上 下
31 / 41
5

手紙①

しおりを挟む
その日の夜、布団に入ったら隣にいる瑠馬先生が俺の頭を撫でながらこんな話をしてくれた。

「たっくんは知らないかもしれないけれど、僕と君が最初に出会ったのはあの図書館じゃないんだよ」

「え?そうなんですか?」

「うん。いつも君が行く大きな本屋さん、あるだろう?」

「はい」

「君が中学生くらいの時に僕は君に気が付いたんだ。毎回僕が本屋に行くと君がいて、必ずミステリー小説を品定めしていてね。文庫本を嬉しそうにレジに持っていくところも何度か見かけたよ」

ふふふ、と瑠馬先生が笑う。

「この子は本当に読書が好きなんだなって勝手に親近感を覚えていたよ」

なんだかそれ、すごく恥ずかしいな。

「だから偶然図書館で会った時、僕はとっても驚いた。
君は随分大きくなっていたし、しかも自分の借りたいはずの本を僕に譲ってくれようとしたのだからね。
僕はその直前位まで旅に出ていたから君と縁を繋ぐなら今しかないと思ってあの時は必死だったんだよ」

「嬉しいです、そう思っていてくれていたなんて」

瑠馬先生が俺を抱き寄せる。
石鹸の香りがした。

「たっくん、明日も頑張ろう。
おやすみ…」

瑠馬先生が目を閉じる。
きっと疲れていたんだろうな。
俺もクタクタだった。
早く眠ろう、明日も早い。


✣✣✣

G県滞在3日目ー

「む…ナビがあって助かったよ!」

瑠馬先生が駐車場に車を停める。
ここから歩きのようだ。
被害者・ヤハリサキさんの家はケーキ屋を営んでいたらしい。今はどうなんだろう。
その店は寂れた商店街のなかにぽつんとあった。

中を見ると灯りが点いている。
誰かしらはいそうだな。

「行ってみよう」

瑠馬先生が店のドアを開けた。

「いらっしゃいませ」

中にいたのは小さなおばあさんだった。ショーケースには色々なケーキが並んでいる。

「ちょっと待ってくださいねー。今息子が来ますから」

ドタドタと奥から誰かがやってくる。
現れたのはおじさんだった。

「見ない顔だね、
お客さん…じゃないんだろう?マスコミにも見えないしね」

ふうむ、とおじさんが首を傾げている。勘のいい人だな。

「ヤハリさん、ですよね。
僕は伊藤瑠馬という者です。
サキさんについて話が聞きたいのです。もちろんケーキも買わせてください」

瑠馬先生の言葉にヤハリさんの顔に影が差す。時が経っているから分かりづらいけれど、サキさんはヤハリさんの奥さんだ。

「とりあえず奥へ」

ヤハリさんに促されて、俺達は裏から家にお邪魔した。

「今更、サキについてほじくり返す人がいるとはね」

「申し訳ありません。ただ気になってしまって」

ヤハリさんは困ったように笑って、立ち上がった。

「犯人から手紙が来たんですよ」

そう言って取り出したのは白い封筒だった。あの封筒には見覚えがある。
瑠馬先生は彼から封筒を受け取って言った。

「拝見します」

中にはこの前と同じく、いろは唄が書かれていた。筆跡も同じだと思う。

「もう訳が分からんですよ。
朝起きたらサキが首を吊ってすでに事切れてました。
悪夢でした」

瑠馬先生が彼を見つめて頷く。

「自殺かと思っていたら、洗脳による殺人だなんて警察から言われてね。
でも先生にはずっと良くして頂いていたから信じられない話でした」

本城マサヒコ先生は本当に優しい先生だったんだな。

「きっと何かの間違いだと思っていましたが、先生も亡くなってしまい、時間ばかり経って…」

ヤハリさんはずっとこのことを誰かに話したかったんだろうな。
彼の表情から少し影が消えたように思う。

「洗脳されていてもされていなくてもサキはいずれ死んでいました。
あいつは人生に疲れていましたから」

「この手紙、お借りしても?」

「えぇ、構いませんよ。
何か分かるなら私も知りたい。
先生を恨んではいません。ただなんであんな手紙を遺したのか…」


ーーー

「こ、こんなに沢山買って頂いて」

「僕はケーキが大好きなんです!
今日は貴重なお話、ありがとうございました。これ、僕の連絡先です。
では!」

瑠馬先生がケーキの入った大きな箱を受け取る。
とりあえず一件目は無事終わったようだ。
でもまた謎が増えてしまった。
でも瑠馬先生の足取りは軽い。

「たっくん、こんなにケーキがあるなんて幸せだよ!
ふふ、一人4つはあるね!」

あ…この人、こういう人だった。

「たっくんはどのケーキがいいかな?
好きなものを取るといいよ!」

「あ、ありがとうございます」

このままで大丈夫かな?
俺達は車に戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...