラはイヴのおやつの支度をした。
「なるほど」
夜、ラウが帰ってきてレイラは昼間の話をした。
ラウは今日もあちこち行かなければならなかっただろうに、こうしてレイラの話に耳を傾けてくれる。
これも毎日の日課になっている。
「泉を消してしまうというのは寂しい話ですね」
その言葉を聞いてレイラも全く同じ気持ちになった。
妖精の泉があったからこそ、今の家族の形になった。
泉がなければ、イヴとも出会えていない。
「私もレイラさん達ともう一度泉に行ってみたかったんです。今回はその最後の機会になってしまうのでしょうか。もしそうだとしたら、行ってみましょう」
「お仕事の都合は大丈夫なんですか?」
ラウは忙しい。一応伯爵だ。
「都合を付けられるようにやってみましょう」
「わあ、ありがとうございます」
レイラはラウに頭を下げた。
本当にこの人には頭が上がらない。
「レイラさん」
名前を呼ばれてレイラは頭を上げた。
ちゅ、と頬にキスされる。
「レイラさん、もうしばらく家のことは任せます」」
「はい。俺、頑張ります。あ、それと」
レイラはトウマの様子を話した。
最近表情が豊かになってきたこと、レイラに自分の気持ちを話せるようになってきたこともだ。
「トウマが元気になってくれるのは嬉しいことです。あの子はイヴさんが好きなようですね」
その鋭い指摘にレイラは驚いた。
さすが血の繋がった兄である。
「イヴさんもトウマを好いてくれている。嬉しいことです」
にっこりラウは笑った。
「ただ本人達が気が付いていないのがもどかしいですね」
ラウが拳を開いたり握ったりしている。
その仕草にレイラは思わず笑ってしまった。
「今、夕飯の用意をしますね」
「はい。今日はなんでしょう。楽しみです」
こうして夜は更けていった。
今は部屋で勉強をしていたはずだ。
少し休憩に来たのかな、とレイラは思ったのだが彼の表情を見て、そうではないことに気が付いた。
「トウマ、ちょっと休憩にしないか?」
そう声を掛けるとトウマが頷いてくれた。
いつもであれば勉強があるからと断られるので、珍しいななんてレイラは思う。
今日はみんなの為にレイラはアップルパイに挑戦していた。
サチにこの間、レシピを教えてもらったのだ。
「今日はアップルパイを焼いてみたんだ」
「レイラ様、俺・・・」
お茶の用意をしてレイラがトウマの対面に座るとトウマがそう切り出してきた。
今、イヴは昼寝をしている時間だ。
その時間を狙ったかのようなタイミングにトウマの意図を感じる。
レイラは彼を待った。
急かしたら彼は話してくれない、そう思った。
「イヴのことなんだけど」
ようやく彼は、こうぽつりと漏らした。
「イヴがどうかしたか?」
「アメリアさんとイヴが話していたんだ。妖精の泉のこと」
レイラはあまり驚かなかった。なんとなく予想はついていたからだ。
アメリアとイヴの共通の話題、それは彼女たちが暮らしていた泉のことになるだろう。
トウマはレイラが驚かないことに驚いたようだ。
「レイラ様は、びっくりしないんだね」
「うん、でもイヴとアメリアさんが何を話していたのかは知っておきたい。
話してくれるか?トウマ」
「うん」
トウマが話してくれたことで分かったのは、イヴが泉を消そうとしていることだった。
泉をはじめからなかったことにするというのだ。
そうすることによって、イヴはますます人間に近付くらしい。
「トウマはどう思う?」
それを聞いてレイラがトウマにそう尋ねると、トウマはしばらく考えてこう言った。
「俺は今のイヴが好きだからイヴのしたいようにすればいいと思う」
「なるほど」
トウマの言う「好き」は自分とラウの間にある「好き」と同じものだろうとレイラは感じていた。
イヴとトウマがお互いに好きあっていることはレイラにもよく分かっている。
だからこそイヴはトウマと同じ人間になりたいのだろう。
「一回、泉にみんなで行ってみようか」
「え?」
トウマが驚くのは無理もない。泉は空想上のものとされている。
だがそこは確かにある。イヴがそこにいたのだから間違いない。
「今日ラウ様が帰ってきたら相談してみよう」
「いいにおいするー」
ふわわと欠伸をしながらイヴがやってくる。
「イヴ、今日のおやつはアップルパイだぞ」
「わあい」
トウマとはまた隙を見て二人で話すことにして、レイラはイヴのおやつの支度をした。
「なるほど」
夜、ラウが帰ってきてレイラは昼間の話をした。
ラウは今日もあちこち行かなければならなかっただろうに、こうしてレイラの話に耳を傾けてくれる。
これも毎日の日課になっている。
「泉を消してしまうというのは寂しい話ですね」
その言葉を聞いてレイラも全く同じ気持ちになった。
妖精の泉があったからこそ、今の家族の形になった。
泉がなければ、イヴとも出会えていない。
「私もレイラさん達ともう一度泉に行ってみたかったんです。今回はその最後の機会になってしまうのでしょうか。もしそうだとしたら、行ってみましょう」
「お仕事の都合は大丈夫なんですか?」
ラウは忙しい。一応伯爵だ。
「都合を付けられるようにやってみましょう」
「わあ、ありがとうございます」
レイラはラウに頭を下げた。
本当にこの人には頭が上がらない。
「レイラさん」
名前を呼ばれてレイラは頭を上げた。
ちゅ、と頬にキスされる。
「レイラさん、もうしばらく家のことは任せます」」
「はい。俺、頑張ります。あ、それと」
レイラはトウマの様子を話した。
最近表情が豊かになってきたこと、レイラに自分の気持ちを話せるようになってきたこともだ。
「トウマが元気になってくれるのは嬉しいことです。あの子はイヴさんが好きなようですね」
その鋭い指摘にレイラは驚いた。
さすが血の繋がった兄である。
「イヴさんもトウマを好いてくれている。嬉しいことです」
にっこりラウは笑った。
「ただ本人達が気が付いていないのがもどかしいですね」
ラウが拳を開いたり握ったりしている。
その仕草にレイラは思わず笑ってしまった。
「今、夕飯の用意をしますね」
「はい。今日はなんでしょう。楽しみです」
こうして夜は更けていった。
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