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手紙①

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その日の夜、布団に入ったら隣にいる瑠馬先生が俺の頭を撫でながらこんな話をしてくれた。

「たっくんは知らないかもしれないけれど、僕と君が最初に出会ったのはあの図書館じゃないんだよ」

「え?そうなんですか?」

「うん。いつも君が行く大きな本屋さん、あるだろう?」

「はい」

「君が中学生くらいの時に僕は君に気が付いたんだ。毎回僕が本屋に行くと君がいて、必ずミステリー小説を品定めしていてね。文庫本を嬉しそうにレジに持っていくところも何度か見かけたよ」

ふふふ、と瑠馬先生が笑う。

「この子は本当に読書が好きなんだなって勝手に親近感を覚えていたよ」

なんだかそれ、すごく恥ずかしいな。

「だから偶然図書館で会った時、僕はとっても驚いた。
君は随分大きくなっていたし、しかも自分の借りたいはずの本を僕に譲ってくれようとしたのだからね。
僕はその直前位まで旅に出ていたから君と縁を繋ぐなら今しかないと思ってあの時は必死だったんだよ」

「嬉しいです、そう思っていてくれていたなんて」

瑠馬先生が俺を抱き寄せる。
石鹸の香りがした。

「たっくん、明日も頑張ろう。
おやすみ…」

瑠馬先生が目を閉じる。
きっと疲れていたんだろうな。
俺もクタクタだった。
早く眠ろう、明日も早い。


✣✣✣

G県滞在3日目ー

「む…ナビがあって助かったよ!」

瑠馬先生が駐車場に車を停める。
ここから歩きのようだ。
被害者・ヤハリサキさんの家はケーキ屋を営んでいたらしい。今はどうなんだろう。
その店は寂れた商店街のなかにぽつんとあった。

中を見ると灯りが点いている。
誰かしらはいそうだな。

「行ってみよう」

瑠馬先生が店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

中にいたのは小さなおばあさんだった。ショーケースには色々なケーキが並んでいる。

「ちょっと待ってくださいねー。今息子が来ますから」

ドタドタと奥から誰かがやってくる。
現れたのはおじさんだった。

「見ない顔だね、
お客さん…じゃないんだろう?マスコミにも見えないしね」

ふうむ、とおじさんが首を傾げている。勘のいい人だな。

「ヤハリさん、ですよね。
僕は伊藤瑠馬という者です。
サキさんについて話が聞きたいのです。もちろんケーキも買わせてください」

瑠馬先生の言葉にヤハリさんの顔に影が差す。時が経っているから分かりづらいけれど、サキさんはヤハリさんの奥さんだ。

「とりあえず奥へ」

ヤハリさんに促されて、俺達は裏から家にお邪魔した。

「今更、サキについてほじくり返す人がいるとはね」

「申し訳ありません。ただ気になってしまって」

ヤハリさんは困ったように笑って、立ち上がった。

「犯人から手紙が来たんですよ」

そう言って取り出したのは白い封筒だった。あの封筒には見覚えがある。
瑠馬先生は彼から封筒を受け取って言った。

「拝見します」

中にはこの前と同じく、いろは唄が書かれていた。筆跡も同じだと思う。

「もう訳が分からんですよ。
朝起きたらサキが首を吊ってすでに事切れてました。
悪夢でした」

瑠馬先生が彼を見つめて頷く。

「自殺かと思っていたら、洗脳による殺人だなんて警察から言われてね。
でも先生にはずっと良くして頂いていたから信じられない話でした」

本城マサヒコ先生は本当に優しい先生だったんだな。

「きっと何かの間違いだと思っていましたが、先生も亡くなってしまい、時間ばかり経って…」

ヤハリさんはずっとこのことを誰かに話したかったんだろうな。
彼の表情から少し影が消えたように思う。

「洗脳されていてもされていなくてもサキはいずれ死んでいました。
あいつは人生に疲れていましたから」

「この手紙、お借りしても?」

「えぇ、構いませんよ。
何か分かるなら私も知りたい。
先生を恨んではいません。ただなんであんな手紙を遺したのか…」


ーーー

「こ、こんなに沢山買って頂いて」

「僕はケーキが大好きなんです!
今日は貴重なお話、ありがとうございました。これ、僕の連絡先です。
では!」

瑠馬先生がケーキの入った大きな箱を受け取る。
とりあえず一件目は無事終わったようだ。
でもまた謎が増えてしまった。
でも瑠馬先生の足取りは軽い。

「たっくん、こんなにケーキがあるなんて幸せだよ!
ふふ、一人4つはあるね!」

あ…この人、こういう人だった。

「たっくんはどのケーキがいいかな?
好きなものを取るといいよ!」

「あ、ありがとうございます」

このままで大丈夫かな?
俺達は車に戻ったのだった。
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